【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

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第1部 呪いの館 復讐編

15話

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 怜を見ていると気恥ずかしいのと、シャワーを浴びて落ち着いたらお腹が空いた事で、華は食堂へ向かった。

 食堂に入ると先客がいた。

 桃だった。ハンバーグを食べていたようだ。華を見つけてニッコリ笑う。

「あ、華ちゃんもお腹空いたの?一緒に食べよ」

 親しげに言われて華は戸惑う。嫌われている筈なのに、学校にいた時と変わらない。

「ふふっ、別に華ちゃん自身を嫌いじゃないよ~」

 さあさあ、座って、と自分の向かいを促す。戸惑いながらも、歯向かうのが怖くて、大人しく座った。

 食卓の中央に箱のような物があり、食べたいのをイメージして蓋をあけるよう言われた。

 言われた通り、蓋を開けると…。

「わぁ…」

 まさに今食べたい物が入っていた。トレーに載っていたのでそのまま引き出す。

「華ちゃんそれ…」
「うん。学校近くの麺麺楽亭の1日限定10食の餃子&天心&小籠包付スペシャルラーメン!」

 華の目がキラキラ輝く。人気メニューだから、いつも争奪戦なのだ!

「…ふふっ、ははは!華ちゃん最高!」

 桃がお腹を抱えて笑ってる。どんな高い物でも注文し放題なのに、まさかのラーメン!

「そ、そんな変かな?美味しいよ?」

 困惑してる華にまた笑った。

 ひとしきり笑った後、桃が華を見つめる。

「あーあー、やっぱり華ちゃんには敵わないな~」
「え…と?」
「養殖じゃなくて天然だもんね、敵うわけないかぁ、はー」

 桃が寂しそうに軽く笑って夕飯の続きを食べる。桃の言葉が気になったが、華もそのままラーメンを啜り出した。

 食堂でラーメンの啜る音だけが響き…華は居た堪れなくなった。
 
「あ、あの…気になってた事があって」
「…なぁに?」
「その…オバケ退治が終わったら、私達は帰って、魂は戻るってどういう意味かなって…」
「んー」

 桃が目を閉じて考え込んで…。

「わかんない」
「え?桃ちゃんでもわからないの?」
「わかんない事だらけだよ。わたしの中の幽霊が引きこもってるからね、あまり情報ないんだ」

 桃が言うには、中に入ってる幽霊と記憶や知識を共有できるらしい。だが、彼女は死んだ時のショックでほとんど記憶がないそうだ。

 ただ昼間のオバケ探索は、桃の中の彼女が協力してたから出来た事だと説明された。彼女は求める者に相応しく復讐相手を探索する能力があるそうだ。

 そっか、中に入ってる幽霊と共有して…共有…。という事はやっぱりあの怜の幽霊が言ってた事は怜の気持ちな訳で…。

「なぁに?怜くんと何かあった?」
「ぐふっ」

 桃の鋭い指摘に華はむせた。お水と一緒に喉に詰まった餃子を飲み込む。

「ふーん」

 桃はニヤニヤして華を見ている。

「大事な人ほど、意外に近くにいるものよ?そのまま怜くんとくっついたらいいのに。そしたら、わたしは傷心の勇くんを慰めてあげるの」
「な、そんなんじゃ」

 華はわかりやすく真っ赤になった。

「ふふっ、やっと華ちゃんが怜くんを意識してくれた。怜くんの中の幽霊のお陰かな?ふふっ、楽しくなってきちゃった」
「桃ちゃんは…どうしてそんなに勇ちゃんが好きなの?」
「……」

 それまで楽しそうだった桃が急に黙りこむ。そして少し泣きそうな顔で、ないしょ、と言った。

「わたし勇くんに差し入れ持ってこ!」

 空気を変えるように桃が立ち上がる。そのまま食卓中央のBOXを開けると、中からサンドイッチと牛乳パックが出てきた。

 あ、購買のカツサンド。すぐ華は気づいた。勇輝の好きなやつだった。

 じゃあね~!と桃は食堂を出て行った。

 突風みたいな奴。

 そういえば怜が、桃の事をそう言い表していたのを思い出して可笑しくなる。華はそんな桃の唐突で元気なところが好きだった。

 この世界に来なければ、彼女とは今でも仲の良い友人でいられただろうか。

 寂しい気持ちに浸りながらラーメンを食べ終わり、そろそろ部屋に帰ろうとしていた頃。

 すぐ隣の部屋から、大きな音と怒鳴り声がした。場所的に勇輝の部屋だ。

 食べた食器をそのままに華は食堂を飛び出した。勇輝の部屋のドアは閉まっていた。

 まだ大きな音や声は続いている。

 確か今は部屋に勇輝と桃がいる筈だ。

 ノックするべきか一瞬考えたが、恐る恐るドアを開けた。

 部屋の奥。何かを喚きながら、勇輝がタンスに頭を打ちつけていた。

 後ろから桃が泣きながら、そんな勇輝を必死に止めようとしている。

 床には桃が持ち込んだサンドイッチや牛乳パックが転がっていた。

「勇くんやめて!死んじゃう!」
「俺がっ、俺が殺したっ!たくさん、たくさんっ!人を…」
「ちがうよ!あれは人じゃない!見たでしょ?汚い化け物だったでしょ?」

 桃の言葉に勇輝は頭を打ちつけるのをやめて、振り返って桃を睨んだ。

「化け物じゃない…」
「え?」
「化け物じゃない…そう見えるよう、俺達の方が呪われたんだ…」
「ー!?」
「お前にわかるか…?この手で首を跳ねる感触…あんな…うっ」
「そんな…」

 勇輝が座り込んで吐いた。

 ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら勇輝に触れようとして…勇輝に思い切り突き飛ばされた。

「触るなっ!出てけ!ここにいるなら殺してやるっ…」

 ゾッとするほど憎悪に満ちた声だった。桃もビクッとして、後ずさる。
 
 何か言おうとしたが、桃は俯くとそのまま踵を返した。

 入り口で立ち尽くしていた華と目が合う。一瞬驚いた顔をしたが、そのまま顔を伏せて部屋から出て行った。

 再び華が勇輝に目を向けると。彼はうずくまり、泣きながらまだ吐いていた。

 もしかしたら、自分も怒鳴られるかもしれない。それでもこんなにも弱った幼馴染を華は放っておけず、華は勇輝の元へ向かって歩き出した。
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