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第3部 呪いの館 それぞれの未来へ

勇輝の話 3

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 光に向かって走っていた気がする。

 見覚えのある扉が見えて、思い切り開け放した。

「ー華!無事か⁉︎」
「勇ちゃん!?どうしてここに?」

 いた。華だ。一目散に駆け寄り華を抱きしめた。

「華!遅くなってごめん!怪我してないか?辛くなかったか?」

 久しぶりに目を覚ましている華に会って感極まってしまった。ぎゅうぎゅう抱きしめてしまい、だ、大丈夫、苦しいから離して、と華の声がして慌てて解放した。

「怜ちゃんが守ってくれたから、大丈夫だよ」
「…怜」

 側にいる怜にやっと気づいた。

「怜っ!お前!何で置いていった!」

 怜の襟首を掴む。華が慌てて勇輝を止めに入る。

「勇ちゃん、やめて!どうしたの!?」
「こいつが、俺を置いていったから!1人だけ戻りやがって!」

 身体が弱ってるのに、こんな無茶しやがって。本当は大丈夫か?と優しい声をかけたい筈なのに、今は怜への怒りが勝ってしまう。

「何だアホ勇輝。遅い。もう全部終わったぞ」
「お前が全部押し付けてくからだろ!」
「勇ちゃん!ちょっと落ち着いて!怜ちゃん、1人で2つ腕輪をつけたから今とっても疲れてるの!」

 勇輝が怜の腕輪を見る。前回闘う者の腕輪をつけた勇輝だ。その負担はわかる。

「明日には帰れるから、それから話して!」
「ダメだ」
「え?」

 勇輝が真っ直ぐ華を見つめる。

「帰ってからなんて言ったら、こいつは逃げ回る」
「ひどいな」

 怜が嫌そうに呟く。玲がこんな言い方をするのは図星の時だ。

「だから華のお願いでも聞けない」
「はぁ…わかった」

 怜が勇輝の手を軽く叩いた。離せの合図だ。とりあえず疲れてるから、先にお風呂に入りたいと言ってきた。

 青年か少年にシャワーを浴びてもらう間、仮眠するからと。

 そんなに疲れているのかと、勇輝は不安になった。昨日と今日、2日分の疲れはどれだけ怜を苦しめただろう。

「その間、華と一緒にいたらいいよ。華も会いたがってたし」
「ほんと!?」

 勇輝が嬉しそうに、華を振り向いた。少しでも勇輝を思い出してくれたなら、こんな嬉しい事はない。

 怜はさっさと青年の部屋へ向かって背を向けている。青年に代わったのかもしれない。

 とりあえずは、今は少しでも怜を休ませないと。勇輝は、言葉に甘えて久しぶりに華と過ごす事にした。



◇◇◇



 怜がシャワーを浴びた後は、庭園に移動した。華に聞かせたくないから、と怜が希望したからだ。

 前回以上に、庭園は美しくなっていた。いや、洋館も柵の向こうの村も何もかもが別物だった。

「前と全然違うんだな」
「これが本来の状態らしい」

 怜の言葉にそうか、と呟く。

 俺達はきっと始めから間違っていたんだ。

 といっても、部屋で幽霊に取り憑かれた後はほとんど自由に動けなかったから、今さらだが。

 庭園のベンチまで来て怜が座った。勇輝は側に立ったままだ。

「それで話って?」
「何で俺を置いてった。桃との和解が無理でも、俺も連れて行った方が負担も少なかっただろ。誤魔化すなよ」

 じっと怜を見つめる。誤魔化すのは許さない。ため息を吐きながら観念したように怜が答えた。

「時間がなかった」
「は?俺に説明する時間くらいあっただろう」
「その時間も惜しかった」

 どういうこと?だと勇輝が尋ねる。

 怜の両親が来たら、その時点で怜は強制的に転院か手術か海外へ連れて行かれる。だから両親が来る前にここに戻る必要があったと言った。

「そんな強制的にって…」
「病気が少しでも悪くなったらすぐ連れて行く。そういう約束だったんだ」

 元々高校進学の時点で海外に行く予定だったのを、無理やり日本に残ったらしい。言われてみれば持病もあるのだ。相当反対されたに違いない。

「てことは、お前目覚めたら」
「多分もう学校にも行かせず無理やり連れて行かれるだろうな」

 横暴な、とは言えなかった。

 大切な家族を日本に1人残して、体調が悪くなったなら。自分が家族でも同じことをするだろう。

「お前…華には言ってないのか?」
「言えるわけない」
「おい、ふざけんな。体調悪いのを隠して助けに来て、ここから出たら会えなくなるとか、どれだけあいつが傷つくと思ってんだ!お前、あいつの事好きなんだろ!?」
「だからだよ!」

 だから言えない、泣きそうな表情で怜が良い募る。

「好きだって事も言うつもりは無かった!卒業したら離れなきゃいけない。手術やリハビリも、どのくらいかかるかわからない。待っててなんて言えない」

 だから1番近い仲の良い幼馴染のままで良かった、そう言って玲は辛そうに顔を歪めた。

「幼馴染のままで…良かったんだ。でも2人で一緒にいたら嬉しくて…離れたくなくて…苦しい。助けて勇、僕どうしたらいい?」

 涙を流さぬまま、泣いてるみたいだった。子供の頃は、あんなに泣き虫だったのに。いつから怜はこんなに我慢強くなったのか。

「馬鹿やろう!後悔残して向こうに行ったって気持ちが無くなる訳ないだろう。明日ギリギリまで待ってやる」
「……」
「華の為にもここから出たら暫く会えなくなる事は言うべきだ」
「……わかったよ」

 力なく俯きながら、怜が返事した。

「じゃあ俺は先に戻るから、腕輪1つ寄越せ。俺が引き受けるから。明日に備えて早く休めよ」
「わかった。少し頭冷やして戻る」

 怜から闘う者の腕輪を受取り、それを嵌めた瞬間、勇輝は青年に意識を乗っ取られた。
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