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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

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 魔法を習って数日後。
 今度は剣を学ぶ日が来た!

 ある程度、身を守れる様になれば。屋敷から町への逃走ルートもチェックできる!気合いは充分だ。

 オレとライバンでは学ぶ技術が違うので、今回の先生は別々で、オレには女騎士がついてくれる事になった。

「なかなか筋がよろしいですね」
「ありがとうございます」

 この先生はとても教え方が上手で、オレの長所を活かした剣術を教えてくれた。

「ヴィラトリア様は力は無いので、速さを活かしましょう。長剣より短剣や小剣の方が向いてるかもしれませんね」

 フェイントのかけ方や、人や魔物の弱点となり得る場所への攻撃方法を教えてくれる。

 てか、これは防衛術でなく立派な攻撃用の剣術だよね?

 先生は攻撃こそ最大の防御と考える脳筋だったらしい。そんな先生嫌いじゃないです!

「少し休憩しましょう」
「はい」

 汗を拭いて休んでいると、ライバンがやって来た。

「ヴィラ、練習はキツくないか?怪我はしてないか?」

 なんか過保護なパパみたい。

 2つしか変わらないのに、妹(だと思ってる)の面倒を一生懸命見ようとする9歳男子。可愛いよ、お兄様。

「はい。とても分かりやすくて楽しいです。お兄様も頑張ってください」
「任せとけ。オレが強くなって守ってやるからな」

 いや、ライバンは跡取りだから1番に守られてください。

「ここにいたのですか?」

 ライバンを追って、ライバンの剣の先生がやって来た。

「先生すみません。妹の様子を見に来てました」
「そうでしたか」

 ライバンの剣の先生は若い騎士だった。その横にライバンと同じ位の背丈の少年がいた。

「ヴィラトリア様。せっかくなので、私の弟を紹介します。ライバン様と仲良くさせてもらってます。ヴィラトリア様と同じ歳ですよ。ほらロード、挨拶して」
「ロード・コーラルだ。コーラル男爵家の四男だ。俺は女は嫌いだから仲良くしなくていい」

 なんと。オレと同じ年齢の彼は、女嫌いの難しいお年頃らしい。背もライバンと同じ位で赤い目に黒髪の、なかなか凛々しいトンガリ少年だ。

 侯爵令嬢であるオレへの不遜な態度に、兄の騎士にゲンコツされて諌められてる。まぁ、そうなるよね。

「ヴィラトリア・トルマリンですの。先生、ワタクシは気にしませんので、大丈夫ですの」
「すみません」

 トンガリ少年に構ってるより、練習の方が大事だからね。

 その後オレは、女騎士に頼んで稽古を再開した。



「今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」

 夕刻に差し掛かる頃、女騎士の合図で練習は終わった。汗を拭きながら練習場から出ると。

 何故か出口にトンガリ君がいた。

「何で令嬢が剣の練習してんだよ」

 どうやらオレの練習を見てたみたいだ。

「自分の身を守る為ですの」
「オレら子爵家と違って、侯爵家なら護衛は雇い放題だろ?」

 うーん、確かに。普通の令嬢ならそうだろうけど。

「護衛がどんなに沢山いても、最後に自分を守るのは自分自身ですの」
「ーっお前」

 トンガリ君が赤い目を丸くした。まぁ、令嬢でこんな事言う奴は珍しいかもね。

「それにワタクシは愛人の子だから、そんなに護衛をつけてもらえるかわかりませんの」
「あい…じん?」

 …子供にはまだ早かったかな?

「そういうわけで、自分で自分を守れる位には強さが欲しいんですの。ごきげんよう」

 愛人の説明を求められたら大変だ!言いたい事だけ言い切って、オレはその場を逃げるように後にした。



◇◇◇



 初めての剣の練習日の翌日。
 今日はマナーの練習日だ。

「角度!」

 パシッ!久しぶりにベルデラに扇で叩かれた。オレの挨拶の礼が甘かったせいだ。

 今日はエントランスホールでのマナーという事で、実際に本宅の玄関付近で練習だ。

 昨日が剣の練習だったせいで、全身筋肉痛で体がうまく動かない。そんなオレにベルデラが容赦なくはたいてくる。

 ベルデラはもう扇を使わないと言ってたけど、気合いが入るからとオレからお願いした。

 ベルデラ+扇は最強コンボだしね!悪役令嬢としての目標だ!

「やり直し!」

 パシッ!

「何度言えば分かるのです!」

 パシッ!

「お母様?…何をしてるんですか?」

 ライバンの声がした。

 オレとベルデラが玄関を振り向くと、真っ青な顔のライバンと何故かトンガリ君がいた。

「侯爵家としてのマナーを教え込んでるのです。ライバンでも邪魔は許しませんよ」

 ベルデラはこう見えて熱血教師タイプ。近頃は清楚な貴婦人だった彼女も、今は恐ろしい鬼ババと化していた。

 そして、バシバシ叩かれるマナーレッスンは続いたのだった。



 レッスン後、ちょっとベルデラとおしゃべりしてオレは本宅を後にした。

 離れに向かうオレを、誰かが追いかけてきた。

「おい!ヴィラトリア嬢!」
「あら?どうしたのです?」

 トンガリ君だった。悪いけど名前、忘れちゃったよ。

「昨日は悪かった!」

 まさかの言葉にオレの足が止まった。

 そろそろ夕暮れ。夕焼けをバックに立つトンガリ君は逆光で顔は見えない。

「俺、女はすぐ泣くし、わがままだし、だから面倒だと思ってて」
「……」
「だけどお前は違ってて、剣の練習だって文句言わねーし、さっきのマナー練習も文句も言わず受けてるし、だから、だから、」
「なんですの?」

 お腹すいた。
 早く用件を言ってくれ。

「お前の事は別に嫌いじゃないから!」
「え?」

 わざわざ、そんな事を言いに来たの?オレとしては別にどうでもいいんだけど…。

 でも、そっか。多分ずっと気にしてたんだろうな。そう思ったら年上に見えるトンガリ君も、なんだか可愛く思えた。

「ワタクシも別に嫌いじゃないですの」
「そ、そうか?」
「はい。今のでちょっとだけ、トンガリ君のこと好きになりましたの」

 そう言ってオレはニッコリ笑って。
 ごきげんようと手を振って、踵を返した。

 オレの背中から、トンガリクンて誰だよー!と声が聞こえてきたけど無視した。
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