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第2部 呪いの館 救出編

33話

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「勇ちゃん!?どうしてここに?」

 華が驚きの声をあげる。華を見つけると、一目散に駆け寄り華を抱きしめた。

「華!遅くなってごめん!怪我してないか?辛くなかったか?」

 ぎゅうぎゅう締め付けられ、若干苦しくなる。だ、大丈夫、苦しいから離して!とお願いしてやっと解放された。

「怜ちゃんが守ってくれたから、大丈夫だよ」
「…怜」

 一瞬、勇輝の顔が苦しそうに歪んだ。そして、側にいる怜にやっと気づいた。

「怜っ!お前!何で置いていった!」

 怜の襟首を掴む。華が慌てて勇輝を止めに入る。

「勇ちゃん、やめて!どうしたの!?」
「こいつが、俺を置いていったから!1人だけ戻りやがって!」

 勇輝は大分興奮しているようだった。襟を掴まれた少年の目が黒にもどる。怜自身に戻った証拠だった。

「何だアホ勇輝。遅い。もう全部終わったぞ」
「お前が全部押し付けてくからだろ!」
「勇ちゃん!ちょっと落ち着いて!怜ちゃん、1人で2つ腕輪をつけたから今とっても疲れてるの!」

 勇輝が怜の腕輪を見る。前回闘う者の腕輪をつけた勇輝だ。その負担はわかるだろう。

「明日には帰れるから、それから話して!」
「ダメだ」
「え?」

 勇輝が真っ直ぐ華を見つめる。

「帰ってからなんて言ったら、こいつは逃げ回る」
「ひどいな」

 怜が嫌そうに呟く。でもそれは図星だった。

「だから華のお願いでも聞けない」
「はぁ…わかった」

 怜が勇輝の手を軽く叩いた。離せの合図だ。とりあえず疲れてるから、先にお風呂に入りたいと言ってきた。

 青年か少年にシャワーを浴びてもらう間、仮眠するからと。

 そんなに疲れているのかと、華は心配になった。

「その間、華と一緒にいたらいいよ。華も会いたがってたし」
「ほんと!?」

 勇輝が嬉しそうに華を振り向いた。うんと頷く。正確には桃と勇輝の2人にだが。

「それと…華、腕時計は返してくれる?」
「え?」
「2人からもらったプレゼントだから、自分で持っていたいんだ」
「…うん、わかった」

 何故、今このタイミングで?
 不思議に思ったけど、華は素直に腕時計を怜に返した。

 それを受け取ると怜はさっさと青年の部屋へ向かって行った。もしかしたら青年に代わったのかもしれない。

 けれど。
 
 その背を見ながら、華は不安になった。

 先程の怜の言葉に何だか突き放された気がした。



◇◇◇



 華と勇輝は食堂へ移動した。
 華もだいぶ疲れてはいたが、向こうでの状況も聞きたいし、桃の事も聞きたかった。

 勇輝に何を飲みたいか尋ねてから、食卓BOXから華は温かいスープとコーラを出した。

 初めてその機能を見た勇輝が、おおー!と大袈裟に感動の声を上げている。その反応が新鮮で思わず華は笑った。

「やっと笑ったな」
「え?」
「何かずっと緊張してるみたいな顔してたから」

 華の隣に座ってコーラを飲みながら、勇輝が華を見てニヤリと笑った。

 緊張というか、ずっと張り詰めていた気がする…。それは無理もなかった。1人取り残されて呪いを解くと覚悟してから、自分なりに突っ走って来たのだから。

 でも、それも今夜で終わりだ。
 華は安堵の息を吐いて、スープを飲む。疲れた身体に温かさが沁みた。そこでハタと気づく。

「あ、そういえば」
「ん?」
「怜ちゃん、疲れてるのに何も食べてない。大丈夫かな?」
「あー。後で言っとくわ」

 怜の名前を聞いて、また勇輝の機嫌が悪くなった。何だか気まずい。雰囲気を変える為、華は気になってた事を話題にした。

「桃ちゃんの様子はどう?」
「あぁ…うん。華は怜にどこまで聞いた?」

 勇輝が何だか歯切れ悪そうに聞いてきた。いつもストレートに色々話す勇輝にしては珍しい。その様子が気になったが、まずは自分が知ってる事を伝える事にした。
 と言っても、そう多くはない。

 洋館から脱出後、華を含め3人とも目覚めず、勇輝が頑張って連れ帰ってくれた事。
 その後、病院へ搬送されて勇輝が親に連絡してくれた事。
 怜は目覚めたが、恨みを受けた桃は目覚めてない事。
 最終的に怜は自力でこの館に戻る方法を見つけてやってきた事。

 大体こんな感じだ。
 話を聞いて勇輝が、ふーっと大きく息を吐いた。華に話す内容を整理できた様だ。

「じゃあ、向こうでの事を話すな。まず桃はもう目が覚めたし、体調も問題ないから大丈夫だ」

 目の前がパァと開けた気がした。
 良かった!友人の回復に華が笑顔になる。

「その様子じゃ…本当に桃を恨んでたのは俺だけだったんだな」

 暗い顔で勇輝が落ち込んだ。

 話を聞くと、桃が目覚めないのはお前が桃を恨んでるからだと怜に言われて、だいぶ困惑したらしい。
 
 桃の華への態度も酷かったし、怜だってそれは知っている筈なのに。

 自分だけが恨んでると言われるのが心外だった。それに、それが事実だとしても、桃を許そうとは思わなかったらしい。

「あれ?でも目覚めたって」
「それは…うん。ちょっとな。病院で桃のおばあちゃんと話す機会があって…詳しくは、あまり俺から話せないけど」

 だが、結果的にそれがキッカケで桃への嫌悪と恨みも、多少緩和されたらしい。

 その後、目覚めた桃とも直接話して、ある程度和解したところで桃の華への恨みも落ち着いたそうだ。

「え?じゃあ、もしかして」
「あぁ。もし仮に呪いが解けていなくても、もう華はここから出れる状態だ。と言っても、もう今更だけどな」

 勇輝が肩をすくめた。勇輝なりに頑張ったが、遅かった様だ。

「そうなんだ。色々頑張ってくれたんだね。ありがとう」

 自分の事を心配して、彼なりに色々してくれてたのだ。その気持ちが嬉しかった。

「惚れ直した?」
「はい、はい。勇ちゃんはいつもカッコいいよ」

 勇輝が冗談ぽく聞いてきたので、華も笑って軽く答えた。

 その様子をじっと見て、今度はテーブルに置かれていた華の手に自分の手を重ねた。

「冗談じゃないんだけど」
「え?」
「来るのが遅くなったけど。華を心配する気持ちは、あいつに負けない」

 真剣な顔で華を見つめた。その視線に緊張が走る。

「何?緊張してるの?」
「あ…」

 勇輝が顔を近づけてきた。

 ーキスされる。

 華は身を強張らせた。
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