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第2部 呪いの館 救出編
24話
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「あの日…」
神社で4人で最後に会った日の夜。家にいた彼の元に、いきなり父親の怒鳴り声が聞こえて来た。そして同時にまだまだ子供の妹の泣き声。
青年は違う部屋にいたから何があったのかは知らない。
ただ、どうやら妹が父を怒らせたらしい事だけは、かろうじてわかった。
父はすごい勢いで家を出て行った。
その隙に青年は泣きじゃくっている妹に、何があったのか聞いた。
友人の姫様と坊ちゃんが自分の国に帰ってしまう。だからいつか遊びに行きたいから、お宝が欲しいとねだったと。
そんな物はない、と父に軽くあしらわれたが、そんな筈ない、長老達と秘密のお宝の話をしているのを聞いたもんとダダをこねた。ほんの小さな子供の反抗。
だが…それを聞いた途端、父親の態度が豹変した。鬼の様に怖い形相で、声も地を這う程低く威圧的になった。
そして一言、父は聞いた。その話を誰かにしたか?と。
あまりの父の変わり様に怯えた妹は、つい素直に言ってしまった。
異人の友達に、異国に行けるように父様に秘密のお宝をおねだりしてみると言ったと。
その後は、青年が聞いたように父は怒鳴り、部屋を出て行ったという。
訳がわからなかった。秘密の宝なんて聞いた事もない。ただ父の怒りは相当だった。嫌な予感がして、妹に家にいる様に言い聞かせて、彼は父の後を追った。
恐らく…行き先は近くの長老達の家。その中でも最長老の家に当たりをつけて様子を伺えば、予想通り数名の男達が集まっていた。
彼の父も含めた村の権力者達だった。
秘密を知られた。逃すな。殺せ。村の男達を集めろ。
不穏な言葉が聞こえて来た。
その後は、この危険を伝える為、彼は真っ直ぐ洋館へ向かった。
以上が彼の知る全てだった。
◇◇◇
怜の中の少年が、青年と交代して表面に出てきた。呆然と彼は呟いた。
「…そういえば、言ってたかも」
あの日の、はなとの会話を思い起こす。
確か、はなちゃんが「またすぐ遊びに来てね」って言ったから。ボクの国はとてもとても遠くて、時間もお金もかかるから、すぐにはまた来れないよって言ったんだ。
そしたら、はなちゃんが。「じゃあね、はなが行く!この間ね、秘密のお宝の話を聞いたの。だからそれでお船に乗って行く」って。
まだ幼い少女とのたわいない会話。
今、話を聞くまで忘れていた位だ。こんな会話に重大な秘密が隠されてるなんて誰が思うだろうか。
でもあの時…彼女にまたすぐ遊びに来るね、と嘘を吐けば、こんな事にならなかったかもしれない。今さら、どうしようもない悔恨に悩まされる。
「今となっては仕方ないわ。でも…あの子がワタシ達に敵意を持っていなかった。それがわかって良かった…」
少女は心からそう思った。例えあの子がきっかけだとしても、妹の様に可愛いがっていたのは事実だ。4人でこの場所で過ごした想い出に嘘はない。
それが今は嬉しかった。
少女の目から一筋の涙が流れた。
空に赤みが混じって来た。いつも空がこんな色合いになる時刻に、またね、と次の再会を約束して別れていた。
でももう次はない。
「ワタシ達、そろそろ行くわ。アナタはどうするの?」
「目が覚めたら、ここに居たんだ。きっと一番好きな場所だからかな。だから最後までここに隠れてるよ。…家には長老達と親父がいるからな」
村長達は家にいる。
彼からの最後の情報。
「気をつけて」
「あなたもね」
お互いに、相手を気遣う言葉を最後に別れた。
◇◇◇
神社からの帰り道。
夕陽が山にかかり、山形のシルエットを浮かび上がらせている。空がまるで燃えている様だ。
「姉さん、今日はもう帰ろう」
「そうね」
もうすぐ夜が来る。
続きは明日だ。
朝からずっと華と怜の身体を酷使している。明日に備えて早めに休んだ方がいいだろう。
無言で館へ向かう。
優美な洋館とあでやかな庭園が美しい夕焼けに照らされている。
門扉にさしかかる寸前。
横の木々の陰から、複数の人間が飛び出して来た。
神社で4人で最後に会った日の夜。家にいた彼の元に、いきなり父親の怒鳴り声が聞こえて来た。そして同時にまだまだ子供の妹の泣き声。
青年は違う部屋にいたから何があったのかは知らない。
ただ、どうやら妹が父を怒らせたらしい事だけは、かろうじてわかった。
父はすごい勢いで家を出て行った。
その隙に青年は泣きじゃくっている妹に、何があったのか聞いた。
友人の姫様と坊ちゃんが自分の国に帰ってしまう。だからいつか遊びに行きたいから、お宝が欲しいとねだったと。
そんな物はない、と父に軽くあしらわれたが、そんな筈ない、長老達と秘密のお宝の話をしているのを聞いたもんとダダをこねた。ほんの小さな子供の反抗。
だが…それを聞いた途端、父親の態度が豹変した。鬼の様に怖い形相で、声も地を這う程低く威圧的になった。
そして一言、父は聞いた。その話を誰かにしたか?と。
あまりの父の変わり様に怯えた妹は、つい素直に言ってしまった。
異人の友達に、異国に行けるように父様に秘密のお宝をおねだりしてみると言ったと。
その後は、青年が聞いたように父は怒鳴り、部屋を出て行ったという。
訳がわからなかった。秘密の宝なんて聞いた事もない。ただ父の怒りは相当だった。嫌な予感がして、妹に家にいる様に言い聞かせて、彼は父の後を追った。
恐らく…行き先は近くの長老達の家。その中でも最長老の家に当たりをつけて様子を伺えば、予想通り数名の男達が集まっていた。
彼の父も含めた村の権力者達だった。
秘密を知られた。逃すな。殺せ。村の男達を集めろ。
不穏な言葉が聞こえて来た。
その後は、この危険を伝える為、彼は真っ直ぐ洋館へ向かった。
以上が彼の知る全てだった。
◇◇◇
怜の中の少年が、青年と交代して表面に出てきた。呆然と彼は呟いた。
「…そういえば、言ってたかも」
あの日の、はなとの会話を思い起こす。
確か、はなちゃんが「またすぐ遊びに来てね」って言ったから。ボクの国はとてもとても遠くて、時間もお金もかかるから、すぐにはまた来れないよって言ったんだ。
そしたら、はなちゃんが。「じゃあね、はなが行く!この間ね、秘密のお宝の話を聞いたの。だからそれでお船に乗って行く」って。
まだ幼い少女とのたわいない会話。
今、話を聞くまで忘れていた位だ。こんな会話に重大な秘密が隠されてるなんて誰が思うだろうか。
でもあの時…彼女にまたすぐ遊びに来るね、と嘘を吐けば、こんな事にならなかったかもしれない。今さら、どうしようもない悔恨に悩まされる。
「今となっては仕方ないわ。でも…あの子がワタシ達に敵意を持っていなかった。それがわかって良かった…」
少女は心からそう思った。例えあの子がきっかけだとしても、妹の様に可愛いがっていたのは事実だ。4人でこの場所で過ごした想い出に嘘はない。
それが今は嬉しかった。
少女の目から一筋の涙が流れた。
空に赤みが混じって来た。いつも空がこんな色合いになる時刻に、またね、と次の再会を約束して別れていた。
でももう次はない。
「ワタシ達、そろそろ行くわ。アナタはどうするの?」
「目が覚めたら、ここに居たんだ。きっと一番好きな場所だからかな。だから最後までここに隠れてるよ。…家には長老達と親父がいるからな」
村長達は家にいる。
彼からの最後の情報。
「気をつけて」
「あなたもね」
お互いに、相手を気遣う言葉を最後に別れた。
◇◇◇
神社からの帰り道。
夕陽が山にかかり、山形のシルエットを浮かび上がらせている。空がまるで燃えている様だ。
「姉さん、今日はもう帰ろう」
「そうね」
もうすぐ夜が来る。
続きは明日だ。
朝からずっと華と怜の身体を酷使している。明日に備えて早めに休んだ方がいいだろう。
無言で館へ向かう。
優美な洋館とあでやかな庭園が美しい夕焼けに照らされている。
門扉にさしかかる寸前。
横の木々の陰から、複数の人間が飛び出して来た。
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