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第2部 呪いの館 救出編
21話
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少年が、ちょっと待って、と言って目を瞑り頭を押さえた。
次に目を開けた時、黒眼に戻っていた。本来の身体の持ち主である怜に交代したようだ。
怜の発した言葉に全員が驚愕した。
「村長の娘はな。僕その人物を知ってる」
◇◇◇
華を助ける為、村の図書館に通って読んだ郷土資料で彼女の名前を見たらしい。
ある年、流行り病で多くの村人が死んだ。生き残った村長の娘が慰霊を願い供養した。その娘の名が「はな」だったという事だ。
「よくそんな短い内容で覚えてたわね」
「沢山の村人が亡くなったというのが気になった。まさか本当に関係あるとは思わなかったけど」
その後、怜は当時の状況を調べようと他にも資料を漁ってみたが、それ以上の事はわからなかったらしい。
今回の事件は異国人と多くの村人が死んだ事件だ。当時もっと騒ぎになってもおかしくないはず。そう予想してこの流行病との関連性は薄いかと思っていた。だが…。
「もしかしたら、故意に事件自体を隠したかったのかもしれないな」
「…どうして?」
「わからない。何か隠したい秘密があったのかもな」
でもこれで確定した。彼女は呪われなかった。でも村人から名前が出るからには何かしら関係はしている筈だ。
この後は村を巡り、はなについて調べる事で話がまとまった。
「他には何か共有しておきたい事はある?」
「あともう一つ。指輪を取り戻したいの」
「指輪?」
少女は悲しげに目を伏せた。今でも思い出すと、怒りと悲しみで心が憎しみに囚われそうになる。
でも、彼女の心の暴走は他の2人に影響する。何とか気持ちを落ち着けて冷静に伝えた。死ぬ直前に大切な婚約指輪を盗まれた事を。
「わかった。じゃあ指輪の行方も合わせて探そう。後は他にない?」
「ええ、この位ね」
「ところで体調は大丈夫?」
「え?そうね、だいぶ落ち着いてきたわ」
「そう。じゃあシャワー浴びて食堂に来て。軽くお昼ご飯作っとく」
「え?」
さっさと怜は部屋から出て行った。
いきなりの話題転換に若干置いてきぼりにされた気がするが…。
いつもあんな淡々とした感じなの?と華とお喋りをしながら、少女は言われた通りシャワー室へ向かった。
◇◇◇
シャワーを浴びて、以前少女がよく来ていた薄手の長袖とロング丈のワンピースに着替えた。髪も下部分から編み込みにして、邪魔にならないようにした。華が可愛い~と喜んでいる。
年頃の少女にとっては、先程まで着ていた黒ジャージという服は…ありえない程のダサさだった。愛しい男性の前なら尚更だ。
ひと息吐いたところで、少女は気になっていた疑問を華にぶつけた。
あのレイという男は恋人なのか?
と尋ねれば、この身体の持ち主のハナという少女は、え?いや、まだそんなんじゃ、いやそうじゃなくて!と慌てている。
では、この前のユウキという男は?と聞けば、え?ゆうちゃん!?あ、彼ともまだそんなんじゃ、いえ、そうでなくて!とこちらでも慌てている。
その反応で、どちらとも友達以上恋人未満なんだと推測する。こんな状況なら、恋愛にうつつを抜かすなんて無理だろう。だけどー。
「大切な言葉はちゃんと相手に伝えてね。ワタシ達の様にすれ違いにならないように」
ハッと息を飲む気配がした。その後、しっかり華が了承した気配が伝わってくる。
その反応に満足して、少女は食堂へ向かった。
◇◇◇
食堂で怜が準備した軽めの食事を取った。
これまで食べたどんな食事よりも、不思議と美味しく感じた。
心身にエネルギーが行き届き、嘔吐して衰弱していた身体…魂が少しずつ元気を取り戻してきた。
「とても美味しかったわ」
「どうも」
「…ところで、外回りをするのに邪魔にならない程度にオシャレにしたんだけど、どうかしら?」
ドリンクを飲んでいた怜が咽せた。
「は?何で僕に聞くの?婚約者に言えば?」
「でも見た目はアナタの友人でしょ?」
「…中身は別人だろ。別に、普通」
彼女がシュンと項垂れる。
「ワタシの中の彼女が落ち込んでるわよ」
「……っ!」
「……」
「……すっげー可愛い!」
真っ赤な顔でボソっと呟いて…彼は中に引っ込んだ。代わりに青年が表面に出てきて、瞳も碧く変化する。
ふふ、なるほどね。
初心な怜の反応に少女は堪え切れず笑った。今の反応で何と無くわかった。
「どうした?楽しそうだな」
青年は穏やかな表情で少女の手をとり、一緒に祭壇へ向かった。
「ふふ、その身体のカレ、少しアナタに似てるんだもん」
「…そうか?」
「えぇ。きっと好きな子以外には冷たいタイプよ」
好きな子に誤解されたくなくて他の女の子にそっけない怜と、身内や好きな子以外に興味がないから他人にそっけない青年と。
思考は違うが、その結果で起こす行動は確かに似てるかもしれない。
「幸せになって欲しいわ、2人とも」
腕輪をつけた手を、祭壇前の台に乗せる。祭壇が光り、扉が現れた。
「ずいぶん気に入ってるんだな」
「今、アナタと一緒にいられるのは2人のお陰ですもの」
少女は、婚約者を見上げて微笑む。
本来なら前回と同じ様に村人を殺した方が2人は早く帰れた筈だ。
それなのに、この身体の少女はこの呪いを解く事を望んでくれた。
そして、彼女に「全てを受け止める」覚悟で向き合ってくれた。それがどれだけ彼女の心を救ってくれたかー。
桃の時は、神社で記憶が戻りかけたが途中で桃が拒んでしまった。
だから中途半端な記憶しか戻らなかった。
今回、華が一緒に受け止めてくれた事で、大事な人と大事な物を思い出せた。少女は華に感謝していた。
「そうだな」
青年は優しく微笑み、再び彼女の手を取りキスを落とした。
彼女の言う通りだ。婚約者の少女との誤解が解けて、こんな風に過ごせるのは確かに2人のおかげだった。
次に目を開けた時、黒眼に戻っていた。本来の身体の持ち主である怜に交代したようだ。
怜の発した言葉に全員が驚愕した。
「村長の娘はな。僕その人物を知ってる」
◇◇◇
華を助ける為、村の図書館に通って読んだ郷土資料で彼女の名前を見たらしい。
ある年、流行り病で多くの村人が死んだ。生き残った村長の娘が慰霊を願い供養した。その娘の名が「はな」だったという事だ。
「よくそんな短い内容で覚えてたわね」
「沢山の村人が亡くなったというのが気になった。まさか本当に関係あるとは思わなかったけど」
その後、怜は当時の状況を調べようと他にも資料を漁ってみたが、それ以上の事はわからなかったらしい。
今回の事件は異国人と多くの村人が死んだ事件だ。当時もっと騒ぎになってもおかしくないはず。そう予想してこの流行病との関連性は薄いかと思っていた。だが…。
「もしかしたら、故意に事件自体を隠したかったのかもしれないな」
「…どうして?」
「わからない。何か隠したい秘密があったのかもな」
でもこれで確定した。彼女は呪われなかった。でも村人から名前が出るからには何かしら関係はしている筈だ。
この後は村を巡り、はなについて調べる事で話がまとまった。
「他には何か共有しておきたい事はある?」
「あともう一つ。指輪を取り戻したいの」
「指輪?」
少女は悲しげに目を伏せた。今でも思い出すと、怒りと悲しみで心が憎しみに囚われそうになる。
でも、彼女の心の暴走は他の2人に影響する。何とか気持ちを落ち着けて冷静に伝えた。死ぬ直前に大切な婚約指輪を盗まれた事を。
「わかった。じゃあ指輪の行方も合わせて探そう。後は他にない?」
「ええ、この位ね」
「ところで体調は大丈夫?」
「え?そうね、だいぶ落ち着いてきたわ」
「そう。じゃあシャワー浴びて食堂に来て。軽くお昼ご飯作っとく」
「え?」
さっさと怜は部屋から出て行った。
いきなりの話題転換に若干置いてきぼりにされた気がするが…。
いつもあんな淡々とした感じなの?と華とお喋りをしながら、少女は言われた通りシャワー室へ向かった。
◇◇◇
シャワーを浴びて、以前少女がよく来ていた薄手の長袖とロング丈のワンピースに着替えた。髪も下部分から編み込みにして、邪魔にならないようにした。華が可愛い~と喜んでいる。
年頃の少女にとっては、先程まで着ていた黒ジャージという服は…ありえない程のダサさだった。愛しい男性の前なら尚更だ。
ひと息吐いたところで、少女は気になっていた疑問を華にぶつけた。
あのレイという男は恋人なのか?
と尋ねれば、この身体の持ち主のハナという少女は、え?いや、まだそんなんじゃ、いやそうじゃなくて!と慌てている。
では、この前のユウキという男は?と聞けば、え?ゆうちゃん!?あ、彼ともまだそんなんじゃ、いえ、そうでなくて!とこちらでも慌てている。
その反応で、どちらとも友達以上恋人未満なんだと推測する。こんな状況なら、恋愛にうつつを抜かすなんて無理だろう。だけどー。
「大切な言葉はちゃんと相手に伝えてね。ワタシ達の様にすれ違いにならないように」
ハッと息を飲む気配がした。その後、しっかり華が了承した気配が伝わってくる。
その反応に満足して、少女は食堂へ向かった。
◇◇◇
食堂で怜が準備した軽めの食事を取った。
これまで食べたどんな食事よりも、不思議と美味しく感じた。
心身にエネルギーが行き届き、嘔吐して衰弱していた身体…魂が少しずつ元気を取り戻してきた。
「とても美味しかったわ」
「どうも」
「…ところで、外回りをするのに邪魔にならない程度にオシャレにしたんだけど、どうかしら?」
ドリンクを飲んでいた怜が咽せた。
「は?何で僕に聞くの?婚約者に言えば?」
「でも見た目はアナタの友人でしょ?」
「…中身は別人だろ。別に、普通」
彼女がシュンと項垂れる。
「ワタシの中の彼女が落ち込んでるわよ」
「……っ!」
「……」
「……すっげー可愛い!」
真っ赤な顔でボソっと呟いて…彼は中に引っ込んだ。代わりに青年が表面に出てきて、瞳も碧く変化する。
ふふ、なるほどね。
初心な怜の反応に少女は堪え切れず笑った。今の反応で何と無くわかった。
「どうした?楽しそうだな」
青年は穏やかな表情で少女の手をとり、一緒に祭壇へ向かった。
「ふふ、その身体のカレ、少しアナタに似てるんだもん」
「…そうか?」
「えぇ。きっと好きな子以外には冷たいタイプよ」
好きな子に誤解されたくなくて他の女の子にそっけない怜と、身内や好きな子以外に興味がないから他人にそっけない青年と。
思考は違うが、その結果で起こす行動は確かに似てるかもしれない。
「幸せになって欲しいわ、2人とも」
腕輪をつけた手を、祭壇前の台に乗せる。祭壇が光り、扉が現れた。
「ずいぶん気に入ってるんだな」
「今、アナタと一緒にいられるのは2人のお陰ですもの」
少女は、婚約者を見上げて微笑む。
本来なら前回と同じ様に村人を殺した方が2人は早く帰れた筈だ。
それなのに、この身体の少女はこの呪いを解く事を望んでくれた。
そして、彼女に「全てを受け止める」覚悟で向き合ってくれた。それがどれだけ彼女の心を救ってくれたかー。
桃の時は、神社で記憶が戻りかけたが途中で桃が拒んでしまった。
だから中途半端な記憶しか戻らなかった。
今回、華が一緒に受け止めてくれた事で、大事な人と大事な物を思い出せた。少女は華に感謝していた。
「そうだな」
青年は優しく微笑み、再び彼女の手を取りキスを落とした。
彼女の言う通りだ。婚約者の少女との誤解が解けて、こんな風に過ごせるのは確かに2人のおかげだった。
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