【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

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第3部 呪いの館 それぞれの未来へ

怜の場合 2

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 目が覚めると、病室だった。

 華だけが館に取り残される、最悪な状況だった。玲はすぐに勇輝に自分の推測を話した。

「嫌だ。そもそも何で俺の恨みって決めつけるんだよ。華やお前も桃の態度は、おかしいと思っただろ?」
「勇…何も全部を許せと言ってるんじゃないんだ」
「悪いが無理だ。俺は人としてあいつが嫌いだ。それに恨みが原因だと決まった訳じゃないだろ?他にも華を助ける方法が…」

 怜には勇輝の言葉が信じられなかった。

 勇輝は怜にとって唯一華を任せれる相手だった筈だからだ。

 桃への呪いが解ければ、もしかしたら華はすぐ戻って来れるかもしれない。だが、勇輝は自分のトラウマを理由に、その機会を潰したのだ。

 あの時、実際に村人を殺したのは勇輝だけだった。だから、そんな些細な事なんて言うつもりは無い。

 これからも彼は夢に見るかもしれない、その感触が忘れられず悩む事もあるだろう。

 だが…これが怜自身なら、華の為なら自分のプライドやトラウマをあっさり捨てただろう。

 要は覚悟の違いだった。

 怜は華を守る為なら自分を犠牲にする覚悟があり、勇輝はそれが無かった。

 これ迄は、怜が自分以外に華を任せるとしたら、勇輝しかいないと思っていた。でもそうじゃなかった。ただそれだけ。

 そして怜は目覚めた当日から即行動を開始する。そして手がかりを見つけ、1人華の元へ旅立ったのだった。



◇◇◇



 2回目の館での生活は怜にとって天国だった。

 呪われた世界にいて何を言ってるのか、と思われるかもしれないが、それでも彼にとって今までの人生で1番充実していた。

 それはもちろん華がいたからだ。

 自分が作った料理を美味しいと華が食べてくれて、寝る時も同じ部屋ーもちろんベッドとソファで場所は別だがーで、朝起きて互いにおはようと挨拶し合う。

 新婚てこんな感じなのかな。

 ちょっと考えて、照れる。

 華がお揃いの黒ジャージを着ているのを見て、ペアルック…新婚さんみたい。また照れる。

 今までは華と一緒にいても自分の気持ちを抑えてたから、ここまで気持ちが騒ぐ事はなかった。

 でも、もう気持ちがバレたなら、せめて帰るまでは素直になろうと思った。自分が華にしてあげれる事を何でもしてあげたい。

 でもそんな幸せな生活にも終わりは来る。

 彼にとってそれは、もう1人の幼馴染が来た瞬間だった。

 やっと来た、という気持ちと、来てしまった、という複雑な気持ち。

 勇輝が華を抱きしめるのを見て、怜の頭はスッと冷えた。

 前回、青年の部屋で見た勇輝と華のキスを思い出した。そうだ。何を浮かれていたのか。2人は多分両思いだ。

 華はここから出たら勇輝と怜に向き合うと言ってくれた。でも…ここから出た時、自分はもう彼女の側にはきっと居れない。

 そしたら、もう相手は勇輝しかいない。それに、もともと華は勇輝に任せようと思っていたはずなのに。

 心が痛い。

 襟首を掴む勇輝の手を叩いて、先にお風呂に入りたいと伝えた。

 青年か少年にシャワーを浴びてもらう間、仮眠するからと。

「その間、華と一緒にいたらいいよ。華も会いたがってたし」
「ほんと!?」

 勇輝が嬉しそうに、華を振り向いた。

 その後の2人を見たくなくて、華に腕時計を返してもらった怜は、さっさと青年の部屋へ向かう。

 この腕時計は華と勇輝からもらった怜の宝物だった。この先、2人に会えなくなっても、これだけは持っていたい。

 そう思った。

 なのに。

 心を押し殺すのに慣れていた筈なのに。

 一度解放された気持ちは、思う様に押し殺されてくれなかった。
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