上 下
11 / 55
第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

しおりを挟む
 魔法を習って数日後。
 今度は剣を学ぶ日が来た!

 ある程度、身を守れる様になれば。屋敷から町への逃走ルートもチェックできる!気合いは充分だ。

 オレとライバンでは学ぶ技術が違うので、今回の先生は別々で、オレには女騎士がついてくれる事になった。

「なかなか筋がよろしいですね」
「ありがとうございます」

 この先生はとても教え方が上手で、オレの長所を活かした剣術を教えてくれた。

「ヴィラトリア様は力は無いので、速さを活かしましょう。長剣より短剣や小剣の方が向いてるかもしれませんね」

 フェイントのかけ方や、人や魔物の弱点となり得る場所への攻撃方法を教えてくれる。

 てか、これは防衛術でなく立派な攻撃用の剣術だよね?

 先生は攻撃こそ最大の防御と考える脳筋だったらしい。そんな先生嫌いじゃないです!

「少し休憩しましょう」
「はい」

 汗を拭いて休んでいると、ライバンがやって来た。

「ヴィラ、練習はキツくないか?怪我はしてないか?」

 なんか過保護なパパみたい。

 2つしか変わらないのに、妹(だと思ってる)の面倒を一生懸命見ようとする9歳男子。可愛いよ、お兄様。

「はい。とても分かりやすくて楽しいです。お兄様も頑張ってください」
「任せとけ。オレが強くなって守ってやるからな」

 いや、ライバンは跡取りだから1番に守られてください。

「ここにいたのですか?」

 ライバンを追って、ライバンの剣の先生がやって来た。

「先生すみません。妹の様子を見に来てました」
「そうでしたか」

 ライバンの剣の先生は若い騎士だった。その横にライバンと同じ位の背丈の少年がいた。

「ヴィラトリア様。せっかくなので、私の弟を紹介します。ライバン様と仲良くさせてもらってます。ヴィラトリア様と同じ歳ですよ。ほらロード、挨拶して」
「ロード・コーラルだ。コーラル男爵家の四男だ。俺は女は嫌いだから仲良くしなくていい」

 なんと。オレと同じ年齢の彼は、女嫌いの難しいお年頃らしい。背もライバンと同じ位で赤い目に黒髪の、なかなか凛々しいトンガリ少年だ。

 侯爵令嬢であるオレへの不遜な態度に、兄の騎士にゲンコツされて諌められてる。まぁ、そうなるよね。

「ヴィラトリア・トルマリンですの。先生、ワタクシは気にしませんので、大丈夫ですの」
「すみません」

 トンガリ少年に構ってるより、練習の方が大事だからね。

 その後オレは、女騎士に頼んで稽古を再開した。



「今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」

 夕刻に差し掛かる頃、女騎士の合図で練習は終わった。汗を拭きながら練習場から出ると。

 何故か出口にトンガリ君がいた。

「何で令嬢が剣の練習してんだよ」

 どうやらオレの練習を見てたみたいだ。

「自分の身を守る為ですの」
「オレら子爵家と違って、侯爵家なら護衛は雇い放題だろ?」

 うーん、確かに。普通の令嬢ならそうだろうけど。

「護衛がどんなに沢山いても、最後に自分を守るのは自分自身ですの」
「ーっお前」

 トンガリ君が赤い目を丸くした。まぁ、令嬢でこんな事言う奴は珍しいかもね。

「それにワタクシは愛人の子だから、そんなに護衛をつけてもらえるかわかりませんの」
「あい…じん?」

 …子供にはまだ早かったかな?

「そういうわけで、自分で自分を守れる位には強さが欲しいんですの。ごきげんよう」

 愛人の説明を求められたら大変だ!言いたい事だけ言い切って、オレはその場を逃げるように後にした。



◇◇◇



 初めての剣の練習日の翌日。
 今日はマナーの練習日だ。

「角度!」

 パシッ!久しぶりにベルデラに扇で叩かれた。オレの挨拶の礼が甘かったせいだ。

 今日はエントランスホールでのマナーという事で、実際に本宅の玄関付近で練習だ。

 昨日が剣の練習だったせいで、全身筋肉痛で体がうまく動かない。そんなオレにベルデラが容赦なくはたいてくる。

 ベルデラはもう扇を使わないと言ってたけど、気合いが入るからとオレからお願いした。

 ベルデラ+扇は最強コンボだしね!悪役令嬢としての目標だ!

「やり直し!」

 パシッ!

「何度言えば分かるのです!」

 パシッ!

「お母様?…何をしてるんですか?」

 ライバンの声がした。

 オレとベルデラが玄関を振り向くと、真っ青な顔のライバンと何故かトンガリ君がいた。

「侯爵家としてのマナーを教え込んでるのです。ライバンでも邪魔は許しませんよ」

 ベルデラはこう見えて熱血教師タイプ。近頃は清楚な貴婦人だった彼女も、今は恐ろしい鬼ババと化していた。

 そして、バシバシ叩かれるマナーレッスンは続いたのだった。



 レッスン後、ちょっとベルデラとおしゃべりしてオレは本宅を後にした。

 離れに向かうオレを、誰かが追いかけてきた。

「おい!ヴィラトリア嬢!」
「あら?どうしたのです?」

 トンガリ君だった。悪いけど名前、忘れちゃったよ。

「昨日は悪かった!」

 まさかの言葉にオレの足が止まった。

 そろそろ夕暮れ。夕焼けをバックに立つトンガリ君は逆光で顔は見えない。

「俺、女はすぐ泣くし、わがままだし、だから面倒だと思ってて」
「……」
「だけどお前は違ってて、剣の練習だって文句言わねーし、さっきのマナー練習も文句も言わず受けてるし、だから、だから、」
「なんですの?」

 お腹すいた。
 早く用件を言ってくれ。

「お前の事は別に嫌いじゃないから!」
「え?」

 わざわざ、そんな事を言いに来たの?オレとしては別にどうでもいいんだけど…。

 でも、そっか。多分ずっと気にしてたんだろうな。そう思ったら年上に見えるトンガリ君も、なんだか可愛く思えた。

「ワタクシも別に嫌いじゃないですの」
「そ、そうか?」
「はい。今のでちょっとだけ、トンガリ君のこと好きになりましたの」

 そう言ってオレはニッコリ笑って。
 ごきげんようと手を振って、踵を返した。

 オレの背中から、トンガリクンて誰だよー!と声が聞こえてきたけど無視した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル・クーレルの物語です。 若干のR表現の際には※をつけさせて頂きます。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、改稿が終わり次第、完結までの展開を書き始める可能性があります。長い目で見ていただけると幸いです。 2024/11/12 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

処理中です...