【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

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第2部 呪いの館 救出編

2話

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 4日目。

 奇跡は起きない。
 勇輝と怜が助けに来るかもしれない。そんな甘い考えも消えた。

 こんな所にまた来るわけがない。そもそも、また来れるかもわからない。

 涙も枯れ果てた。

 今日も、華は食堂でココアを飲む。

 今日はココアのお供に、学校で大人気の卵サンドを加えた。争奪戦で普段なかなか味わえないレア物だ。

「ラーメンの次はサンドイッチにしたって言ったら…桃ちゃん何て言うかな?」
 
 卵サンドを食べながら、前に桃の前でラーメンを食べた時のやりとりを思い出す。

 扉が閉まる前に見えた桃の倒れる姿。彼女は大丈夫だっただろうか?

 怜に入っていた霊に諭され、自分の桃への態度を省みてから、結局、謝る機会を作れなかった。

「桃ちゃん、ごめんね。無事でいて」

 倒れた友人を思い謝罪を口にする。彼女はもう…自分を友と思ってないかもしれないけれど。

「帰らなきゃ」

 桃にも顔を合わせて謝りたい。

「勇ちゃんにも返事しなきゃいけないし」

 正直、まだ心は決まってない。でもちゃんと向き合うと決めたから。

「怜ちゃんもきっとすごく心配してるはず」

 本人の口から告白はされていない。でも怜の気持ちにも、ちゃんと向き合うと決めた。

 だから、もう泣かない。
 次に泣くのは、みんなに会えた時の嬉し涙だ。

 華は覚悟を決めた。



◇◇◇



 卓上BOXから、どんぐりを1つ取り出してテーブルの端に置いた。

 テーブルに4個のどんぐりが並ぶ。

 昨日、現実を受け止めた後。華はどんぐりを3個並べた。そして今日また1つ並べた。

 ココに来て4日目という印。
 
 あと何日この場所で過ごすかわからないが、1日1つ加えていくつもりだ。

 更に食卓BOXからヘアゴムを取り出して、華は髪を上部分でお団子ヘアにした。

 さて、気持ちは決まった。
 後はやる事をやろう。

 華は食堂から、祭壇へ向かった。



◇◇◇



 祭壇の前に着くと目に入る物があった。

 台の上。腕輪の横に並ぶ、腕時計とビーズの指輪、ゲームコインだった。

「これ…」

 泣かないと決めたのに、込み上げてくるものがある。

 必死で溢れそうになる涙を落ち着かせてから、華はそれらを手に取った。

 怜の時計は手首に。自分の指輪は元あった指に。そして勇輝のゲームコインはポケットに。

 空間が元に戻った時に、一緒に消えてしまった思っていた。

 怜と勇輝が応援してくれている。そんな気がした。

「よしっ!」

 パンッと頬を軽く叩いてから、華は腕輪に視線を向けた。

 途端、脳裏に言葉が響いてきた。

『闘う者よ、護りし者よ、求める者を守り答えを示せ。闘う者よ、護りし者よ、求める者を守り答えを示せー』

「っ…そんな何度も言わなくても…聞こえてる…!」

 延々と頭の中で繰り返される言葉に、華はたまらず腕輪を3つまとめて掴んだ。

 本来なら3人の人間が必要なのだろう。だが今ここには華しかいない。

「絶対…帰るんだから…!」

 掴んだ腕輪を、腕時計をつけた側と反対側に一気にまとめてつけた。

 腕輪から眩しいが放たれた。
 思わず目を閉じる。
 ここまで、前回と同じだ。

 徐々に光が収まり、ゆっくりと目を開けた時、やはりあの光景が広がっていた。

 小さな男の子2人と女の子が1人。部屋の中をかけっこをして遊んでいた。恐らく、あの3人の幽霊の子供時代の想い出。

 音は聞こえないのに、キャッ、キャッと楽しそうな声が聞こえてきそうだ。

 幸せな家族のワンシーン。
 優しい想い出。

 あの時は、ただ恐怖で怯えただけだったが、今の華には気になる事があった。

 ーこれは誰から見た想い出だったのだろうか。

 華は、後ろの祭壇。その上の女神像を見上げた。

「これは…あなたの想い出なの?」

 答えはない。

 そのうち、1人1人がバラバラに行動しだす。

 前回と同じように祭壇を背にして、男の子の1人は右側の壁へ。残りの男の子と女の子は左側の壁へ向かって同じように消えた。

 子供たちが消えた壁に前回同様ドアが現れた。



◇◇◇


 
 前回は恨みを晴らす為、村人を皆殺しにした。恐らくそれが此処を出るのに1番早い。でも代償があった。

 ー恨みには恨みを。

 最後にあの女神像が言ったセリフ。

 正確な事はわからないが、恐らく華は恨みを買ったのだ。だから呪いを受けて此処に閉じ込められた。

 恨みを買った相手。思いつくのは1人しかいない。

 でも今の華には彼女を恨む気持ちは不思議な程、無かった。

 多分最初にそうなるキッカケを作ったのは自分だ。自分の何がそんなに彼女を追い込んだのか。それを純粋に知りたいと思った。

 今度は誰も不幸にならないように解決したい。それには、もう一つの選択肢である『彼らが殺された日に何があったのか』を調べるしかない。

 恐らくこの大規模な呪いをかけた人物も本当に望んでいるのはそれだ。

 ポケットに手を突っ込んでメダルを触る。勇ちゃんどうか私を守って。ギュッと握り願掛けをして、華は最初の扉に向かった。
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