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第2部 呪いの館 救出編

36話

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 怜の瞼が少し震えて、碧い瞳が開いた。だるそうに華を見る。

「…キミ何してるの?」
「…怜ちゃんは?」
「寝てる。今日は特に負担が大きかったからね」

 剣と盾。
 幾度となく今日は使う機会があった。実際に使ってなくても、腕輪から変化させただけで、負担はあるだろう。

 だけど…。
 だとしても、これは…。

「怜ちゃん…どこか悪いの?」
「…この身体が健康そうに見える?」

 怜の顔した少年が上半身を起こしてベンチに座った。だるそうに。

 そういえば前回の時も、盾を使った後は怜がすぐ休んでいたので、少年が話し相手になってくれていた。

 促され隣に座る。

「いつから…」
「知らない。でも最初にココに来た時からそうだったよ」
「ー!?」
「最初の時も、もう1人のユーキて子に比べて体力がなかっただろう」

 勇輝と怜はそもそも体格も体力も違う。だからだと、思い込んでいた。

「最初は何でキミ達は気づかないの?って思ったけど。彼は隠すのがうまいからね」
「…もしかして、またここに来たから酷くなってるの?」
「……前にも言ったでしょ?カレはキミの為なら自分を犠牲にするって。本人も納得の上だよ」

 前に聞いた時は、ここまでの気持ちだと思わなかった。

「そんなの嬉しくない…!」

 腹が立った。こんなの嬉しい訳がない。華にとっても怜は大事な存在だ。彼が無事に帰らなければ、意味がない。

「それ、ちゃんとカレに言いなよ。ちゃんと思った事、相手に伝えて。姉さん達みたいにならないで」

 待ってて。今叩き起こしてあげる。少年が優しく微笑んだ。そしてー。

「ーっ!」

 突然、怜の身体がビクッと動いて呆然とした表情で周囲を見渡した。寝起きみたいな、その表情の瞳は黒い。

「怜ちゃん」
「あれ?華?」

 どこか、まだぼんやりしている。

「私怒ってるの」
「…何で?」

 先程、勇輝と話して明日に備えて寝た筈なのに。気づいたらまだ外で、隣で華が怒ってる。玲は全く訳がわからなかった。

「聞いたよ。病気なの?今回ここに戻って来て酷くなったって」
「それ、誰から…」
「誰でもいい!それよりちゃんと教えて!」

 怒った表情のまま怜に詰め寄る。逃げる事も、嘘を吐く事も許さない。

「ここから帰ったら…もう会えないって…怜ちゃん……死んじゃうの?」

 怖い想像に声が震える。でも聞かないといけない。彼は隠すのが上手だから。

「…待って。華、何か勘違いしてる、それに近いから」

 慌てて身を引く怜に、引いた分近寄る。

「何が?だって怜ちゃん何も言わないじゃない!何が本当で、何が嘘か、何が勘違いかなんてわからないよ!」
「……」
「黙って守られるばかりなのは、もう嫌なの。ちゃんと怜ちゃんの口から話して」
「…わかった。話すから、お願い、ちょっと離れて」

 華が大人しく、身を引いてベンチの端に座った。ホッとして怜も座り直す。

「まず…病気は本当。でも死ぬ程の事じゃない。手術すればちゃんと治る」

 その言葉に華はホッとした。
 怜は、バツが悪そうだった。悪戯がバレた子供の様に、いたたまれない様子だった。

「あと…ここに来て悪くなったのも本当。元々この腕輪の力を使うと負担が大きいけど、今回2つだったから」
「何で言ってくれなかったの?」
「…あの状況なら、僕が2つ着けるしかなかっただろう?勇もいなかったから」

 確かにその通りだ。しかも彼がいなければ、そもそも解呪出来なかっただろう。

「どうして、そこまでしてくれるの?」

 華には理解できなかった。いくら自分の事を好きだとしても、ここまでする理由がわからない。

「…ただ華を守りたかっただけ」
「帰ったらもう会えなくなるのは?」
「…本当」

 怜の返事に、華はショックを受けた。
 まるで目の前が真っ暗になる様だった。

 どうして!?と詰め寄った。
 近い、と怜が後退るが逃がさない。

 怜曰く。元々1人日本に残るのを反対されていたらしい。今回の件で手術も早める事になるだろうから、今まで通りにはいかないそうだ。

「そんな…でもいつかは日本に戻ってくるんでしょ?」
「そうだね。いつかは…。でも手術もすぐ出来るかわからないんだ。その後もリハビリや経過期間もあるだろうし、両親もまだ暫くは向こうに居る予定だから。いつかとしか言えないけど。体調が良くなったら遊びに来るよ。だからそれまで…華も勇輝と仲良くね」

 華の心臓がドクリと鳴った。

 怜の本音を隠す時の癖がそこにあったからだ。青年が、帰ったらもう会えない、と言ってた意味がわかった。
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