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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

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「ヴィラトリアですの。よろしくお願いします。ジェード様」
「こちらこそ、よろしくね」

 心臓バクバクで挨拶したものの。リッチ…いや、ジェードはまるでよそ行き顔の爽やかスマイルで、返事して来た。

 もしかして…バレてない?

 顔はモロ同じだけど、黒髪黒目と銀髪紫目では受ける印象が違うからだろうか?しかも名乗ってる性別も違うし。

「ヴィラ、せっかくだからジェード様にお庭をお見せなさいな」
「はいですの」

 この家の実質家長ベルデラの命により、オレはジェードを本宅の庭へ案内した。

 といっても、オレ自身、ほとんど来たことないけどね。

「綺麗な庭だね」
「はいですの。ベルデラ様が大事にされてるんですの」
「そう」

 ジェードは花を見ながらも、チラチラオレを見て来る。何か言いたげだ。

 もしかして、リアだってバレた?

 ドキドキしながら散策をしていると、庭園にあるベンチの側まで来た。ちょっと休憩しようと勧められて互いに腰掛ける。

 ジェードは2人だけで話したいから、と護衛を少し離れた所へ待機させた。

「ヴィラトリア嬢は、その。この婚約の事をどう考えている?」
「と、言いますと?」
「君は納得してるんだろうか?」

 してる訳ないだろ!オレ男なんだから!

 心の中で叫びつつ、顔では笑顔を作る。嘘でも肯定しないと、ベルデラにバレたら怖いからな!

「小さい時にお父様に勝手に決められましたの。肯定も否定も出来る訳ないですの」

 おっと、つい本音が出ちゃったよ。

「ヴィラトリア嬢もそう思う?実は僕もそう思ってたんだ」
「まぁ、そうですの?」
「だから、その、もしお互いに好きな相手が出来てしまったら。その時は尊重し合わないか?」
「……どういう意味ですの?」

 つまり?

「僕か君。どちらかに好きな相手が出来たら、円満に婚約を解消してほしいんだ」
「…っ!喜んで!」
「いいのかい?ありがとう!」

 オレとジェードは手を取り合って意気投合した。

 やった!これは婚約破棄できる日も近い!

「僕が10歳になったら、互いに親交を深めさせる為、定期的に交流しないといけないと思うんだ」
「そうなんですの?面倒ですの」
「君もそう思う?だけどうまくいってると見せかける為、それはこなした方がいいと思うんだ」
「わかりましたの」

 それからオレ達は、いざという日の為に、表面上は仲良くしていこうと話し合った。



 建設的な話し合いに満足して本宅に戻ると、お祝いに来てくれた客達に囲まれた。口々にオレやジェードがお似合いだとか、可愛いとか褒めてくる。

 絶世のチビ美女と爽やかイケメンちびっ子だからね。そりゃお似合いだろう。どっちも男だけど。

 大人達からの賛辞に辟易していると、その間を割って近づいて来たちびっ子がいた。

 スペッサだ!

「ヴィラ~!改めてお誕生日おめでとう~」

 ぎゅう~とオレに抱きついてくる。ふわふわ髪で可愛いスペッサはオレの癒しだ。オレもお礼を言いながらスペッサを、ぎゅう~と抱きしめ返した。

 周囲の大人が、可愛すぎるとほっこりしている。スペッサの可愛さにみんなメロメロだ。

「…ヴィラ嬢から離れろ」

 怒った声が聞こえたと思ったら、今度はトンガリ君がやって来た。

「なぁにトンガリ君、嫉妬してるの~?」

 オレに抱きついたまま、スペッサがコテンと首を傾げた。その仕草もあざといけど、可愛いから許す。

「誰がトンガリ君だ!俺の名はロードだ!それより、いい加減、令嬢から離れろ。ふしだらだ!」

 トンガリ君はまだ10歳なのに随分古風だ。まだ10歳同士の抱擁なんて、子供のスキンシップだろう。

「トンガリ君、ワタクシは気にしませんの」
「ヴィラ嬢が良くても…俺が…周りが気にする」
「何でヴィラのトンガリ君呼びは許すの~?」
「うるさい!お前はダメだ!」

 スペッサとトンガリ君が、いがみ合っている。この2人はどうも犬猿の仲みたいだ。

「ヴィラトリア嬢。彼らは君の友達?」

 空気と化していたジェードが声をかけて来た。やばい。放置してたのをベルデラにバレたら怒られる。

「はい。ワタクシの友達のスペッサと、お兄様の友達のトンガリ君です」
「ヴィラの友達のスペッサ・ガーネットだよ!よろしくね~」
のロード・コーラルだ。お前は?」

 スペッサは笑顔で、トンガリ君は不機嫌そうにジェードを見つめる。気のせいか空気が不穏?

「僕はヴィラトリア嬢の婚約者のジェード・ネフライト。よろしくね」
「なっ!婚約者だと!?」
「うそ!ヴィラ、婚約してたの~!?ボクという者がありながら~!」

 トンガリ君とスペッサに詰め寄られた。
 何で?どうして!?

「はは、ヴィラトリア嬢はモテるね」

 これは婚約解消する日も近いかな?とニコニコするジェードの背後から。

 ラスボス、ベルデラが現れた!

「ヴィラ?これは一体どういう事かしら?」
「ワ、ワタクシにも何のことか」

 右腕にトンガリ君。左腕にスペッサが抱きついている。婚約者のジェードは放置状態。これ、絶対まずい!

 そこに、兄のライバンが現れた!

「お母様!ヴィラは悪くありません!」
「お兄様…」

 ライバンの擁護に感動で涙が出そうだ。

「ヴィラが悪いんじゃない。ヴィラの可愛さが罪なんです!」
「へ?」
「ヴィラ。お前はお兄様が守ってやるからな」

 そう言って、ライバンは背後からオレを優しく抱擁した。

 バカバカバカ!そんな事したら…。

 オレの正面に影がさす。見なくても分かる!この憤怒のオーラ。ベルデラだ!

「ヴィラ。奥に来なさい…」
「ワタクシは無実ですの~ベルデラ様~」

 半泣き状態のオレはベルデラに引きずられる様に奥の部屋に連れ込まれ。案の定、淑女としての自覚を延々と説教されたのだった。

 ちなみに。

 自分の誕生日パーティーに婚約者以外の男の子達に言い寄られ、正妻に連行された愛人の子、という醜態を晒したオレは。

 集まっていた噂好きの貴族共に、小さな銀髪の小悪魔、というあだ名がつけられ。

 順調に悪役令嬢への道をスタートさせたのだった(?)
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