【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

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第2部 呪いの館 救出編

10話

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 華は祭壇の前に立った。

 外に出るにはこの祭壇から許可を取らねばならない。台の上に3つの腕輪を嵌めた手を載せた。

 華の脳裏にあの声が響いてくる。

『闘う者と護る者はわかった。求める者はどこだ』

「彼女は、今説得中です」

『ー何?』

 華は簡単に事情を説明した。

 今回は自分1人しかいない事。

 彼女の霊から他の2人とは嫌だと拒否された事。

 あの日何が起きたか真実を調べようと思っている為、手始めに館の周辺から捜査しようと思っている事。

『決めるのは求める者だ』

「はい。最終的には彼女に委ねます。ただ、このままでは埒があかない。それにー」
 
 華は女神像を真っ直ぐ見上げる。

「真実を明らかにする事。貴方が本当に望んでいるのはそれですよね?」

『……』

「貴方は、この3人の父親でしょ?親なら何故子供達がこんなひどい殺され方をしたのか。真実を知りたい筈」

『……そこまで辿りついたか』

 祭壇が眩しく光る。
 光が止むと、祭壇のあった場所には大きな扉が現れた。

『どうか…真実を…』

 声が消えた。

 華は1人扉を開けて庭園へ出る。

 今回は復讐する事を選んでないから、きっと相手は死人ではない筈だ。

 だが、3人を殺した犯人が複数だと考えると何が起きるかわからない。

 今回は柵の向こうには青空と田園が広がっていた。緑が青々として、涼しい風がその葉を揺らしている。

 その光景を、華は美しいと感じた。

 現代にも田園風景はあるが、自分達の時代よりも遥かに空気が澄んでいて…空気が美味しい気がした。
 
 風が心地良い。少年がこの村が好きで色々探検していのがわかる気がした。

 門扉から一歩出て周囲を見渡す。

 前回は死人の集まりが取り囲んでいたが、今回は人影もない。

 どうしようか…。
 何かあった時の事を考えると、あまり遠出はしたくない。

 華が思案していると近くの田畑から農作業姿の村人、老夫婦がやって来た。

「こんにちは、あの、お聞きしたい事があるんですけど…」
「…なんじゃ?見かけん顔じゃな。ずいぶん破廉恥な格好した女子じゃあ」
「へ?破廉恥!?」
 
 華は自分の格好を見る。
 お気に入りの少し大きめのTシャツと女性向けのショートパンツ。

 ここに迷い込むまでは、夏休みで自然と戯れていたので軽装だった。

「そんなに脚出して。若いもんに襲われるぞ」
「えぇ!?」
「…とりあえず用件は何じゃね」

 破廉恥とか襲われるとか、不穏なキーワードで脳内がグルグルする。

 青年と少年から、落ち着け!と叱咤を受けて、何とか華は冷静さを取戻した。

「え~と、この洋館の皆さんは殺されるくらい憎まれてるんでしょうか?」

 …取り戻してなかった。

 ストレートに聞き過ぎた華も、聞かれた村人もお互いポカーンとしてる。

「あの館の異人さんの事かね?」
「は、はい、そうです!」

 村人が先に冷静さを取り戻して尋ねた。

「姫様も坊ちゃんも会った時に挨拶もしてくれるからのう。特に村の者に憎まれてるとは聞かんがのぅ」
「それに、みんな綺麗な顔立ちだから、仲良くなりたいとは思っても嫌いになる者はおらんと思うがねぇ」

 お爺さんとお婆さんが首を傾げる。特に嘘をついてる様子も無さそうだ。

「姫様?坊ちゃん?」
「わしらとは格が違うからのぅ。きっと異国の高貴な方々に違いないと、村ではそう呼ばれとるんじゃ」
「……もう1人いますよね。無愛想なのが」
「あぁ、無愛想な方は若様と呼ばれとる」

 若様!似合わない!

 思わず吹き出しそうになったが、華の中で青年が羞恥で悶えているので何とか抑えた。

 どうやら特に評判が悪いという訳じゃなさそうだ…。それならあとは…。

「じゃあ、例えば、何かそういうつもりは無くても、村の人を怒らせてしまう事はありますか?」
「そりゃ悪気は無くても、相手を怒られせてしまう事はあるじゃろう。それは別に村の者だからとか関係ないと思うがの…。変な事を聞く女子じゃのう」
「…確かに、そうですね…」

 確かにその通りだ。でもうまく聞きたい事が聞き出せない、自分のコミュ力が妬ましい。

「まぁ、とにかく異人さんが良い人なのは、村の者もわかってると思うぞ。それよりあんた、異人さんの知り合いかね」
「はい、一応…」
「じゃあ今日は沢山採れたからのう、異人さんにお裾分けじゃ、渡しといておくれ」

 ドンと、何本かのサツマイモを渡された。もちろん土も泥々についたままだ。意外に重くて華はよろける。
 
 そんな華を見て、そんなヘッピリ腰じゃ赤ん坊を沢山産めんぞ~と老夫婦は笑いながら去って行った。

 良い人達だった…。

 前回の死人の襲撃とあまりにも違いすぎて拍子抜けだ。

 もしかして、前回の状況が異常なだけで…普段はこんな穏やか感じだったのだろうか…。

『…そうだよ。元々はこういう感じだよ』

 坊ちゃんと呼ばれていた少年から返事が聞こえた。

 緑豊かな村に優しい村人。

 少年が前回の世界を異常だと言った理由も今ならわかる。

『ー全員が善人とは限らない』

 青年が不機嫌そうに言った。

 確かに、村人の全員が善人とは限らない。でなければあんな惨劇が起きる筈がない。華がやるべき事は少しずつ村人と接触してそれに関わった人間を探す事だ。

 でもとりあえず、まずはこのサツマイモだ。館に置いて来よう。華が踵を返して門に入ろうとした瞬間ー。

「ー!!」

 背後から何者かに口を押さえられた。
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