【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

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第1部 呪いの館 復讐編

10話

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 桃がニコリと笑った。

「いつも華ちゃんだけ2人に大事にされてズルいって思ってたから。ねえ、華ちゃんは知ってた?私、勇くんの事好きなの。なのに、勇くんは華ちゃんの事ばかり気にして告白もさせてくれないの。それに怜くんは、わたしと華ちゃんとの前で態度違いすぎるし…」
「……」
「あ、でもね、さすがに殺そうとまでは思ってないよ!あれはさっきの女の人が誰かと間違えてたみたい」

 真っ青な顔で無言になった華に、桃は「あれ?華ちゃ~ん」と眼前で手をふる。

「だからね、こうなって良かったって思って!だってわたし達、友達でしょ?片方だけ贔屓されるのは良くないと思うの。だからココにいる間は、わたしが普段どんな気分だったか華ちゃんも分かればいいわ」

 語尾にハートマークがつきそうな口調で楽しそうに桃が笑った。



◇◇◇



「そろそろ行くぞ」

 華と桃の会話が一区切りした所で、勇輝が声をかけてきた。

「あ、は~い。待って勇くん」

 桃が甘えた様に勇輝の腕に抱きついた。勇輝は嫌そうに眉を顰める。

「見た目は違うかもしれないけど、わたしの中にいるんでしょ?」
「何をー」
「貴方の大事な人」
「ー!」
「彼女、死んだ時のショックであまり貴方の事を覚えてないみたいよ」
「…なんだって」
「なら、わたしに優しくした方がいいんじゃない?わたしを通して彼女見てるわよ」
「…いいだろう。オレが表面に出ている間だけは優しくしてやる」

 そう言って勇輝は、桃の肩を優しく抱き寄せた。



◇◇◇



 仲の良かった仲間の3人は幽霊に取り憑かれ、別人になってしまった。

 自分を好きだと告白してくれた人は、自分を殺さんばかりに睨んでくる。

 もう1人は今のところ落ち着いているように見えるが、決して仲間ではない。

 唯一の女友達だと信じていて子は、自分の事を妬み嫌っていた。

 勇輝と桃が連れ立って行くのを見て、華は苦しくて辛くて涙が零れた。

 「ココから出たら」と勇輝は言っていたが、そもそも華にはその方法がわからない。

「大丈夫?」

 怜が声をかけてきた。瞳は碧いままなので、別人格の彼だ。

「大丈夫じゃないです…。みんなおかしくなるし、帰り方もわからないし…」

 華がポツポツ思っていた事を話す。

 そんな華を怜はジッと見て、ため息をついた。その仕草は、元の怜を思わせる。

「そうだね、キミはコレをつけてないからー」

 怜が腕輪を見せた。確かに数が足りない為、華はつけてない。

 アイツが怒るから向かいながら話そう、と怜は華を促した。

 一緒に祭壇に向かいながら、怜は出来る限りの情報を華に教えてくれた。

「もう気付いてると思うけど、この腕輪は呪われた道具なんだ」

 華は頷いて続きを促した。

「さっき部屋で見たでしょ?コレに触るとこの家で殺された霊に憑かれる」
「殺され…た?」

 華の血の気が引く。

 サラッと言ってるが、それは今話してる彼自身の事だ。

 3人の霊は元はこの館の住人で、昔複数の村人によって殺された事。
 その恨みから、この館と当時の村と村人には呪いがかけられた事。
 村人を全て皆殺しにするか、住人が殺された原因を解明するか。そのどちらかを成し遂げないと、元の世界には戻れない事。

 以上を簡潔に教えてくれた。

「でも村人を殺すって…桃ちゃんのお祖父さんとお祖母さんもいるのに…」
「それは大丈夫。殺すと言っても今生きている人達じゃない」

 怜の不可解な言葉に、華は首をかしげる。

「ボクらは当時の村人に殺された。だから皆殺しにしろと言ってるのは、当時の村人の事だ」
「当時の?」
「そう。この館を一歩出たら、当時の村と村人達がいる。その村人を殺して恨みを晴らすか、村人を調べて何故ボク達が殺されたか調べないといけない」
 
 すでに勇輝と桃は祭壇の前に到着していた。台の上に腕輪を嵌めた側の手を載せ、祭壇上の女神像に何か話しかけていた。

「あの、貴方達3人て…」
「あの子に入ってるのはボクの姉。そして彼の中に入ったのは姉の婚約者だ」
「婚約者…」

 だから桃に優しいのかと納得する。何だかツキンと胸が痛んだ。

「アイツはボクと違って、元々この国の人を嫌っている。だから容赦なく村の人も殺すだろう…そしてキミのことも。出来るだけ近づかないで」

 怜の顔で、勇輝に近づくなと言う。また泣きそうになったが、グッと抑えて頷いた。

「もう行こう。止められないなら、せめて近くで、これ以上ひどくならないようにしないと」

 怜が華の手を引く。

「あ、あの…貴方の事は何て呼べば?」
「…好きに呼んで。ボク達は名前を覚えていない」
「え?」
「キミたちと同じだよ。ボク達もまた呪われて、この場所に縛られているんだ」

 怜の顔した彼は、悲しそうに微笑んだ。
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