6 / 56
第一部 ここって乙女ゲームの世界らしい
4
しおりを挟む
ちょっとずつ兄弟間の仲が改善に向かってきた頃。
波乱の日がやって来た。
久しぶりの…正妻との対面だ!
オレと母親は離れにいるから、本宅に行く事も、あちらから来る事もない。
でもオレがこの家の長女として認知されて、正式にこの家の娘として婚約を結んだ事で、正妻はオレを淑女として育て上げる義務が出てきた。
産んだのは愛人である母親だけど、トルマリン家の娘として婚姻させるなら、トルマリン家を取り仕切るのは正妻の役割だからだ。
で。とうとうオレは、淑女教育の途中経過を見られる日がやってきた。
着飾ったオレとお母様で、本宅にやって来た。
今夜はちゃんとオレがお呼ばれでマナーに違反しないか正妻のチェックが入る。
案内されたのは本宅の食堂だった。
席には、存在感のうっすい父親と。心配そうにチラチラこちらを見る兄のライバン。
そして。
立ったままオレら親子を迎える、恐ろしく見事に着飾った正妻がいた!ババーン!
出た!ラスボス!
オレはお母様と一緒に正妻の元へ進む。今日はオレのマナーチェックだから、基本オレが自分で挨拶しないといけない。
正妻の元へ赴き、オレは礼を取りながら挨拶した。
「ほんじつは、ごしょうたいいただき、ありがとうございました。ラスボス様」
「…………誰ですかそれは?」
「しつれいしました、ベルデラ様」
やば。素で名前を間違えた!
ベルデラに扇で肩をはたかれた。
「相手の名前を間違えるなど、失礼ですよ!」
「もうしわけ、ございません」
「全く、あなた達親子は揃いも揃って…!」
オレのしょっぱなのつまづきが、ベルデラの怒りに火をつけた様で。
くどくど、くどくど。たっぷり説教をくらった。
その後、すっかり冷めてしまった料理を食しながら、オレはその都度ベルデラに説教をされまくるのだった。
「づ、が、れ、だ」
離れに戻ったオレは、ドレスもそのままに部屋のベッドに突っ伏した。
慣れない緊張感でぐったりだし、ほぼ全てのマナーにダメ出し食らうし、扇でペシペシはたかれるし。散々だった。
元の世界なら幼児虐待だぞ!
今日は珍しくお母様も気疲れしたらしく。
「ドレスは適当に脱ぎ捨てておいて。明日手入れして片づけるわ」
と、さっさと寝てしまった。相変わらず自由な人だ。
でも、オレも…もう眠い…。
◇◇◇
ウトウトした瞼をうっすら開けると。
見慣れた前世の居間のソファに、オレはうつ伏せで寝ていた。
足元にはまた妹がいて、相変わらずゲームに夢中でぶつぶつ呟いている。
また重大な何かを言ってるかもしれない。耳に意識を集中させたいのに…眠い。
「ち…くしょ、ベルデラめ」
扇で叩かれたところも痛いし、意識が少しずつ沈んでいく。
「もう…令嬢なんか…やめたい…」
強い眠気に意識が飲まれる寸前。妹の声が聞こえて来た。
『でも悪役令嬢がいないと、世界が滅びちゃうんだよ』
◇◇◇
目が、覚めた。
カーテンから入り込む陽射しは明るく、オレはドレスのまま、行儀悪くベッドに大の字の状態だった。ガバッと起き上がる。
いま…何て?
妹は何て言ってた?
「あくやくれいじょうがいないと、せかいがほろびる?何で?」
こうしちゃいられないと、オレはドレスを脱ぎ捨て楽な格好になると、ノートとペンを取り出した。
落ち着け、オレ。とりあえず今わかってる事を整理してみよう。
まず、この世界は乙女ゲームの世界で間違いないと思う。登場人物や遣わされし聖なる乙女の設定が同じだから。
で、オレは婚約破棄される悪役令嬢。これは大歓迎だ!なんせオレは男だし!
その後、お母様と一緒に逃亡して平民として暮らす。でもその前にどうにか逃亡資金を貯めないと…。
ここまで考えても、やはり悪役令嬢の必要性が分からなかった。
もしかしてあれかな?いわゆるヒロインと婚約者の恋を燃え上がらせる為の踏み台。当て馬ってやつ?
「うーん…、やっぱり分からない」
ここは逆転の発想でいってみよう。
逆にオレが悪役令嬢を放棄したらどうなる?
①まず男だとカミングアウト→ベルデラに消される。多分。
②淑女教育をさぼる→役立たずで侯爵家から追い出される。お母様と野垂れ死に確定。
③立派な令嬢になるが悪役にはならない→いずれ婚約者にまで男とバレて、相手かうちのどちらかに、親子共々消される。…相手は王族筋だからな、不敬罪だ。間違いない。
「これ、あくやくれいじょうになる以外ないじゃん!」
はぁー、とオレは机に突っ伏した。
悪役令嬢がいないと世界が破滅する理由は分からない。でも逆に、悪役令嬢として婚約破棄してもらわないと、オレが破滅するのは分かった。
もう、腹をくくるしかない。
「あと…なにかわすれてる気がするんだけどな」
何だっけ?
前々回妹から言われた言葉に恐怖で飛び起きたオレは。恐怖のあまり、肝心の妹の言葉をすっかり忘れてしまっていた。
何だかとっても大事な事を忘れてるみたいで、何だか胸がチリチリする。でも忘れた物は仕方ない。
気持ちを切り変えて、これからやるべき事を改めて考えていく。
①逃走経路の確保→敷地内はチェックOK→そろそろ外にも出たい!
②ライバンともうちょっと仲良くなる→いざという時に助けてもらう!
③お金を貯める→敷地内を周りながら、引き続き売れそうな物を拾う!
④金を稼ぐ力をつける→出来そうな事を探す!
⑤身を守る力をつける→男とバレない為にも筋肉つけすぎ注意!
⑥悪役令嬢を目指す→どうやって???
うーん。そもそも悪役令嬢がどんなものかよく分かんないよ。
オレのイメージする悪役令嬢を思い浮かべてみる。
そして…。
「あ!いるじゃん!いい手本が!」
オレはナイスないい案を閃いた!
波乱の日がやって来た。
久しぶりの…正妻との対面だ!
オレと母親は離れにいるから、本宅に行く事も、あちらから来る事もない。
でもオレがこの家の長女として認知されて、正式にこの家の娘として婚約を結んだ事で、正妻はオレを淑女として育て上げる義務が出てきた。
産んだのは愛人である母親だけど、トルマリン家の娘として婚姻させるなら、トルマリン家を取り仕切るのは正妻の役割だからだ。
で。とうとうオレは、淑女教育の途中経過を見られる日がやってきた。
着飾ったオレとお母様で、本宅にやって来た。
今夜はちゃんとオレがお呼ばれでマナーに違反しないか正妻のチェックが入る。
案内されたのは本宅の食堂だった。
席には、存在感のうっすい父親と。心配そうにチラチラこちらを見る兄のライバン。
そして。
立ったままオレら親子を迎える、恐ろしく見事に着飾った正妻がいた!ババーン!
出た!ラスボス!
オレはお母様と一緒に正妻の元へ進む。今日はオレのマナーチェックだから、基本オレが自分で挨拶しないといけない。
正妻の元へ赴き、オレは礼を取りながら挨拶した。
「ほんじつは、ごしょうたいいただき、ありがとうございました。ラスボス様」
「…………誰ですかそれは?」
「しつれいしました、ベルデラ様」
やば。素で名前を間違えた!
ベルデラに扇で肩をはたかれた。
「相手の名前を間違えるなど、失礼ですよ!」
「もうしわけ、ございません」
「全く、あなた達親子は揃いも揃って…!」
オレのしょっぱなのつまづきが、ベルデラの怒りに火をつけた様で。
くどくど、くどくど。たっぷり説教をくらった。
その後、すっかり冷めてしまった料理を食しながら、オレはその都度ベルデラに説教をされまくるのだった。
「づ、が、れ、だ」
離れに戻ったオレは、ドレスもそのままに部屋のベッドに突っ伏した。
慣れない緊張感でぐったりだし、ほぼ全てのマナーにダメ出し食らうし、扇でペシペシはたかれるし。散々だった。
元の世界なら幼児虐待だぞ!
今日は珍しくお母様も気疲れしたらしく。
「ドレスは適当に脱ぎ捨てておいて。明日手入れして片づけるわ」
と、さっさと寝てしまった。相変わらず自由な人だ。
でも、オレも…もう眠い…。
◇◇◇
ウトウトした瞼をうっすら開けると。
見慣れた前世の居間のソファに、オレはうつ伏せで寝ていた。
足元にはまた妹がいて、相変わらずゲームに夢中でぶつぶつ呟いている。
また重大な何かを言ってるかもしれない。耳に意識を集中させたいのに…眠い。
「ち…くしょ、ベルデラめ」
扇で叩かれたところも痛いし、意識が少しずつ沈んでいく。
「もう…令嬢なんか…やめたい…」
強い眠気に意識が飲まれる寸前。妹の声が聞こえて来た。
『でも悪役令嬢がいないと、世界が滅びちゃうんだよ』
◇◇◇
目が、覚めた。
カーテンから入り込む陽射しは明るく、オレはドレスのまま、行儀悪くベッドに大の字の状態だった。ガバッと起き上がる。
いま…何て?
妹は何て言ってた?
「あくやくれいじょうがいないと、せかいがほろびる?何で?」
こうしちゃいられないと、オレはドレスを脱ぎ捨て楽な格好になると、ノートとペンを取り出した。
落ち着け、オレ。とりあえず今わかってる事を整理してみよう。
まず、この世界は乙女ゲームの世界で間違いないと思う。登場人物や遣わされし聖なる乙女の設定が同じだから。
で、オレは婚約破棄される悪役令嬢。これは大歓迎だ!なんせオレは男だし!
その後、お母様と一緒に逃亡して平民として暮らす。でもその前にどうにか逃亡資金を貯めないと…。
ここまで考えても、やはり悪役令嬢の必要性が分からなかった。
もしかしてあれかな?いわゆるヒロインと婚約者の恋を燃え上がらせる為の踏み台。当て馬ってやつ?
「うーん…、やっぱり分からない」
ここは逆転の発想でいってみよう。
逆にオレが悪役令嬢を放棄したらどうなる?
①まず男だとカミングアウト→ベルデラに消される。多分。
②淑女教育をさぼる→役立たずで侯爵家から追い出される。お母様と野垂れ死に確定。
③立派な令嬢になるが悪役にはならない→いずれ婚約者にまで男とバレて、相手かうちのどちらかに、親子共々消される。…相手は王族筋だからな、不敬罪だ。間違いない。
「これ、あくやくれいじょうになる以外ないじゃん!」
はぁー、とオレは机に突っ伏した。
悪役令嬢がいないと世界が破滅する理由は分からない。でも逆に、悪役令嬢として婚約破棄してもらわないと、オレが破滅するのは分かった。
もう、腹をくくるしかない。
「あと…なにかわすれてる気がするんだけどな」
何だっけ?
前々回妹から言われた言葉に恐怖で飛び起きたオレは。恐怖のあまり、肝心の妹の言葉をすっかり忘れてしまっていた。
何だかとっても大事な事を忘れてるみたいで、何だか胸がチリチリする。でも忘れた物は仕方ない。
気持ちを切り変えて、これからやるべき事を改めて考えていく。
①逃走経路の確保→敷地内はチェックOK→そろそろ外にも出たい!
②ライバンともうちょっと仲良くなる→いざという時に助けてもらう!
③お金を貯める→敷地内を周りながら、引き続き売れそうな物を拾う!
④金を稼ぐ力をつける→出来そうな事を探す!
⑤身を守る力をつける→男とバレない為にも筋肉つけすぎ注意!
⑥悪役令嬢を目指す→どうやって???
うーん。そもそも悪役令嬢がどんなものかよく分かんないよ。
オレのイメージする悪役令嬢を思い浮かべてみる。
そして…。
「あ!いるじゃん!いい手本が!」
オレはナイスないい案を閃いた!
570
お気に入りに追加
992
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
婚約者の恋
うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。
そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した!
婚約破棄?
どうぞどうぞ
それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい!
……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね?
そんな主人公のお話。
※異世界転生
※エセファンタジー
※なんちゃって王室
※なんちゃって魔法
※婚約破棄
※婚約解消を解消
※みんなちょろい
※普通に日本食出てきます
※とんでも展開
※細かいツッコミはなしでお願いします
※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます
人違いの婚約破棄って・・バカなのか?
相沢京
BL
婚約披露パーティーで始まった婚約破棄。だけど、相手が違うことに気付いていない。
ドヤ顔で叫んでるのは第一王子そして隣にいるのは男爵令嬢。
婚約破棄されているのはオレの姉で公爵令嬢だ。
そしてオレは、王子の正真正銘の婚約者だったりするのだが・・
何で姉上が婚約破棄されてんだ?
あ、ヤバい!姉上がキレそうだ・・
鬼姫と呼ばれている姉上にケンカを売るなんて正気の沙汰だとは思えない。
ある意味、尊敬するよ王子・・
その後、ひと悶着あって陛下が来られたのはいいんだけど・・
「えっ!何それ・・・話が違うっ!」
災難はオレに降りかかってくるのだった・・・
*****************************
誤字報告ありがとうございます。
BL要素は少なめです。最初は全然ないです。それでもよろしかったらどうぞお楽しみください。(^^♪
*****************************
ただ今、番外編進行中です。幸せだった二人の間に親善大使でやってきた王女が・・・
番外編、完結しました。
只今、アリアの観察日記を更新中。アリアのアランの溺愛ぶりが・・
番外編2、隣国のクソ公爵が子供たちを巻き込んでクーデターをもくろみます。
****************************
第8回BL大賞で、奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様ありがとうございました(≧▽≦)
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが
ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク
王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。
余談だが趣味で小説を書いている。
そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが?
全8話完結
嫌われ悪役令息に転生したけど手遅れでした。
ゆゆり
BL
俺、成海 流唯 (なるみ るい)は今流行りの異世界転生をするも転生先の悪役令息はもう断罪された後。せめて断罪中とかじゃない⁉︎
騎士団長×悪役令息
処女作で作者が学生なこともあり、投稿頻度が乏しいです。誤字脱字など等がたくさんあると思いますが、あたたかいめで見てくださればなと思います!物語はそんなに長くする予定ではないです。
異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。
蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。
見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。
暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!?
山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕!
18禁要素がある話は※で表します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる