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第1部 呪いの館 復讐編
23話
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家屋を出た後に、桃が向かったのは山の方向だった。
何か核心があるのか、華以外の3人の顔は強張っている。張り詰めた空気を察して華も大人しくついて行く。
山の入り口手前に石階段があった。
この先は…恐らく神社だ。今回は勇輝でなく、桃が先頭を歩いている。
呪い…神社…。呪いの核心に近づいている気がして、華は緊張してきた。
数十段の階段を上ると、緑豊かな場所。その奥に祠があった。
ピーと鳥の鳴き声が聞こえる。
「…ここ覚えてる」
桃が呟く。
ここに来るのは誰かに会う為。
確か、ここに来る時は、いつも弟と来ていた。
桃は怜を振り返る。
怜も桃を見て頷いた。彼も覚えている。誰だったかは覚えてないが、何だか胸が温かくなる感じがする。
その時、祠の陰から人影が出て来た。死人だ。
恐らく若い男性だが、やはり全身茶色く干からびて、所々は骨が見えていた。ゆらゆら、手を伸ばしてこっちに近寄ってくる。
「ボクが前に出る」
怜が盾を掲げて、3人の前に出た。
ガキッと音がして、盾が死人の進入を阻む。うーうー、と死人がうなっている。
桃はそのわずかに残った面影から、何かを探るように見た。
自分は何か大事な事を忘れている。
自分は何故殺された?あの華という女の子を見て苦しくなったのは何故?
何故?何故?何故?何故?何故?
桃の中に疑問が渦巻く。
もう少しで何かを思い出せそうだった。
その時、死人から微かな声がした。
「に…げ…ろ」
「!」
桃の中で何かが弾けた。
彼は…。
次の瞬間、死人の首が舞った。
そのまま身体がドサッと倒れて、首が落ちて転がった。
勇輝が剣についた液を振り払った。
「何をするんだ!」
怜が勇輝に詰め寄る。
「彼が最後だ。これで恨みを晴らすのは完遂した」
何でもない事のように勇輝は言って…仄暗く笑った。
「あ…」
桃が倒れた死人の身体と頭を凝視した。恐怖の為なのか、身体が震えている。
「桃ちゃん大丈夫?」
思わず華が駆け寄り、身体を支えた。
「あ、あの時も…」
「あの時も…?」
「あの時もこんな風に…」
桃が泣きながら勇輝を見た。勇輝は無表情で桃を見つめている。
「アナタが彼を殺したのね」
「そうだ」
抑揚のない声で、勇輝の中の彼が答えた。
「何故…」
勇輝は答えない。
「そうよ、彼が殺されて、ワタシ…ワタシは…」
桃がハッとして、身体を守るように抱きながらうずくまった。恐怖で身体が震える。
思い出してはいけない。
頭の奥から警鐘の声がする。
きっと思い出したら正気ではいられない。嫌なのに、一度綻びた鍵は否応無く外れていく。
アノトキワタシハーーー
「いやあぁぁぁぁ!!」
桃が絶叫した。
それまで碧かった目が黒に戻る。桃の人格に戻った筈だが、絶叫は止まらない。
「いやぁ!やめて!怖い!こんなの見たくない!やめてーーー!」
桃がうずくまる。
怜や勇輝が近寄ったが、来ないでぇと桃は泣き叫ぶ。その半狂乱ぶりに華が、慌てて桃ちゃん!と声をかけた。
「……華ちゃん、助けて!あの女が、死ぬ前のこと思い出して、わたしに見せてくるの!あぁ…見せないで、こんなの嫌!」
わあぁぁと泣いて華に抱き縋る。
自分が殺される映像…。考えるだけで恐怖に目眩がしそうだ。少しでも恐怖が薄らぐように、華は桃を抱きしめた。
どの位そうしていただろうか。
時折気のふれたような叫び声を上げていた桃が少し落ち着き始める。震えも静まってきたのを見て、華が桃に声をかけた。
「落ち着いた?」
「…華ちゃん、ありがとう」
グスッと桃が涙を拭う。
何も聞かない方がいい。華は桃が立ち上がるのを気遣う。
少し離れた所で、勇輝や怜が見守っていた。憔悴してる桃に代わりに、華が2人に尋ねる。
「これで恨みを晴らすのは終わりですか?」
「ああ、もうこの世界に生きているヤツはこの4人以外、いない」
勇輝が仄暗い表情で笑った。
隣の怜も顔色が悪い。恨みを晴らしたというのに、少しも嬉しそうではなかった。
「もう、帰りたい…」
桃が呟いてまた泣いた。そんな桃を抱きして、うん帰ろう、華は呟き返した。
何か核心があるのか、華以外の3人の顔は強張っている。張り詰めた空気を察して華も大人しくついて行く。
山の入り口手前に石階段があった。
この先は…恐らく神社だ。今回は勇輝でなく、桃が先頭を歩いている。
呪い…神社…。呪いの核心に近づいている気がして、華は緊張してきた。
数十段の階段を上ると、緑豊かな場所。その奥に祠があった。
ピーと鳥の鳴き声が聞こえる。
「…ここ覚えてる」
桃が呟く。
ここに来るのは誰かに会う為。
確か、ここに来る時は、いつも弟と来ていた。
桃は怜を振り返る。
怜も桃を見て頷いた。彼も覚えている。誰だったかは覚えてないが、何だか胸が温かくなる感じがする。
その時、祠の陰から人影が出て来た。死人だ。
恐らく若い男性だが、やはり全身茶色く干からびて、所々は骨が見えていた。ゆらゆら、手を伸ばしてこっちに近寄ってくる。
「ボクが前に出る」
怜が盾を掲げて、3人の前に出た。
ガキッと音がして、盾が死人の進入を阻む。うーうー、と死人がうなっている。
桃はそのわずかに残った面影から、何かを探るように見た。
自分は何か大事な事を忘れている。
自分は何故殺された?あの華という女の子を見て苦しくなったのは何故?
何故?何故?何故?何故?何故?
桃の中に疑問が渦巻く。
もう少しで何かを思い出せそうだった。
その時、死人から微かな声がした。
「に…げ…ろ」
「!」
桃の中で何かが弾けた。
彼は…。
次の瞬間、死人の首が舞った。
そのまま身体がドサッと倒れて、首が落ちて転がった。
勇輝が剣についた液を振り払った。
「何をするんだ!」
怜が勇輝に詰め寄る。
「彼が最後だ。これで恨みを晴らすのは完遂した」
何でもない事のように勇輝は言って…仄暗く笑った。
「あ…」
桃が倒れた死人の身体と頭を凝視した。恐怖の為なのか、身体が震えている。
「桃ちゃん大丈夫?」
思わず華が駆け寄り、身体を支えた。
「あ、あの時も…」
「あの時も…?」
「あの時もこんな風に…」
桃が泣きながら勇輝を見た。勇輝は無表情で桃を見つめている。
「アナタが彼を殺したのね」
「そうだ」
抑揚のない声で、勇輝の中の彼が答えた。
「何故…」
勇輝は答えない。
「そうよ、彼が殺されて、ワタシ…ワタシは…」
桃がハッとして、身体を守るように抱きながらうずくまった。恐怖で身体が震える。
思い出してはいけない。
頭の奥から警鐘の声がする。
きっと思い出したら正気ではいられない。嫌なのに、一度綻びた鍵は否応無く外れていく。
アノトキワタシハーーー
「いやあぁぁぁぁ!!」
桃が絶叫した。
それまで碧かった目が黒に戻る。桃の人格に戻った筈だが、絶叫は止まらない。
「いやぁ!やめて!怖い!こんなの見たくない!やめてーーー!」
桃がうずくまる。
怜や勇輝が近寄ったが、来ないでぇと桃は泣き叫ぶ。その半狂乱ぶりに華が、慌てて桃ちゃん!と声をかけた。
「……華ちゃん、助けて!あの女が、死ぬ前のこと思い出して、わたしに見せてくるの!あぁ…見せないで、こんなの嫌!」
わあぁぁと泣いて華に抱き縋る。
自分が殺される映像…。考えるだけで恐怖に目眩がしそうだ。少しでも恐怖が薄らぐように、華は桃を抱きしめた。
どの位そうしていただろうか。
時折気のふれたような叫び声を上げていた桃が少し落ち着き始める。震えも静まってきたのを見て、華が桃に声をかけた。
「落ち着いた?」
「…華ちゃん、ありがとう」
グスッと桃が涙を拭う。
何も聞かない方がいい。華は桃が立ち上がるのを気遣う。
少し離れた所で、勇輝や怜が見守っていた。憔悴してる桃に代わりに、華が2人に尋ねる。
「これで恨みを晴らすのは終わりですか?」
「ああ、もうこの世界に生きているヤツはこの4人以外、いない」
勇輝が仄暗い表情で笑った。
隣の怜も顔色が悪い。恨みを晴らしたというのに、少しも嬉しそうではなかった。
「もう、帰りたい…」
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