79 / 87
第3部 呪いの館 それぞれの未来へ
勇輝の話 2
しおりを挟む
怜と話した翌日から怜の態度はおかしかった。
早朝から「華を助ける方法を探す」と書いた紙だけ置かれて姿をくらまして、夕方に涼しい顔で戻ってきた。いつの間にか外出許可を取っていたようで、騒ぎにはならなかった。
どこに行ってたんだ?と問い詰めると、図書館と答えた。
病院のすぐ隣だった。
「教えてくれたら一緒に行ったのに。で、何か手がかりは見つかったか?」
「あぁ、何とか」
「本当か、すごいな!」
早速情報を聞こうとしたが、今日は疲れたから明日にして欲しいと怜が言ってきた。少しの違和感を感じた。
普段の怜なら、華の救出を後回しにする事は絶対しない筈だ。だが病気で体力が戻ってないからだろうと納得してしまったのだ。
そして翌朝の早朝。
ベッドで眠る華の側で。
横の椅子に座ったまま、華に寄り添う状態で、意識不明の怜が見つかった。
華と手を繋いで、もう片方には血がついたハンカチが握られていた。
連絡をもらって病院に来ていた華の母親の証言では、早朝怜が見舞いに来たそうだ。
子供の時から見知っている為、心よく病室に招き入れた。
ちょうど手続きの関係で病室を空けるところだったので、怜に華を任せ病室を離れた。
そして用事を済ませて戻って来た時には、怜の意識がなかったそうだ。
病気か、発作か、と医者や看護師が怜の様子を調べている。
でも勇輝にはわかった。彼は華の元へ行ったのだ。勇輝は置いていかれたのだ。
何故なのかは、わかった。
あの時、桃への恨みをどうにかしようと言った時。怜は必死だった。体調も本調子じゃないなか、きっと1番良い解決方法を勇輝に提示したが、勇輝は拒否した。
だから失望したのだ勇輝に。
傷ついた怜の顔が思い出される。
だからきっと図書館で何かヒントを見つけて1人で行ってしまった。
でもこの方法はダメだ。ただでさえ、体力を落とした状態であの世界に戻るなんて自殺行為だ。
こんな事なら、怜の言う通りにするべきだった。1人でもっとも大きなリスクを背負わせてしまった。
後悔が勇輝を襲う。
2人とも絶対無事に救い出す。
覚悟を決めて、勇輝は桃の病室へ向かった。
◇◇◇
桃の病室へ向かったのは入院してから初めてだった。怜と華の病室には何度も足を運んだのに。
ノックして病室に入ると、華の祖母がいた。見舞いが遅くなった事を謝り頭を下げた。
いいのよ、あなたも大変だったわね。桃の祖母が椅子を薦めてくれたので大人しく座る。
桃は相変わらず寝ている。下手するとまるで死んでいるようだ。
「せっかくやっと仲の良い友達が出来たのにねぇ、こんな事になって」
祖母が悲しそうな表情で、桃の頬を優しく撫でた。
やっと友達ができた。その言葉に違和感を感じて、勇輝は祖母を見た。
「あの、それってどういう事ですか?こっちでも友達はいたんですよね?」
あらあら、この子は何も話してないのね、と寂しそう笑う。
「この子は小さい頃から苦労してるのよ」
桃の頭を優しく撫でながら祖母が語った内容は、桃の幼少期の話だった。
両親と姉妹の4人家族。桃は長女だった。父親の事業が失敗して生活が苦しくなり、桃だけが祖父母に預けられた。
祖母から見ても、両親は妹の面倒ばかり見て、大人しい、いわゆる良い子の桃はあまり構ってもらえなかったそうだ。
「桃はいい子だから我慢できるでしょ」
それが両親の口癖だったらしい。そして、桃はこの田舎で小学校に通い出したが「親に捨てられた可哀想な子」と噂されていたらしい。
「なんだよそれ、ひどい」
まるで村全体でのイジメのようだった。だから桃は高校の進学を機に、田舎を出たらしい。
自分の過去を知らない環境でやっと出来た友達。それが勇輝達だった。
夏休みに友達連れてくるね、と嬉しそうに祖父母に電話してきた時、本当に良かったと祖父母も一緒に喜んだらしい。
「だから、こんな事があっても桃の友達でいてくれたら嬉しいわ」
桃にとって、自分達の存在がそんなに深い意味を持っていたなんて。
桃のした事は今でも許せない。
それでも、あの世界で自分達が桃にとった行動は間違いだったかもしれない。そう思えた。そして、自分達の行動が違えば、桃の行動も違ったかもしれない。
溢れそうになる涙を堪えて、勇輝は桃の祖母へ「また来ます」と頭を下げて桃の病室を後にした。
友達でいてくれると嬉しい、その言葉に素直に頷けなかったからだ。
だが勇輝の中から桃への嫌悪感が少し薄れた気がした。
それから数時間後、桃が目を覚ましたと連絡が入った。
翌日、桃と話した勇輝は、怜と同じ方法で再び呪いの館に戻ったのだった。
早朝から「華を助ける方法を探す」と書いた紙だけ置かれて姿をくらまして、夕方に涼しい顔で戻ってきた。いつの間にか外出許可を取っていたようで、騒ぎにはならなかった。
どこに行ってたんだ?と問い詰めると、図書館と答えた。
病院のすぐ隣だった。
「教えてくれたら一緒に行ったのに。で、何か手がかりは見つかったか?」
「あぁ、何とか」
「本当か、すごいな!」
早速情報を聞こうとしたが、今日は疲れたから明日にして欲しいと怜が言ってきた。少しの違和感を感じた。
普段の怜なら、華の救出を後回しにする事は絶対しない筈だ。だが病気で体力が戻ってないからだろうと納得してしまったのだ。
そして翌朝の早朝。
ベッドで眠る華の側で。
横の椅子に座ったまま、華に寄り添う状態で、意識不明の怜が見つかった。
華と手を繋いで、もう片方には血がついたハンカチが握られていた。
連絡をもらって病院に来ていた華の母親の証言では、早朝怜が見舞いに来たそうだ。
子供の時から見知っている為、心よく病室に招き入れた。
ちょうど手続きの関係で病室を空けるところだったので、怜に華を任せ病室を離れた。
そして用事を済ませて戻って来た時には、怜の意識がなかったそうだ。
病気か、発作か、と医者や看護師が怜の様子を調べている。
でも勇輝にはわかった。彼は華の元へ行ったのだ。勇輝は置いていかれたのだ。
何故なのかは、わかった。
あの時、桃への恨みをどうにかしようと言った時。怜は必死だった。体調も本調子じゃないなか、きっと1番良い解決方法を勇輝に提示したが、勇輝は拒否した。
だから失望したのだ勇輝に。
傷ついた怜の顔が思い出される。
だからきっと図書館で何かヒントを見つけて1人で行ってしまった。
でもこの方法はダメだ。ただでさえ、体力を落とした状態であの世界に戻るなんて自殺行為だ。
こんな事なら、怜の言う通りにするべきだった。1人でもっとも大きなリスクを背負わせてしまった。
後悔が勇輝を襲う。
2人とも絶対無事に救い出す。
覚悟を決めて、勇輝は桃の病室へ向かった。
◇◇◇
桃の病室へ向かったのは入院してから初めてだった。怜と華の病室には何度も足を運んだのに。
ノックして病室に入ると、華の祖母がいた。見舞いが遅くなった事を謝り頭を下げた。
いいのよ、あなたも大変だったわね。桃の祖母が椅子を薦めてくれたので大人しく座る。
桃は相変わらず寝ている。下手するとまるで死んでいるようだ。
「せっかくやっと仲の良い友達が出来たのにねぇ、こんな事になって」
祖母が悲しそうな表情で、桃の頬を優しく撫でた。
やっと友達ができた。その言葉に違和感を感じて、勇輝は祖母を見た。
「あの、それってどういう事ですか?こっちでも友達はいたんですよね?」
あらあら、この子は何も話してないのね、と寂しそう笑う。
「この子は小さい頃から苦労してるのよ」
桃の頭を優しく撫でながら祖母が語った内容は、桃の幼少期の話だった。
両親と姉妹の4人家族。桃は長女だった。父親の事業が失敗して生活が苦しくなり、桃だけが祖父母に預けられた。
祖母から見ても、両親は妹の面倒ばかり見て、大人しい、いわゆる良い子の桃はあまり構ってもらえなかったそうだ。
「桃はいい子だから我慢できるでしょ」
それが両親の口癖だったらしい。そして、桃はこの田舎で小学校に通い出したが「親に捨てられた可哀想な子」と噂されていたらしい。
「なんだよそれ、ひどい」
まるで村全体でのイジメのようだった。だから桃は高校の進学を機に、田舎を出たらしい。
自分の過去を知らない環境でやっと出来た友達。それが勇輝達だった。
夏休みに友達連れてくるね、と嬉しそうに祖父母に電話してきた時、本当に良かったと祖父母も一緒に喜んだらしい。
「だから、こんな事があっても桃の友達でいてくれたら嬉しいわ」
桃にとって、自分達の存在がそんなに深い意味を持っていたなんて。
桃のした事は今でも許せない。
それでも、あの世界で自分達が桃にとった行動は間違いだったかもしれない。そう思えた。そして、自分達の行動が違えば、桃の行動も違ったかもしれない。
溢れそうになる涙を堪えて、勇輝は桃の祖母へ「また来ます」と頭を下げて桃の病室を後にした。
友達でいてくれると嬉しい、その言葉に素直に頷けなかったからだ。
だが勇輝の中から桃への嫌悪感が少し薄れた気がした。
それから数時間後、桃が目を覚ましたと連絡が入った。
翌日、桃と話した勇輝は、怜と同じ方法で再び呪いの館に戻ったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
牛の首チャンネル
猫じゃらし
ホラー
どうもー。『牛の首チャンネル』のモーと、相棒のワンさんです。ご覧いただきありがとうございます。
このチャンネルは僕と犬のぬいぐるみに取り憑かせた幽霊、ワンさんが心霊スポットに突撃していく動画を投稿しています。
怖い現象、たくさん起きてますので、ぜひ見てみてくださいね。
心霊写真特集もやりたいと思っていますので、心霊写真をお持ちの方はコメント欄かDMにメッセージをお願いします。
よろしくお願いしまーす。
それでは本編へ、どうぞー。
※小説家になろうには「牛の首」というタイトル、エブリスタには「牛の首チャンネル」というタイトルで投稿しています。
月影の約束
藤原遊
ホラー
――出会ったのは、呪いに囚われた美しい青年。救いたいと願った先に待つのは、愛か、別離か――
呪われた廃屋。そこは20年前、不気味な儀式が行われた末に、人々が姿を消したという場所。大学生の澪は、廃屋に隠された真実を探るため足を踏み入れる。そこで彼女が出会ったのは、儚げな美貌を持つ青年・陸。彼は、「ここから出て行け」と警告するが、澪はその悲しげな瞳に心を動かされる。
鏡の中に広がる異世界、繰り返される呪い、陸が抱える過去の傷……。澪は陸を救うため、呪いの核に立ち向かうことを決意する。しかし、呪いを解くためには大きな「代償」が必要だった。それは、澪自身の大切な記憶。
愛する人を救うために、自分との思い出を捨てる覚悟ができますか?
開示請求
工事帽
ホラー
不幸な事故を発端に仕事を辞めた男は、動画投稿で新しい生活を始める。順調に増える再生数に、新しい生活は明るいものに見えた。だが、投稿された一つのコメントからその生活に陰が差し始める。
幸せの島
土偶の友
ホラー
夏休み、母に連れられて訪れたのは母の故郷であるとある島。
初めて会ったといってもいい祖父母や現代とは思えないような遊びをする子供たち。
そんな中に今年10歳になる大地は入っていく。
彼はそこでどんな結末を迎えるのか。
完結しましたが、不明な点があれば感想などで聞いてください。
エブリスタ様、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
食べたい
白真 玲珠
ホラー
紅村真愛は、どこにでもいそうなごく普通の女子高生、ただ一つ彼女の愛の形を除いては……
第6回ホラー・ミステリー小説大賞応募作品
表紙はかんたん表紙メーカー様にて作成したものを使用しております。
叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧Ver
Tempp
ホラー
大学1年の春休み、公理智樹から『呪いの家に付き合ってほしい』というLIMEを受け取る。公理智樹は強引だ。下手に断ると無理やり呪いの家に放りこまれるかもしれない。それを避ける妥協策として、家の前まで見に行くという約束をした。それが運の悪い俺の運の尽き。
案の定俺は家に呪われ、家にかけられた呪いを解かなければならなくなる。
●概要●
これは呪いの家から脱出するために、都合4つの事件の過去を渡るホラーミステリーです。認識差異をベースにした構成なので多分に概念的なものを含みます。
文意不明のところがあれば修正しますので、ぜひ教えてください。
●改稿中
見出しにサブ見出しがついたものは公開後に改稿をしたものです。
2日で1〜3話程度更新。
もともと32万字完結を22万字くらいに減らしたい予定。
R15はGの方です。人が死ぬので。エロ要素は基本的にありません。
定期的にホラーカテゴリとミステリカテゴリを行ったり来たりしてみようかと思ったけど、エントリの時点で固定されたみたい。
ナオキと十の心霊部屋
木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。
山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。
男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。
仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。
呪部屋の生贄
猫屋敷 鏡風
ホラー
いじめっ子のノエルとミエカはミサリをターゲットにしていたがある日ミサリが飛び降り自殺をしてしまう。
10年後、22歳になったノエルとミエカに怪異が襲いかかる…!?
中2の時に書いた訳の分からん物語を一部加筆修正して文章化してみました。設定とか世界観が狂っていますが悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる