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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい
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オレは9歳になった。
身体もそれなりに成長してきたし、魔法も剣も3年間頑張って来た。
そして今日オレは。
とうとう計画を実行する。
週に1度の貴重な休み。オレは朝から、とうとう侯爵家から抜け出した。
平民ぽい服に、つばの深い帽子を目深に被り、口元や首周りに布をグルグル巻いて。目立つ銀髪と紫の目を何とか誤魔化した。
侯爵家から最初に辿り着いた通りは、綺麗な街並みだった。主に貴族向けの店が多く見られる。
汚い格好のオレは浮いていた。
通り過ぎる奴らが、異端を見る様にこっちを見ている。オレは足早に通りを駆け抜けた。
少しずつ、活気のある人通りの多い街並みになった。ここは、ちょっと金のある平民向けの店や職人達がメインみたいだ。
将来逃亡した後に身を隠すには、まだ危ないかも。そう思ったオレは、更にその通りを駆け抜けた。
次の通りは薄暗い、いわゆる裏通りみたいな場所だった。町全体が何だか臭くて、歩いてる奴らも活気が無い。
一時的な隠れ家を探すには最適だけど、お母様みたいな美人を連れてたら一瞬で攫われそうだ。
その時ー。
「きゃあ、やめて!」
「やめろよ!」
右側の奥から小さな女の子と男の子の声がした。
同時に。
「誰か助けて!」
左側の奥からは小さな男の子の必死な叫び声がした。
同時に聞こえたその声にオレはー。
◇◇◇
左側から聞こえた声の主を助ける為、オレは走った。
右側から聞こえた声も気になったけど、向こうは少なくとも2人。こっちは多分1人。しかも明らかに切羽詰まってる感じがしたからだ。
角から奥を覗くと。オレとたいして変わらない位の男の子が、大人の男に壁側へ追い詰められていた。
「大人しくしろ。怪我させたら金にならないからなぁ」
その言葉から人攫いだと悟る。見れば狙われてる子供は、平民風に見せかけてるが質の良い服なのが見てとれた。きっと、お忍びの貴族の子供だろう。
おいおい、リッチ少年よ。護衛はどうした?周囲を見回してもそれらしい人物は見当たらない。
これはオレが行くしかないか、と覚悟を決める。
指先に風魔法を宿らせると、弾く様にして、男から離れた場所へ飛ばした。置かれていた木箱に風の玉が当たって、ガタガタと音を立てた。
「誰だっ!?」
男がそこに向かって身体を向けた瞬間、オレは少年に向かって走った。その手を掴まえて、引きずる様にして走り出す。
「逃げるよ!」
「え?え?え?」
「あ、おい!待て!」
男がこちらに気づいて向かって来ようとする。すかさず男の足元に、小さなつむじ風を作り、小さい火の玉を飛ばした。
男の足元に小さな炎の渦が出来上がった。
あち、あち、と男が炎に狼狽えてる間にオレ達は路地裏から逃げ出した。
「はぁ、はぁ、どこ、行くの?」
「知らない!」
少年の手を掴んだまま、オレ達は闇雲に走ったせいで、すっかり迷子だ。
前方に教会らしき建物が見えて来た。
「あそこに逃げよう!」
「わ、わかった」
門から中に入ってドアを叩く。
「助けてください!」
暫くして、シスターらしいお婆さんが出て来た。
「あら、あら、どうしたの?」
「人攫いに追われてるんです!」
「まあ!早く中へお入りなさい」
中に入れてもらうと、オレとリッチ少年は座り込んだ。結構走ったからヘトヘトだ。
少年は更にグッタリしてる。茶色の髪に茶色の目。よくある色合いだけど、肌も髪も艶があるから、良い所の子供なのが分かる。
お婆さんが水を入れたコップをくれた。オレはグビッと飲み干した。
「ぷはーっ生き返る!」
「…う」
少年はちょっと口に含むと、少し顔を歪めた。
「どうしたの?」
「臭いが…君よくこんなの飲めたね」
「そちらの子は貴族様かしら?貴族様にはこの町の水は合わないかもしれないわねぇ」
お婆さんが困った様に笑う。それを見てオレはー。
「飲まないならくれよ」
「いいけど、臭い気にならないの?」
少年の言葉を無視して、オレは少年の分の水を飲み干した。
「ご馳走様でした。美味かったです」
「ふふ、いいのよ。礼儀正しいのね」
お婆さんは嬉しそうに笑うと、2人分のコップを片付ける為、奥に引っ込んだ。
「僕、何か変な事言った?」
おずおずと少年がオレを見てくる。
「別に変な事は言ってないよ。確かに、あの水は臭かったし」
「なら、なんで?」
「それでもさ、あのお婆さんや、ここに生きてる人達にとっては大切な水かもしれないだろ?」
オレの言葉に少年は、頬を赤らめて気まずそうに顔を伏せた。
身体もそれなりに成長してきたし、魔法も剣も3年間頑張って来た。
そして今日オレは。
とうとう計画を実行する。
週に1度の貴重な休み。オレは朝から、とうとう侯爵家から抜け出した。
平民ぽい服に、つばの深い帽子を目深に被り、口元や首周りに布をグルグル巻いて。目立つ銀髪と紫の目を何とか誤魔化した。
侯爵家から最初に辿り着いた通りは、綺麗な街並みだった。主に貴族向けの店が多く見られる。
汚い格好のオレは浮いていた。
通り過ぎる奴らが、異端を見る様にこっちを見ている。オレは足早に通りを駆け抜けた。
少しずつ、活気のある人通りの多い街並みになった。ここは、ちょっと金のある平民向けの店や職人達がメインみたいだ。
将来逃亡した後に身を隠すには、まだ危ないかも。そう思ったオレは、更にその通りを駆け抜けた。
次の通りは薄暗い、いわゆる裏通りみたいな場所だった。町全体が何だか臭くて、歩いてる奴らも活気が無い。
一時的な隠れ家を探すには最適だけど、お母様みたいな美人を連れてたら一瞬で攫われそうだ。
その時ー。
「きゃあ、やめて!」
「やめろよ!」
右側の奥から小さな女の子と男の子の声がした。
同時に。
「誰か助けて!」
左側の奥からは小さな男の子の必死な叫び声がした。
同時に聞こえたその声にオレはー。
◇◇◇
左側から聞こえた声の主を助ける為、オレは走った。
右側から聞こえた声も気になったけど、向こうは少なくとも2人。こっちは多分1人。しかも明らかに切羽詰まってる感じがしたからだ。
角から奥を覗くと。オレとたいして変わらない位の男の子が、大人の男に壁側へ追い詰められていた。
「大人しくしろ。怪我させたら金にならないからなぁ」
その言葉から人攫いだと悟る。見れば狙われてる子供は、平民風に見せかけてるが質の良い服なのが見てとれた。きっと、お忍びの貴族の子供だろう。
おいおい、リッチ少年よ。護衛はどうした?周囲を見回してもそれらしい人物は見当たらない。
これはオレが行くしかないか、と覚悟を決める。
指先に風魔法を宿らせると、弾く様にして、男から離れた場所へ飛ばした。置かれていた木箱に風の玉が当たって、ガタガタと音を立てた。
「誰だっ!?」
男がそこに向かって身体を向けた瞬間、オレは少年に向かって走った。その手を掴まえて、引きずる様にして走り出す。
「逃げるよ!」
「え?え?え?」
「あ、おい!待て!」
男がこちらに気づいて向かって来ようとする。すかさず男の足元に、小さなつむじ風を作り、小さい火の玉を飛ばした。
男の足元に小さな炎の渦が出来上がった。
あち、あち、と男が炎に狼狽えてる間にオレ達は路地裏から逃げ出した。
「はぁ、はぁ、どこ、行くの?」
「知らない!」
少年の手を掴んだまま、オレ達は闇雲に走ったせいで、すっかり迷子だ。
前方に教会らしき建物が見えて来た。
「あそこに逃げよう!」
「わ、わかった」
門から中に入ってドアを叩く。
「助けてください!」
暫くして、シスターらしいお婆さんが出て来た。
「あら、あら、どうしたの?」
「人攫いに追われてるんです!」
「まあ!早く中へお入りなさい」
中に入れてもらうと、オレとリッチ少年は座り込んだ。結構走ったからヘトヘトだ。
少年は更にグッタリしてる。茶色の髪に茶色の目。よくある色合いだけど、肌も髪も艶があるから、良い所の子供なのが分かる。
お婆さんが水を入れたコップをくれた。オレはグビッと飲み干した。
「ぷはーっ生き返る!」
「…う」
少年はちょっと口に含むと、少し顔を歪めた。
「どうしたの?」
「臭いが…君よくこんなの飲めたね」
「そちらの子は貴族様かしら?貴族様にはこの町の水は合わないかもしれないわねぇ」
お婆さんが困った様に笑う。それを見てオレはー。
「飲まないならくれよ」
「いいけど、臭い気にならないの?」
少年の言葉を無視して、オレは少年の分の水を飲み干した。
「ご馳走様でした。美味かったです」
「ふふ、いいのよ。礼儀正しいのね」
お婆さんは嬉しそうに笑うと、2人分のコップを片付ける為、奥に引っ込んだ。
「僕、何か変な事言った?」
おずおずと少年がオレを見てくる。
「別に変な事は言ってないよ。確かに、あの水は臭かったし」
「なら、なんで?」
「それでもさ、あのお婆さんや、ここに生きてる人達にとっては大切な水かもしれないだろ?」
オレの言葉に少年は、頬を赤らめて気まずそうに顔を伏せた。
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