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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい

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 オレは7歳になった。

 少しずつ、難しい言葉も噛まずに言える様になってきた!

 今では週に何度か、直接ベルデラが淑女教育を担当してくれている程度に、関係は改善していた。



「そろそろ貴女も、魔法の練習を始めましょう」

 マナーの練習後、オレはベルデラとサロンでお茶をしていた。

 ベルデラはいまや棘の抜けた薔薇。すっかり穏やかな貴婦人だ。

 でもオレは周囲に舐められたくないから、ちょっと強気に見える振る舞いになる様、教育してもらっている。

 目指すは悪役令嬢だからね。

「魔法?」
「ええ。もう貴女も7歳ですから。13歳には貴族学校に入って、より高度な事を学びますけど。それまではそれぞれの家で、マナーや教育、基本的な剣の使い方や魔法を学ぶのです」
「剣…魔法…」

 ぶわぁ~とオレの頭の中に、めくるめくファンタジーな世界が繰り広げられた!

 剣士に、魔法使いに、僧侶に…勇者に、魔王!

「すごいですの!勇者とか魔王とかもいますの?」
「何ですか?それは?」

 ガクッ。

 やっぱり、それは無いか。そんな世界に生まれてたら、オレ自身も危ないしね。

「世界の破滅を救うのが勇者で。悪の根源が魔王ですの」

 力無く説明するオレに、ベルデラが、あぁそれならと話を続ける。

「勇者とは遣わされし聖なる乙女の事かしら?」
「あ…そうかもですの」

 遣わされし聖なる乙女。

 この世界に悪いエネルギーが蔓延った時、選ばれた少女が愛の力で世界を救うとされている存在。

 オレの中では勇者というより、聖女の感覚に違いけど。似た様なもんかな?

「ヴィラは遣わされし聖なる乙女に憧れてるのかしら? ここ百年現れていませんが、本来なら現れない方が世界にとっては幸せなのです」
「…はいですの」

 現れない方が世界にとっては幸せな事。
 その通り。彼女が現れるのは世界で悪いエネルギーが強まる時だからね。

 でもオレは知ってる。少なくとも、10年以内には乙女は出現する。この世界のヒロインだから。

 というか、現れてくれないと困る。ヒロインがオレの婚約者を奪ってくれないと、婚約破棄できないしね!

「ヴィラは卒業したらすぐ嫁ぐ事になるので、剣の練習はいりませんね」
「えええー!」

 オレの大声に、ベルデラが目を丸くした。
 おっと、しまった。

「もし護衛がいても、大勢に囲まれたりする事もあるかもしれませんの」
「…まぁ確かに」
「そんな時、ワタクシは足手まといには、なりたくないですの!」
「…確かにそうね、ではあくまでも、身を守る為の練習を許可しましょう」

 よし!オレは心の中でガッツポーズした。

 魔法と身を守る術が身につけば、この後は屋敷の外にも行ける様になるもんね!



◇◇◇



 ベルデラの許可が下りて、数日後。今日はとうとう魔法練習の当日!

 まずはオレの魔法適正を調べるという事で、本宅へ魔術師が来てくれた。

 トルマリン家は代々、水の加護を受けるらしく、お父様やライバンも水魔法の加護が強いみたいだ。

 また魔法の威力を決定づける魔力量は、位の高い貴族ほど膨大らしい。だからか男爵家のオレのお母様は全く魔法は使えないそうだ。

 ベルデラは子爵家だけど、本人の努力で一般的な伯爵家程度まで魔法を操れるらしい。

 本当に知れば知るほど努力の人だ。

 ラスボスなんて言ってごめんなさい。ちなみに彼女の魔法属性はトルマリン家の流れを汲むので、水だ。

「では、こちらに手をかざしてください」

 応接間で魔術師のおじさんが用意した、でっかい水晶玉に手をのせる。

 オレの背後には、ベルデラ、お母様、兄のライバンが見守ってくれていた。

 おじさんが、ゴニョゴニョと呟くと、水晶玉がぼんやり輝き出した。何だか色んな色が混じっている。

「こ、これは!まさか!」

 おじさんが驚愕の声を上げた。ぶるぶると軽く震えて、信じられんとか呟いている。

 何が起きたのか分からず、恐怖でベルデラを振り返ると、ベルデラがおじさんを叱咤した。

「落ち着きなさい!どうしたのです?水では無いのですか?」
「は、申し訳ありません。ワシも始めての事で…ヴィラトリア様は6属性です!火、水、風、土、闇、無属性が反応してます!」
「何ですって!!」

 控えていたその場にいた全員がザワザワ騒ぎ出した。

 何?6属性だと何かマズいの?周囲の状況に、オレは不安が増す。

「侯爵夫人、これは緊急案件です。魔術師団に報告して遣いの者を呼びます。更に詳細を調べねば」
「分かりました。こちらも主人を呼びましょう」

 魔術師とベルデラがどんどん話を詰めていく。その緊迫した状況に、オレは不安で涙目だ。

 精神年齢は大人のオレだけど、身体はまだ7歳のせいか、こういう場面ではなかなか気持ちを抑えられない。

「ヴィラ大丈夫だ」
「お兄様…」

 オレの不安を感じとって、ライバンがオレの側に来て、水晶玉に触れた手とは違う手を握ってくれた。

「ヴィラは知らないと思うけど、普通、魔法属性は1つなんだ」
「え?1つ?」

 少なっ!

「そう。だから魔法に長けた物でも、2つ、多くて3つだ」
「3つ…」

 え?オレは何て言われた?確か6つ…。

 ようやく、周りが騒いでいる理由が飲み込めた。

 どうしよう。オレ極力目立ちたくないのに。
もし、これをキッカケに男だとバレたら。

 知らずうちに、恐怖で身体が震え出した。

 そんなオレの手をライバンがギュッと力強く握ってくれた。

「大丈夫。ヴィラはオレが守るから」
「お兄様…」

 いつもは子供ぽいライバンが、とても心強くて。オレはライバンに縋りついた。
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