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第2部 呪いの館 救出編

18話※

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 ※不快なシーンがあります。


ーーー


 突然真っ黒なモヤがいたるところから湧いてくる。それは視界全体を黒に染めた。

 それを感じて華は理解した。

 ここから先が…きっと桃が神社で見た光景。そして彼女が死ぬ直前に起きた出来事。

 彼女の記憶が追えば、今度こそ悲劇が起きた理由がわかるだろうか…。

 黒いモヤで全体の視界は悪い。それだけ思い出したく無い過去。

 彼女は弟に匿われた部屋に隠れていたが…不幸な事に、彼女は気づいてしまった。大事な指輪を部屋に置いてきたことに。

 普段の彼女なら、もっと慎重に行動した筈だろう。

 だが、先程見たショッキングな光景が彼女の精神状態を不安定にしていた。

 沢山の村人の死体。全身血に塗れでその真ん中に立ち尽くした彼は、全く知らない人の様だった。

 彼が一生側にいると約束してプレゼントしてくれた大事な指輪。それは彼女を支えてくれる宝物だった。

 彼女は隠れ部屋を飛び出した。

 彼女の部屋は屋敷内でも奥にある。

 村人が襲撃してきてもすぐには辿り着けないだろう。

 自分の部屋に駆け込むと、すぐ奥の机に向かう。指輪は机の上に、箱に入った状態でそのまま置かれていた。

 良かった…あった。無くさないよう指輪を嵌める。

 そして元の隠れていた部屋に向かおうと、踵を返したところで、彼女の足が止まった、

 部屋の入り口から数人の村人が入って来たところだった。手に武器を持って、獲物を見つけて笑っていた。

 その後の事はよく覚えていない。

 何も感じたくない。彼女の心は麻痺した。何も見たくない。彼女の目から意思の光が消えた。何も発したくない。彼女の口から言葉が消えた。何も聞きたくない。彼女の耳は何も音を拾わなくなった。

 肌にあたる空気の暖かさで、彼女は夜が明けたのだとぼんやり思った。正気でいてはいけない。再び自らを殻に閉じ込めようとした彼女の耳に、それは聞こえてきた。

 ー恨むなら、はな様を恨むんだな。

 昨日会った黒髪の少女。何故、彼女の話が。ぼんやり思考する。考えてはいけない。心に鍵をかけないと。

 ー助けはこない。お前の弟とあの男は死んだ。

 心が壊れた。

 叫んだ気も、するが、全てが、スロ   ーモーションの、ようだった。 誰か が、剣 を、彼女へ 向けた。ソレハ、アノヒト ノ…。 ソレハ、 カノジョニ トッテ、 ノ、 スク イ。 ミズカ ラ、 トビコン ダ。

 赤。赤。赤。
 全体は黒いモヤで覆われているのに、鮮血が鮮やかに見えた気がした。意識が…朦朧として…生命が消えようとしている…。

 誰かが、彼女の手を取った。一晩ずっと握り締めていた彼女の拳はあっけなく広げられる。

 ソレは彼女にとっての宝物。

 彼女の生命が尽きる寸前、指に嵌めていた婚約指輪は何者かに盗まれた。



◇◇◇



 意識が覚醒すると同時に、華は絶叫した。狂った様に叫び続ける。

 正気でいてはいけない。思い出してはいけない。感じてはいけない。見てはいけない。聞いてはいけない。

 何故弟が!何故彼が!殺されなければならなかった!

 許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。

 恨め。恨め。恨め。恨め。恨め。

 村人も皆殺しだ。この村ごと呪ってやる。子供1人残らず殺してやる。手始めはあの黒髪のヤツだ!!!

「華!」

 パンッと乾いた音がした。

 頬の痛みに呆然とする。

 叩いた相手を見ると…サラサラの黒髪に切長の黒眼の少年。

「華!僕がわかる!?」

 華の両肩を掴んで、必死に聞いてくる。彼はー。

「怜…ちゃん?」
「良かった…正気に戻った」

 怜は、クシャッと泣きそうに顔を歪めた。

「なにが…」
「ベッドでそのまま気を失っていたんだ。起きたと思ったら、いきなりずっと叫んでるから」

 気絶したまま彼女のベッドでそのまま寝かされていたようだ。

 突然、華の全身に鳥肌が立った。彼女の部屋。悲劇が起きたあのー。

 先程の悲劇を思い出し、華はそのまま嘔吐した。
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