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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

20最終話

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 帰りの馬車の中。

 魔法オタクのスペッサはさっきの魔法に興奮してはしゃいでいた。

「やっぱりヴィラはすごいね~!今度はボクが風魔法をかけるから、一緒にやろうよ。ライバン兄様にも見せてあげよう~」
「はいですの」
「初めての共同作業だね~」
「おい、待て」

 トンガリ君が待ったをかけた。

「初めての共同作業とか、夫婦みたいな事言うな」
「な~に?トンガリ君は魔力0だから悔しいの~?」」
「うっ」

 2人が相変わらずケンカしている中、髪と目の色を戻したジェードは1人静かに窓の外を見ている。落ち込んでる様にも見える。

「どうしたんですの?」
「いや、ヴィラトリア嬢はすごいなと思って」
「何がですの?」

 ジェードも時々料理を持って行くが、日持ちしない物を持って行く事が多かった。

 でも今日オレが日持ちして、栄養も考えてる物を持参した事で敗北感を味わったらしい。

 それに贈り物と言いつつ、シレネを励ましたのを見て完敗だと思ったそうだ。

「その考え方は変ですの。勝ち負けではありませんの」
「そうかな?」
「それにジェード様にも出来る事はありますの」

 僕に?とジェードが首を傾げる。

「学校で再会した時に、早く貴族社会に馴染める様に彼女をサポートしてあげたらいいですの」

 そう。でもって、そのまま愛を育んでくれたらいい。

「そうだね。分かった。やっぱりヴィラトリア嬢はすごいな」

 そう言って笑ったジェードは。ちょっと泣きそうで、困った様な笑顔を浮かべた。



 やがて馬車は侯爵家に着いた。まだちびっ子だから、護衛がオレを降ろしてくれる。

 ジェードはわざわざ見送るため、一緒に降りて来た。将来紳士になる事、間違いなしだ。

「ありがとうございますの」

 その時、オレを引き止める様にジェードがキュッとオレの手を掴んだ。

「今日一緒にいて、スペッサやトンガリがヴィラトリア嬢を好きな理由が分かったよ」
「え?」
「もし、リアより先に出会ってたら…きっと僕も…」

 ジェードは元気なく、項垂れるように何か呟いている。でも、言葉までは聞きとれ無かった。

「ジェード様?」
「…何でもない。じゃあ、また今度ね」

 ジェードは少し淋しそうに微笑んでから、馬車に再び乗り込んだ。

 何だか胸がギュッて痛くなる笑顔だった。



◇◇◇



 その日は久しぶりに妹の夢を見た。

 相変わらずオレはソファでゴロゴロして。妹はソファにもたれかかってる。

 テーブルの上にゲームの攻略本が転がっていて、正面にピンクの髪と目の少女が描かれていた。その周囲に、ジェードやスペッサ、トンガリ君、ライバンに似た雰囲気の男達が描かれていた。

 悪役令嬢のイラストは、無い。

 妹がぶつぶつと、呟いている。何だか珍しく興奮してるみたいだ。

 オレはゲーム画面を横から覗きながら耳を澄ませた。

『何この裏ルートって!』

 裏ルート??

『これって××じゃん!うそ!しかもヒロインは××××!?』

 え?なになに?
 妹よ、お兄ちゃんにも教えて!

『こうなったらココでやってられないわ!部屋に行かなきゃ!』

 妹が急に立ち上がり居間を出て行く。
 追いかけたいのに。声をかけたいのに。
 オレは動く事も声を出す事もできない。

 待って、待って!その前にお兄ちゃんにその情報を教えて!

 待って~!



◇◇◇



 目が覚めた。むくりと起き上がる。

 今までも妹の夢は、オレにとっての啓示みたいな物だったから、ものすごく気になる夢だった。

 正規な乙女ゲームじゃくて、裏ルートがあるの?

 ヒロイン交代てありえるの?

 こうなったら、もう一度、夢を見るしかない。

 そう思ったオレだったけど。

 その日以来。

 妹が夢に出てくる事は無かったー。




 第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい 完


ーーー


 第二部は来月公開予定です。

 ストーリー上、幼少期より内容が重めの展開となります。

 その分、後半にかけて甘々展開にしますので、お付き合い頂けたら嬉しいです。

 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


※お知らせ※

 第一部にR18要素が無かったので、気軽に読めるR18短編を準備しました。

『ワンナイラブ派ですが何か』

 今日から連載開始です。

 現代ものです。もしよければ、気分転換にお楽しみください。
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