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第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい
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数日後。オレは再び本宅に呼ばれた。
今回は特にマナーチェックでは無く、先日の件でベルデラが用があると言う事だった。
「よく来ましたね」
部屋に通されると、ソファで寛ぐキレイな女の人がオレを待っていた。品のある清楚な美人だった。
「あの…ベルデラ様は…?」
「私がベルデラよ」
う! そ!
たっぷり3秒くらいは、大口を開けて驚いてしまった。
その顔を見て、ベルデラと名乗る女性は吹き出した。
「ふふ、貴女達親子は本当にそっくりね。おかけなさい」
「は、はい~」
また扇で殴られるかもという恐怖から、オレは慌ててソファに腰掛けた。
「もう、叩く事はしません。悪かったわね」
「ええ~!?どうされたんですの!?」
悪役ラスボスが、美人なシスターみたいになってしまった!オレ的にはこっちが好きだけど、オレの悪役令嬢としての目標が~。
慌てるオレを無視して、ベルデラは召使いに紅茶を用意させた。そして、落ち着いた頃に、ゆっくりと口を開いた。
「もう、厳しく自分を律する必要は無いと気づいたのです」
「へ?」
「気づかせてくれたのは、貴女達親子よ。感謝してるわ」
「あ、あの。どういう?」
それから、ベルデラは自分の半生を語り出した。
ベルデラは貴族学校でも、飛び抜けて成績の良い生徒だった。だけど、あまり強い後ろ盾も無い子爵家の出だった為、家が格上の生徒達に相当嫌がらせされたらしい。
同じ様な目にあった者達は、その派閥にすり寄るか、うちの母親みたいに逆らわず大人しくしていたそうだ。
だが、ベルデラは違った。
家の格が低かろうと自分には能力がある。ただひたすらそれを信じて、臆する事なく自分を磨き続け、堂々と立ち向かっていたそうだ。
そして少しずつ、彼女を応援してくれる人が現れて、彼女は同世代の貴族や社交界から今や一目置かれる存在になった。
何それ…カッコいい。泣きそう。
「それからずっと、見た目やドレスは女の武器。この侯爵家に何かあれば子爵家の出身と侮られる。その恐怖に怯えていました」
でもあの日。オレから理想の淑女と褒められて、召使い達や、ライバン、お父様の言葉を聞くうちに、いつの間にか自分の周囲にはこんなにも多くの味方がいたんだと気づいたそうだ。
そして、最後のお母様の言葉。
ずっと頑張ってる姿を見てきました。
自分の頑張りを、努力をずっと見ていてくれた人がいる。それだけで、これまでの努力が報われたと感じたらしい。
だから…あんなに泣いてたのか。
「それに、あの後、ライバンが頭を撫でてくれました」
「え?」
「お母様は頑張っていい子ですねって」
それはー。
「貴女がライバンにしてあげたんですってね」
「…はい」
「人は厳しくされるより、認められたい筈なのに。そんな当たり前の事も忘れていたわ。ヴィラ、あの子の努力を認めてくれてありがとう」
「いえ、おにい様はほんとにがんばってますの」
「そうね。侯爵家の跡取りだもの、努力するのは当たり前だわ」
だけど、とベルデラは軽く目を伏せる。
「心の教育はそうじゃないわ。相手の努力を認める事は簡単な様でなかなか出来る事じゃない。自分がトップに立つ立場なら尚更ね」
まるでベルデラ自身に言い聞かせてる様だった。
「でもあの子はそれを出来るようになった。きっとライバンは立派な当主になれるでしょう。貴女が男でなくて、本当に良かった」
「……っ」
ベルデラの言葉がオレの胸に突き刺さった。ズキズキと胸が苦しくなる。
その後は、これからはベルデラ自身がオレの令嬢教育をしてくれる。そういう話をして、オレは離れに帰った。
◇◇◇
離れには、相変わらず、お母様が1人のんびりしていた。
「ヴィラちゃん?どうしたの?」
「……おかあ様、ワタクシくるしい」
「あら、あら。どうしたの?」
泣き出したオレを、お母様がギュッと抱きしめてくれた。母親の安心感と。相変わらずの胸の痛みで、オレは我慢できず、わんわん泣き出した。
どうしてオレは男なんだろう。
オレが女だったら、ライバンやベルデラを騙すこともなく、仲良くやっていけたかもしれない。
だけどいつかオレは、あの人達を裏切らなきゃいけない。
それがただ、ただ苦しかった。
今回は特にマナーチェックでは無く、先日の件でベルデラが用があると言う事だった。
「よく来ましたね」
部屋に通されると、ソファで寛ぐキレイな女の人がオレを待っていた。品のある清楚な美人だった。
「あの…ベルデラ様は…?」
「私がベルデラよ」
う! そ!
たっぷり3秒くらいは、大口を開けて驚いてしまった。
その顔を見て、ベルデラと名乗る女性は吹き出した。
「ふふ、貴女達親子は本当にそっくりね。おかけなさい」
「は、はい~」
また扇で殴られるかもという恐怖から、オレは慌ててソファに腰掛けた。
「もう、叩く事はしません。悪かったわね」
「ええ~!?どうされたんですの!?」
悪役ラスボスが、美人なシスターみたいになってしまった!オレ的にはこっちが好きだけど、オレの悪役令嬢としての目標が~。
慌てるオレを無視して、ベルデラは召使いに紅茶を用意させた。そして、落ち着いた頃に、ゆっくりと口を開いた。
「もう、厳しく自分を律する必要は無いと気づいたのです」
「へ?」
「気づかせてくれたのは、貴女達親子よ。感謝してるわ」
「あ、あの。どういう?」
それから、ベルデラは自分の半生を語り出した。
ベルデラは貴族学校でも、飛び抜けて成績の良い生徒だった。だけど、あまり強い後ろ盾も無い子爵家の出だった為、家が格上の生徒達に相当嫌がらせされたらしい。
同じ様な目にあった者達は、その派閥にすり寄るか、うちの母親みたいに逆らわず大人しくしていたそうだ。
だが、ベルデラは違った。
家の格が低かろうと自分には能力がある。ただひたすらそれを信じて、臆する事なく自分を磨き続け、堂々と立ち向かっていたそうだ。
そして少しずつ、彼女を応援してくれる人が現れて、彼女は同世代の貴族や社交界から今や一目置かれる存在になった。
何それ…カッコいい。泣きそう。
「それからずっと、見た目やドレスは女の武器。この侯爵家に何かあれば子爵家の出身と侮られる。その恐怖に怯えていました」
でもあの日。オレから理想の淑女と褒められて、召使い達や、ライバン、お父様の言葉を聞くうちに、いつの間にか自分の周囲にはこんなにも多くの味方がいたんだと気づいたそうだ。
そして、最後のお母様の言葉。
ずっと頑張ってる姿を見てきました。
自分の頑張りを、努力をずっと見ていてくれた人がいる。それだけで、これまでの努力が報われたと感じたらしい。
だから…あんなに泣いてたのか。
「それに、あの後、ライバンが頭を撫でてくれました」
「え?」
「お母様は頑張っていい子ですねって」
それはー。
「貴女がライバンにしてあげたんですってね」
「…はい」
「人は厳しくされるより、認められたい筈なのに。そんな当たり前の事も忘れていたわ。ヴィラ、あの子の努力を認めてくれてありがとう」
「いえ、おにい様はほんとにがんばってますの」
「そうね。侯爵家の跡取りだもの、努力するのは当たり前だわ」
だけど、とベルデラは軽く目を伏せる。
「心の教育はそうじゃないわ。相手の努力を認める事は簡単な様でなかなか出来る事じゃない。自分がトップに立つ立場なら尚更ね」
まるでベルデラ自身に言い聞かせてる様だった。
「でもあの子はそれを出来るようになった。きっとライバンは立派な当主になれるでしょう。貴女が男でなくて、本当に良かった」
「……っ」
ベルデラの言葉がオレの胸に突き刺さった。ズキズキと胸が苦しくなる。
その後は、これからはベルデラ自身がオレの令嬢教育をしてくれる。そういう話をして、オレは離れに帰った。
◇◇◇
離れには、相変わらず、お母様が1人のんびりしていた。
「ヴィラちゃん?どうしたの?」
「……おかあ様、ワタクシくるしい」
「あら、あら。どうしたの?」
泣き出したオレを、お母様がギュッと抱きしめてくれた。母親の安心感と。相変わらずの胸の痛みで、オレは我慢できず、わんわん泣き出した。
どうしてオレは男なんだろう。
オレが女だったら、ライバンやベルデラを騙すこともなく、仲良くやっていけたかもしれない。
だけどいつかオレは、あの人達を裏切らなきゃいけない。
それがただ、ただ苦しかった。
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