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第2部 呪いの館 救出編

37話

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「何年、幼馴染してると思ってるの?怜ちゃん帰るつもりがないんだね」
「……っ」
「どうして?本音で言って」

 先程まで慌てていた怜は、スッと表情を無くした。そんな怜をジッと見つめる。
 
「…華が他の男と一緒にいるの見たくない」
「他の男?怜ちゃん私の事好きなんだよね?なのに何で始めから諦めてるの?どうして?」

 無表情だった怜の顔が少し歪む。

「どうせ叶わないから」
「どうしてそう思うの?」
「いつもそうだから…」

 ポツリポツリ、怜が白状し出した。

 男らしく背が高くなりたいと思って、大嫌いな牛乳も沢山飲んだ。でもたいして大きくならなかった。

 せめてカッコいい男になりたいと勉強も運動も頑張った。だけど病気になった。しかも手術とリハビリに数年かかると言われた。

 それでも華の側にいたいと思ってたら家族全員で海外へ行く事になった。

 彼の願い事はいつも叶わない。

 叶わないなら、始めから望まない方がいい。その方がマシだ。いつの間にかそう考える様になった。

 そして。せめて高校卒業まで日本にいたいと、珍しくワガママを通したけど、それも今回の件で無理になった。

「他の男って…誰?」
「…勇の事好きなんだろ?」
「なんでそう思うの?」
「キスしてただろ。華はきっと好きじゃない奴にそんな事許さない」
「…!」

 確かにそうだ。きっと本当に嫌だったらもっと抵抗している。

「全然知らない奴よりマシだけどね」

 泣きそうな表情で、玲は腕を掴む華の手をそっと解いた。もう放っておいて、と。

 このままでは本当に怜が離れていってしまう。彼が目の前からいなくなってしまう。彼が側にいない未来なんて…嫌だと思った。

 待って、と思わず怜の服の袖を掴んだ。普段クールな怜の泣きそうな顔が辛い。心が痛い。

 でもその顔に華は見覚えがあった。あの頃も彼の泣きそうな顔が辛くて守ってあげたいと思ってたー。

「…子供の時、怜ちゃんもっと泣き虫だったよね。でも気づいたら泣かなくなってた、どうして?」

 怜の動きが止まった。

「ねぇ、どうして?」
「…だって僕が泣いたら、華が無理するから」

 ぐっと唇を噛み締めて、怜が顔を伏せた。

 怜の言葉に華は幼い頃の記憶が蘇る。

 そうだ。
 今では信じられないが、昔、怜はよくからかわれていた。
 綺麗な顔立ちで小さかったから女みたいだって。それをよく華が庇ってた。

 それで泣いた怜といじめっ子の間に入って、突き飛ばされて怪我をした事があった。そういえば、あの頃から怜の泣いた顔を見てない。

 あぁ、そうか。やっと怜の思考がわかった。

 怜の思考を理解したら、ものすごくシンプルだった。

 彼の思考の中心は華なんだ。
 きっと子供の時から。
 なんて…重い一途な気持ちなんだろう。

「そっか。怜ちゃんは約束守ってたんだね」

 守られてばかりなのはカッコ悪いから、いつか華の事守れるくらい強くなるから。小さい時にそう約束した。

 それから彼の中心にはずっと華がいる。

「人の人生を勝手に決めないでよ…。誰といたいかは、私が決める」

 怜の着ていたジャージの襟を掴み、引き寄せる。驚いた顔をしている怜の唇に華はキスした。

 色気の無い、怜との初めてのキス。

「え?なに?何して…」

 訳がわからずに、怜が真っ赤になった。

「会いに来て」
「え?」
「手術終わったら、会いに来て。待ってるから」

 何を言われたのか、わからないという顔をしてる。

 クスッと笑うと、今度は両手で怜の顔を挟んで引き寄せる。

 ずっと器用だと思っていた、この人の不器用さが愛しかった。

 その気持ちのまま、もう一度、怜の唇に口づけた。この想いがどうか届きますように。

「私は貴方といたい。怜ちゃんが好き」
「っ」

 怜の顔が泣きそうに歪む。泣き顔を見せたくないという様に。怜は顔を伏せた。そんな彼を華が抱きしめた。

「まだ不安?」
「…不安。信じられない」
「怜ちゃん、私を見て」

 恐る恐る怜が顔を上げる。
 涙が滲む瞳は不安に揺れていた。

 きっと、望んでも叶わなくて、頑張っても報われなくて。それで捻くれて。諦める方が楽なのに、でも諦められなくて。

 色んな感情が見てとれる。

 だからその瞳を見つめて、もう一度告げた。

「怜ちゃんが好き。幼馴染としてだけじゃなくて、1人の男性として怜ちゃんが好き。これからも私の側にいて欲しい」
「……っ、本当に?」
「うん。私の事信じられない?」
「ううん、華の事は信じてる」

 触れていいのか、不安そうに手をあげたり下げたりしてる。きっと華を不安にさせたくない気遣い。その不器用さが愛しくて。

 そっと怜の手を取り、自分の頬に当てた。彼の存在を確かめる様に。

「怜ちゃんは?ちゃんと聞きたい」
「好きだよ。ずっと。初めて会った時から変わらず」

 とうとう怜がポロポロと涙を流した。
 何とか止めようとするけど、これまで堰き止めていた想いが涙と一緒に溢れ出ているようだった。

「泣いてもいいよ。私、怜ちゃんの泣いてる顔好きみたい」
「ひどい」

 思わず笑い合って。

 見つめ合って。

 今度はお互いからキスをして、愛しい気持ちを込めて抱き合った。

 心があったかくなる。
 きっと、これが愛しいという気持ちなんだ。そう思った。

 怜の温もりを感じながら、華は嬉しいのに、幸せ過ぎて泣きたくなるような気持ちを感じていた。
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