婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林

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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

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 その後、財務大臣のお父様が急遽帰宅したり。魔術師団からお偉いさんが来たりして、屋敷は大騒ぎになった。

 そしてー。

 6属性というありえない属性が判明したオレは、その後すぐに魔力量をチェックされた。

 これまで複数属性ある者は、総じて魔力量も膨大で、非常に優秀な魔術師になったらしい。

 もしや世紀の魔術師の誕生か!?と期待されたオレだったが魔力量は…。

「……ヴィラトリア様の魔力量は子爵程度かと」

 ・・・。

 応接間の空気が重い。

 意味は分からないが、微妙な結果、という空気をバンバン感じる。

「恐らく母親が男爵家の血筋なのが影響してるかと」

 しーん。大人達は皆、無言だ。そんななか、オレの代わりにライバンが疑問をぶつけてくれた。

「結局ヴィラはどの程度の魔法が使えるんですか?」
「おお、すみません。つまりですな…」

 結論から言うと。オレは魔法の種類は多彩に使えるが、それを使いこなす魔力量は少ないらしい。

 例えばライバンが魔力量100で様々な水魔法を使いこなせるのに対して。

 オレは魔力量30程度の範囲内で6種類の魔法を使う事になるらしい。もちろん強い魔法は膨大な魔力を使う。つまり、オレは色んな種類の簡易魔法しか使えないって事だ。

「微妙ですの…」

 ガクッと項垂れオレを見て、お母様は和やかに微笑んでいる。

「さすが私の娘ね。色々惜しいところがそっくりだわ」

 そんな所が似てても嬉しくない!

 魔術師団長も、微妙な表情だ。

「もしこれで魔力量も多ければ、ヴィラトリア様は王子の妃候補になってたかもしれませんよ。惜しいですな」

 前言撤回!惜しい娘で良かった!



◇◇◇



「君が6属性の令嬢?僕はスペッサ・ガーネット。ガーネット家の三男だよ~。仲良くしてね~」

 オレンジ色のふわふわ髪に、オレンジ色の丸いおめめ。まるでトイプードルみたいな可愛いさを持つ幼児が、オレにニッコリ笑いかけてきた。

「すみません、どうしても甥っ子がついて来たいと聞かなくて。よければ仲良くしてやってください」

 そう言ってライバンの魔法の先生が困った様に頭をかいた。今日からオレの先生にもなってくれる。

「もちろんですの!ワタクシ、ヴィラトリア・トルマリンですの。仲良くして欲しいですの」
「うん、よろしくね~」

 そう言って笑ったスペッサは、更にほんわかした空気を醸し出した。

「可愛いですの!」

 オレはギュッとスペッサに抱きついた。子犬系の可愛さがたまらない!

「どっちも可愛い…」
「ええ。ほっこりしますな」

 オレの後ろでは、ライバンと先生がオレ達を見て何故かほっこりしていた。



 スペッサは驚く事にオレと同じ歳だった!

 しかも珍しい3属性で風と火と水を使えるらしい。魔力量も膨大で、将来の魔術師団長として有望視されてるスーパー幼児だった!

 館の敷地内にある魔法の練習場で、簡単な練習から始める事になった。

 ライバンはすでに初級の水魔法を覚えて、少しずつ中級魔法を学んでいるらしい。

 今日はおさらいを兼ねて一緒に初級から勉強する事になった。

「オレでわかる事は教えてやるからな!」

 最近やたらライバンの機嫌が良い。ずっとニコニコして、やたらオレに構ってくれる。

 邪険にされるよりはいいけど、どうしたのかな?

「じゃあ早速、水の初級からやろうか。ライバンどうぞ」
「はい!」

 先生に声をかけられて、ライバンは元気よく返事した。

 そして、ゴニョゴニョ呪文みたいのを唱えたら、いくつかの水の玉が辺りをふよふよ浮遊し出した!

「わあ!お兄様すごい!」
「へへ。1番簡単な水玉を作る魔法だぞ!」

 初めてまともに見た魔法に、思わず目がキラキラしちゃう!

「では次は風と火の初級魔法をスペッサにしてもらおうか」
「は~い」

 先生に言われて、今度はスペッサが、ゴニョゴニョ呟くと、指先に小さな火が灯った。

「わあ!すごいですの!」
「次は風ね~」

 スペッサがゴニョゴニョ呟くと、足元につむじ風が起きた。今日はお尻が隠れる位のスカート丈に、下はズボンを履いてるから風だってへっちゃらだ!

「ヴィラはどちらの属性もあるから、合わせ技を使うといいよ。簡易魔法でも威力が増すから、見てて」

 スペッサが、前方の宙に向かって左手を振ると空気の渦巻きを感じた。さっき足元に作ったつむじ風を宙に作った様だ。

 そして、えい、とスペッサが右手をふるとー。

 ゴォォ。

 宙に小さな炎の竜巻が発生した!

「わあ!こんな事が出来るんですのね!」

 もうオレは大興奮だよ!

「じゃあ、ヴィラトリア様もやってみましょう」
「はいですの!」

 それから、オレは先生やライバン、スペッサのアドバイスを受けながら、魔法の使い方を学んだ。

 授業が終わる頃にはー。

 もわっ。霧状のうっすい靄と。
 プスっ。ガス欠みたいなちっこい火と。
 そよそよ。そよ風を起こす事が出来た。

「ふぅ。もう限界ですの~」
「ヴィラ。頑張ったな」

 疲労でへたり込んだオレの頭を、ライバンが優しく撫でてくれた。褒められるのが嬉しくて、思わずへへ、と笑ってしまう。

「いいな~。僕のとこはこんな優しいお兄ちゃんじゃないから、羨ましい~」

 スペッサがオレの側にしゃがみ込んだ。

「へへ。ライバンお兄様は優しいですの」
「僕もこんな優しいお兄様が欲しいな~」

 きゅるんとした目でライバンを見てる。ライバンも頼られて嬉しそうだ。

「はっはっはっ!スペッサも褒めてやる!頑張ったな!」

 オレにやった様に、ライバンは今度はスペッサの頭を、いい子、いい子と撫でた。

 スペッサがふわふわのオレンジ頭なので、ちびっ子がトイプードルを撫でてるみたいに見えて、ちょっと癒される。

「オレでよければお兄様と呼んでもいいぞ!」
「…はい。ライバン兄様!」

 撫でられたスペッサも嬉しそうだ。

「本当のお兄様になってもらえるように、ボクも頑張る~」
「ん?どういう意味だ?」

 不思議そうな表情を浮かべたライバンをそっちのけで、スペッサがオレを見てニッコリ笑う。

「覚悟してね~?ヴィラ」
「何がですの?」
「ふふ、何でもないよ~」

 スペッサの言葉はよく分からなかったけど。子犬級の可愛いさに、オレは「まぁ、いっか」と納得した。
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