【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

文字の大きさ
上 下
68 / 87
第2部 呪いの館 救出編

38話

しおりを挟む
 7日目。

 華はいつもより早く目覚めた。
 隣には、怜が寝ていた。

 昨日、庭園でお互いの気持ちを伝えあった後、さすがに体力も精神力も限界だったので、少年の部屋に戻ってきて2人とも倒れる様にそのまま寝てしまった。

 身体の疲れは取れたようだ。
 心は満ちている。

 怜の顔色もだいぶいい様だ。

 その顔を見ていると、嬉しい様な気恥ずかしい様な落ち着かない気がする。気持ちのままに、チュッと玲の頬にキスをした。

 あ、なんか恋人ぽい。

 顔が照れて赤くなる。

 そそくさ、風呂場で支度をして、華は食堂へ向かった。

 どんぐりをBOXから取り出す。7個のどんぐり。今日でこれも見納めだ。

 マジックペンを準備して、新しい3つのどんぐりに、異国の青年、少女、少年の顔を描いた。

 朝ご飯の準備の為、卓上BOXから食材を取り出し準備する。

 キッチンで作業していると、欠伸しながら、勇輝がやって来た。Tシャツとショートパンツのラフな格好だった。

「おっはよー」
「おはよう。朝ご飯作るね」
「マジ!?やったー!」

 卓上BOXからオレンジジュースを取り出して勇輝は席に着く。

 華が思い切って切り出した。

「勇ちゃん!あのね」
「んー?」

 昨日、怜と話した事。
 自分は怜の側にいたいと思った事。
 だから、勇輝の気持ちには答えられない事を伝えた。

「わかった、でも俺あきらめ悪いから」
「へ?」
「あいつ暫く帰って来れないからな。その間に俺の事好きになるかもしれないだろう」

 ニカッと勇輝が笑った。

 予想外の勇輝のタフさに、呆気にとられた。華の尊敬するメンタルのタフさが予想外な方向に働いた。

「だろ?」

 食堂の入り口を見ると、怜が立っていた。

「華が決める事だから」
「ふーん余裕だな」
「そんなんじゃない」

 少しふらつきながら、食卓へ歩いて来る。慌てて華が駆け寄り手助けした。顔色はだいぶ良くなったが、本調子ではない様だ。

「身体、大丈夫?」
「ん、おはよ」
「おはよう」

 何だか、こんなやり取りに互いに照れる。視界の端で勇輝が不貞腐れてるのがわかった。

「俺の前でイチャイチャすんな。まだ俺だってあきらめた訳じゃないからな」
「イチャイチャしてない」
「そこじゃねーだろ!あきらめねえとこ、つっ込め!」
「…勇なら別にいい」

 席に座って怜が俯いた。表情は変わらないのに、何だか寂しそうだ。

 それに華が抗議した。

「もう!2人して勝手に私の事決めないでよ!」

 勇輝が目をまるくする。華がこんなに大声で自己主張するのは珍しい。

「怜ちゃん、アイスカフェラテでいい?」

 怜が頷いたのを見てBOXから取り出して、怜の前に置いた。

 静かに飲む怜を見て、気になっていた事を聞いた。

「怜ちゃん、もしかしてカフェラテ好きじゃないの?」
「…別に普通」
「もしかして…牛乳とれるから?」

 怜が頷いた。

「ん?どういう事?いつもカフェラテ飲んでんじゃん」

 会話に勇輝が入ってきた。

「……」

 怜が嫌そうにそっぽを向いた。ちょっと頬が赤い。

「もしかして、まだ牛乳苦手なのか?身長気にして頑張って飲んでたけど…え?もしかして、身長伸ばす為に毎回カフェラテ飲んでんの?」

 怜がみるみる真っ赤になった。
 
「何だよ!その可愛い反応!ちょっとドキッとしちゃっただろ!華はこれにやられたのか」
「怜ちゃん可愛い」

 勇輝と華が怜の反応にキュンとする。

 怜があれ?とキッチンの方を見た。

「…何か焦げくさい?」
「あっ火!」

 華は慌ててキッチンへ向かった。



◇◇◇



「焦がしました」

 シュンとして、ベーコンエッグとパンを2人の前に置く。見た目は残念な感じに所々焦げている。

「華が作ってくれたの?」
「うん、失敗しちゃったけど」

 感動したような怜に、華が申し訳無さそうに頷いた。

 いただきます、と3人で手を合わせて、食事を取った。

 勇輝が、苦いとこもあるけどうまいよ!と笑ってバクバク食べている。

 華も味見してみた。苦い。不味くはないけど、正直微妙だった。

 勇輝の優しさがありがたい。
 怜はどうだろうか?彼の方を見ると。

 食べながら静かに泣いてた。

「そんな不味かった!?」

 慌ててBOXからハンカチを取って、怜の目元を拭う。イチャイチャするな~と勇輝の声が聞こえたが無視だ。

「苦いけど美味しい」
「じゃあ何で」
「幸せ過ぎて。華の気持ちが伝わって来て嬉しい」

 あ、と気づいた。

 そういえば少年が言ってた。
 怜の料理が美味しいのは華への気持ちが入ってるからだと。

 今日作ったのは怜に元気になってほしいからだ。それがちゃんと伝わったんだとわかった。

「いつもと逆じゃん。華は世話を焼きたいタイプか」

 ぶつぶつ2人を分析してる勇輝の声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...