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第3部 呪いの館 それぞれの未来へ

華の場合 1

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 華とほぼ同時刻。別部屋で寝かされていた勇輝も目覚めた。

 だが怜だけは何故か目を覚ます事はなかった。



◇◇◇



 検査を受け、自身の体調に問題がない事を確認して母親を安心させた後。華は母親に怜の様子を聞いた。

 怜は中学に入った頃に見つかった病気が悪化し、一時期危険な状態だったらしい。

 本来は生命に関わるものではないはずが、華の病室で昏睡状態になってからみるみる体力が落ちていったそうだ。

 それを聞いて華はゾッとした。

 もし今もあの場所にいたとしたら、怜は本当に危なかったかもしれない。

 今は医者も驚く程、体力も回復し数値も安定している。

 ただ目を覚さない。

 理由がわからず、もっと大きな病院へ転院させるべきかと怜の両親と病院側で話合いがされているそうだ。

 何とか顔だけでも見たい。

 相談してみたが、華も勇輝も暫くは絶対安静にするようにと、病室から出させてもらえなかった。



◇◇◇



 コンコン

 病室のドアがノックされ、入って来たのは桃だった。病院服を着ているが顔色は良かった。

「華ちゃん体調大丈夫?」
「桃ちゃん!」

 久しぶりの友人との再会に、華の顔も綻ぶ。

「華ちゃん。謝って済むことじゃないけど…ごめんなさい」

 ベッド横の椅子に座った桃が開口一番に謝罪して来た。桃が悪感情を持ってしまったせいで、華はあの世界に1人取り残されてしまった。

 それを聞いた時、どれだけ後悔したか。確かに自分に余裕が無く、華を妬んだ事もある。でもそれでもこんな残酷な事を望んでいなかった。

「桃ちゃん、私の方こそごめんね」

 桃の手を優しく握りながら、華はずっと後悔していた事を伝えた。

「みんなで一緒に帰ろうって言ってたのに。仲間だって言ったのに。あの時…あの女の子の部屋で…桃ちゃんが苦しい時に気づいてあげれなくて。側についてあげられなくて、ごめんね」

 その言葉に、桃が息を飲んだ。

 まさしくそれが桃が3人を恨んだキッカケだったからだ。

 首が裂けた幽霊に1人シーツに引き込まれた時、桃は助けを求めて手を伸ばした。

 でも誰もいなかった。

 伸ばした手の向こうに見えたのは。

 遠くで泣いている華と、寄り添う怜。そこに向かって歩く勇輝の背中。

 ーわたしは仲間じゃないの?友達じゃないの?

 その時の絶望と幼い頃のトラウマが合わさり。華を友人として好きだった分、恨みに染まった。

 ボロボロと桃が涙を流す。思い出すと今でも辛い。でも気づいてくれた。

「あの時…怖くて、また置いていかれるのが怖くて、助けてって…」
 
 号泣する桃をそっと抱きしめて、華も一緒に泣いた。

 そして、その後はこれまで話せなかった事を沢山話した。

 あの時桃の感じていた事、華があの後経験した事。完全にわだかまりが無くなったとは、言えないかもしれない。

 でも、館に呼び込まれる前に比べたら、お互いを分かり合えた気がした。



「華ちゃん目覚めたばかりなのに話し込んじゃった。また明日来るね」

 華の体調を気遣って桃が立ち上がる。あ、そういえば、と華は桃へ最後の異人さんの伝言を伝えた。

 異人さんからの最後のまじない。

 桃にとって救いに繋がる願い事を祈れば、可能な範囲で叶えてくれる事。

 静かに聞いていた桃がちょっと悩んで、もう少し考えてみるね、と頷いた。

 

 華と桃が和解して翌日。

 やっと華と勇輝は病室から出る事を許された。

 早速、怜の見舞いに行きたいとお願いしたが…残酷な事に、怜は既に転院した後だった。

 しかも彼は結局目覚めぬまま、別の病院に移されたという事だった。

 幸い転院先は教えてもらえた。

 数日後、華と勇輝の退院許可がやっとおりた為、桃も一緒に3人で怜の転院先へ赴いた。

 だが既に時は遅く、見舞いに行った時には既に怜は退院した後だった。

 結局、怜は目覚めなかったらしい。
 その病院でも原因はわからなかったそうだ。

 だが身体や数値に異常は無かった為、家族から家で様子を見たいと強い要望があり、退院したらしかった。

 怜が一人暮らしをしていたアパート。怜が元々家族で住んでいた実家。どちらにも足を運んでみたが、現在は誰も住んでいなかった。



 こうして完全に怜の消息がわからないまま。3人の夏休は明けた。
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