上 下
51 / 87
第2部 呪いの館 救出編

21話

しおりを挟む
 少年が、ちょっと待って、と言って目を瞑り頭を押さえた。
 次に目を開けた時、黒眼に戻っていた。本来の身体の持ち主である怜に交代したようだ。

 怜の発した言葉に全員が驚愕した。

「村長の娘はな。僕その人物を知ってる」



◇◇◇



 華を助ける為、村の図書館に通って読んだ郷土資料で彼女の名前を見たらしい。

 ある年、流行り病で多くの村人が死んだ。生き残った村長の娘が慰霊を願い供養した。その娘の名が「はな」だったという事だ。

「よくそんな短い内容で覚えてたわね」
「沢山の村人が亡くなったというのが気になった。まさか本当に関係あるとは思わなかったけど」

 その後、怜は当時の状況を調べようと他にも資料を漁ってみたが、それ以上の事はわからなかったらしい。

 今回の事件は異国人と多くの村人が死んだ事件だ。当時もっと騒ぎになってもおかしくないはず。そう予想してこの流行病との関連性は薄いかと思っていた。だが…。

「もしかしたら、故意に事件自体を隠したかったのかもしれないな」
「…どうして?」
「わからない。何か隠したい秘密があったのかもな」
 
 でもこれで確定した。彼女は呪われなかった。でも村人から名前が出るからには何かしら関係はしている筈だ。

 この後は村を巡り、はなについて調べる事で話がまとまった。

「他には何か共有しておきたい事はある?」
「あともう一つ。指輪を取り戻したいの」
「指輪?」

 少女は悲しげに目を伏せた。今でも思い出すと、怒りと悲しみで心が憎しみに囚われそうになる。

 でも、彼女の心の暴走は他の2人に影響する。何とか気持ちを落ち着けて冷静に伝えた。死ぬ直前に大切な婚約指輪を盗まれた事を。

「わかった。じゃあ指輪の行方も合わせて探そう。後は他にない?」
「ええ、この位ね」
「ところで体調は大丈夫?」
「え?そうね、だいぶ落ち着いてきたわ」
「そう。じゃあシャワー浴びて食堂に来て。軽くお昼ご飯作っとく」
「え?」

 さっさと怜は部屋から出て行った。

 いきなりの話題転換に若干置いてきぼりにされた気がするが…。

 いつもあんな淡々とした感じなの?と華とお喋りをしながら、少女は言われた通りシャワー室へ向かった。



◇◇◇



 シャワーを浴びて、以前少女がよく来ていた薄手の長袖とロング丈のワンピースに着替えた。髪も下部分から編み込みにして、邪魔にならないようにした。華が可愛い~と喜んでいる。

 年頃の少女にとっては、先程まで着ていた黒ジャージという服は…ありえない程のダサさだった。愛しい男性の前なら尚更だ。

 ひと息吐いたところで、少女は気になっていた疑問を華にぶつけた。

 あのレイという男は恋人なのか?
 と尋ねれば、この身体の持ち主のハナという少女は、え?いや、まだそんなんじゃ、いやそうじゃなくて!と慌てている。

 では、この前のユウキという男は?と聞けば、え?ゆうちゃん!?あ、彼ともまだそんなんじゃ、いえ、そうでなくて!とこちらでも慌てている。

 その反応で、どちらとも友達以上恋人未満なんだと推測する。こんな状況なら、恋愛にうつつを抜かすなんて無理だろう。だけどー。

「大切な言葉はちゃんと相手に伝えてね。ワタシ達の様にすれ違いにならないように」

 ハッと息を飲む気配がした。その後、しっかり華が了承した気配が伝わってくる。

 その反応に満足して、少女は食堂へ向かった。



◇◇◇



 食堂で怜が準備した軽めの食事を取った。

 これまで食べたどんな食事よりも、不思議と美味しく感じた。

 心身にエネルギーが行き届き、嘔吐して衰弱していた身体…魂が少しずつ元気を取り戻してきた。

「とても美味しかったわ」
「どうも」
「…ところで、外回りをするのに邪魔にならない程度にオシャレにしたんだけど、どうかしら?」

 ドリンクを飲んでいた怜が咽せた。

「は?何で僕に聞くの?婚約者に言えば?」
「でも見た目はアナタの友人でしょ?」
「…中身は別人だろ。別に、普通」

 彼女がシュンと項垂れる。

「ワタシの中の彼女が落ち込んでるわよ」
「……っ!」
「……」
「……すっげー可愛い!」

 真っ赤な顔でボソっと呟いて…彼は中に引っ込んだ。代わりに青年が表面に出てきて、瞳も碧く変化する。

 ふふ、なるほどね。
 初心な怜の反応に少女は堪え切れず笑った。今の反応で何と無くわかった。

「どうした?楽しそうだな」

 青年は穏やかな表情で少女の手をとり、一緒に祭壇へ向かった。

「ふふ、その身体のカレ、少しアナタに似てるんだもん」
「…そうか?」
「えぇ。きっと好きな子以外には冷たいタイプよ」

 好きな子に誤解されたくなくて他の女の子にそっけない怜と、身内や好きな子以外に興味がないから他人にそっけない青年と。

 思考は違うが、その結果で起こす行動は確かに似てるかもしれない。

「幸せになって欲しいわ、2人とも」

 腕輪をつけた手を、祭壇前の台に乗せる。祭壇が光り、扉が現れた。

「ずいぶん気に入ってるんだな」
「今、アナタと一緒にいられるのは2人のお陰ですもの」

 少女は、婚約者を見上げて微笑む。

 本来なら前回と同じ様に村人を殺した方が2人は早く帰れた筈だ。

 それなのに、この身体の少女はこの呪いを解く事を望んでくれた。

 そして、彼女に「全てを受け止める」覚悟で向き合ってくれた。それがどれだけ彼女の心を救ってくれたかー。

 桃の時は、神社で記憶が戻りかけたが途中で桃が拒んでしまった。

 だから中途半端な記憶しか戻らなかった。

 今回、華が一緒に受け止めてくれた事で、大事な人と大事な物を思い出せた。少女は華に感謝していた。

「そうだな」

 青年は優しく微笑み、再び彼女の手を取りキスを落とした。

 彼女の言う通りだ。婚約者の少女との誤解が解けて、こんな風に過ごせるのは確かに2人のおかげだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

疑心暗鬼

dep basic
ホラー
高校3年生のシュンは、イケメンで成績優秀な完璧な生徒だが、日常の退屈さに悩んでいた。しかし、ある日を境に彼の平凡な学校生活は一変する。不可解な出来事が次々と起こり始め、シュンは自分の周りで起こる怪奇現象の謎を解き明かそうとする。

ZUNBE

田丸哲二
ホラー
【愛のあるホラー&バトル・ストーリー】  さしすせそのソの二つ前の「ズンビ」。それは「ゾンビ」より格上の最強の生物だった。  強酸性雨に濡れた街で宇宙から到達したウイルス性微生物(ミズウイルス)が雨水に混在し、人間が感染して最強の生物が誕生した。  それは生物学者と少年の研究により、ゾンビより二つ格上のズンビと呼ばれ、腹部の吸収器官より脳細胞のエキスを吸い取って知能と至高の快楽を得る。  しかも崩れた肉体を修復し、稀に記憶と知性を持つ者も存在した。  隼人は母親が強酸性雨に濡れて感染し嘆き苦しんだが、狂ったモンスターに殺されそうになった時、何故か他のズンビを倒して助けられ、スーパーズンビと呼んで慕い始め母の記憶が戻るのではないかと微かな希望を抱いた。  そしてスーパーズンビの力を借りて、友人の家族と一緒に生き延びようと街から逃走した。 [表紙イラスト、まかろんkさまからお借りしてます。]

ゴスウッドファミリー ー奇妙な夜ー

dep basic
ホラー
物語の舞台は、周りから不気味で奇妙だと思われているゴスウッド家。 彼らの豪邸は、古びた塔と枯れた庭に囲まれ、町の人々から恐れられている。 ゴスウッド家は家族全員が独特な能力や癖を持ち、外界との関わりを極力避けているが、彼らは彼らなりの幸せな生活を送っている。 ある晩、ゴスウッド家に謎の訪問者が現れる。 家族の誰とも違う、普通に見える人間だったが、彼にはある秘密があった。 この訪問者の登場により、ゴスウッド家の生活が少しずつ変わり始める。 家族の中で何が起こるのか?奇妙な家族と訪問者の間にどんな物語が展開されるのか?

平行世界のリトルさん

やなぎ怜
ホラー
とある世界にアライドという男がいる。とある世界にリトルという女がいる。そしてリトルという女がアライドという男との日々を語り合う、本来交わらないはずの平行世界を繋ぐ掲示板が存在している――。これはその掲示板に書き込まれた怖かったり不思議だったりする一部のレスを抜粋しただけのもの。

絶対絶命遊戯~結末は絶望のみ~

昆布海胆
ホラー
デスゲーム、それは死のゲーム。 それを行う力を持つ存在が居た。 これは命を天秤に賭ける絶望の物語・・・

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

ようこそ、不運の駄菓子屋へ

ちみあくた
ホラー
濃い霧が発生した或る日の早朝、東野彩音は、元暴走族の恋人・大矢千秋が運転する改造車の助手席にいた。 視界が悪い上、二日酔いでハンドルを握る千秋にヒヤヒヤさせられっぱなしの彩音。 そのせいか酷く喉が渇き、飲み物を求めて小さな駄菓子屋へ入っていくが、そこは噂に名高い幻の店だ。 極めて不運な人間しか辿り着く事ができず、その不運を解消する不思議な駄菓子を売っていると言う。 しかし、時に奇妙で、時に奇跡とも思える駄菓子の効果には恐るべき副作用があった…… エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...