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第3部 呪いの館 それぞれの未来へ
勇輝の話 1
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勇輝はいわゆるガキ大将だった。
小さい時から身長も大きく活発だったので、自然と周りに友達が集まるタイプだった。
戦隊ヒーローに憧れていたから、もちろんイジメなんかしない。弱い友達を守るんだ!ずっとそう思っていた。
幼な心に好きだったその子が男の子だとわかるまでは。
「ぼくおとこだよ」
綺麗な切れ長の目にサラサラの肩まで伸ばした黒髪。どこから見てもキレイな女の子にしか見えなかった。
ものすごいショックと、女の子と間違えた恥ずかしさで、つい言ってしまった。
「なんだよおまえ、おんなみてー。おんなおとこ!」
ガキ大将の勇輝が発したあだ名は瞬く間に、子供達の間で広まった。
とくに暴力をふるう事はないが、周りの子供にからかわれるのは、小さい子供には大問題だ。
「おんなおとこ」とあだ名をつけられた男の子は、からかわれて、しょっちゅう泣いていた。
こんな事になるなんて思ってもいなかった勇輝は、謝るタイミングも周りを収めるタイミングもわからなかった。
どうしよう。戦隊ヒーローならきっとカッコ良く解決できるのに。
そうこうしてるうちに、ちょっとした事件は起きた。
泣いている男の子を庇った女の子が、相手に突き飛ばされて、かすり傷を負ったのだ。
こんなんじゃ戦隊ヒーローになれないぞ!勇輝は男の子と女の子の前に入って、突き飛ばした数人の男の子達に言った。
「たくさんでいじめるのは悪いやつのすることだぞ!」
普段リーダー格の勇輝が仲裁に入る事で、男の子達は次々とごめんなさい、と謝ってきた。
よし!守れたぞ!
達成感に満足した勇輝に、庇われた女の子が言った。
「さいしょにゆうきくんが、へんなあだなをつけたからでしょ。めっ!」
その通りだった。
その女の子に促される形で、勇輝も2人にごめんなさい、と謝った。
これが勇輝と怜、華と親しくなるキッカケだった。
いざわだかまりがなくなると3人はとても気があった。
勇輝をガツンと叱った勇ましい女の子は、日を追うごとに綺麗になっていく。勇輝が華に恋に落ちるのに、そう時間はかからなかった。
女と勘違いしてしまった怜は男らしくなりたいと牛乳を沢山飲んで運動も頑張っている。綺麗なのは相変わらずだが、少しずつ年相応に少年らしくなっていった。
今後お互いがどんな関係になっても、この縁は大事にしたい。そう思える位、勇輝は2人が好きだった。
◇◇◇
「どういう事ですか?」
華を残して呪いの館から脱出した勇輝は病院にいた。
怜と華、桃の3人は病室のベッドでまだ目覚めない。
「もしかして知らなかったかい?どうやら彼は持病を持っているね。あまり状態も良くない、早めに家族に連絡してあげて」
頭を殴られた様な衝撃だった。
怜が病気。そんな事、聞いた事もない。しかも怜の家族は海外で彼は一人暮らしだ。
ショックのあまりうまく働かない頭で、自分と華の家族にまず連絡した。
怜の両親と勇輝の両親の仲がいい為、幸い母親が連絡先を知っているという事だった。
怜の家族への連絡を頼んでから怜の病室へ向かった。
部屋に入ると、怜が上半身を起こしていた。
「怜!良かった、目が覚めたか」
「ここは?」
まだボーとしている。勇輝は館から出て、今は病院に入院している事を簡単に説明した。
そしてみんなの家族へ連絡したと説明したところで、怜が顔色を変える。
「まさか僕のとこにも?」
「当たり前だ。今頃、俺の母親から連絡がいってる筈だ」
そう、と呟いて怜は俯いた。
その様子を見て勇輝が切り出した。お前、何か病気持ってるのか?と。
怜は答えない。だがこの場合の無言は肯定だった。
「もうバレたんだから隠すのはよせ。いつからだ?」
「…中学に入った頃」
中学。全然気づかなかった。
いや、気づかせなかったのか。
今思えば、それまで周囲の男子とさほど変わらなかった怜が急に大人びた様にクールに振る舞い出したのも、その頃だった。
「華には黙ってて」
「言わないのか?」
「言うにしても自分から話す」
「わかった。でも早い方がいいぞ。と言っても…まずは華をどう助けるかだな」
のろのろと、怜が顔を上げた。まるで迷子になった幼子の様に、不安そうな顔をしている。
「桃は?」
「まだ目が覚めてない。医者が言うには華も桃も体調に悪い点は無いが、目が覚めないそうだ」
「恨みには恨みを…多分それだと思う」
どう言う事だ?首を傾げた勇輝に、怜が自分の推測を話した。
あの館で勇輝達は村人を皆殺しにする事で、被害者の恨みを晴らした。
その時に生じた桃と勇輝の恨みが、また呪いとして返ってきたのだと言った。
「は?どういう事だ?もっとわかりやすく説明してくれ」
そこから聞いた怜の話はとても信じられる事ではなかった。
怜の中に入っていた少年の幽霊から「あの異常な世界で、勇輝達3人は桃だけ除け者にして見えた」と言われた事。それによって桃は3人を恨み、最もショックを受ける方法で恨みを晴らしたという。
そして勇輝も桃を嫌っている。その恨みを受けて、桃が目が覚めないのだと。
「待てよ。じゃあ華が閉じ込められたのは俺達の態度のせいなのか」
信じられない、いや信じたくない。
良かれと思って精一杯してきた行動が好きな人を苦めたなんて。
「推測だけど間違い無いと思う。だから華を助ける為には、まずお前の桃への気持ちをどうにかしないと」
「俺の気持ち?」
「そう。そして桃が目覚めた後に、桃と話し合って…」
「いやだ。そもそも何で俺の恨みって決めつけるんだよ。華やお前も桃の態度は、おかしいと思っただろ?」
桃を恨んでいる。怜の指摘は図星だった。
剣を奮って村人を殺すのを楽しそうに応援していたあの女が許せない。
でもそれは、他の2人も同じじゃないのか?
だが怜の考えはまた別だった。
確かに、始めは勇輝と同じ考えだった。だが少年の話を聞いて自分達の行動を振り返って後悔した、という。
「勇…何も全部を許せと言ってるんじゃないんだ」
「悪いが無理だ。俺は人としてあいつが嫌いだ。それに恨みが原因だと決まった訳じゃないだろ?他にも華を助ける方法が…」
そこまで言って勇輝は口をつぐんだ。怜が傷ついた表情をしていたからだ。
子供の頃、自分の気持ちを誤魔化す為、怜を女男と呼んだ時もこんな顔をしていた。
俺はまた間違えたのか?
「わかった、もういい。他の方法を考える」
「怜」
「少し疲れた。休ませて」
そのまま、怜は横になって布団をに潜り込んでしまった。また来る、と言って勇輝は椅子から立ち上がった。
そして勇輝は、この時の自分の行動を後悔する事になる。
小さい時から身長も大きく活発だったので、自然と周りに友達が集まるタイプだった。
戦隊ヒーローに憧れていたから、もちろんイジメなんかしない。弱い友達を守るんだ!ずっとそう思っていた。
幼な心に好きだったその子が男の子だとわかるまでは。
「ぼくおとこだよ」
綺麗な切れ長の目にサラサラの肩まで伸ばした黒髪。どこから見てもキレイな女の子にしか見えなかった。
ものすごいショックと、女の子と間違えた恥ずかしさで、つい言ってしまった。
「なんだよおまえ、おんなみてー。おんなおとこ!」
ガキ大将の勇輝が発したあだ名は瞬く間に、子供達の間で広まった。
とくに暴力をふるう事はないが、周りの子供にからかわれるのは、小さい子供には大問題だ。
「おんなおとこ」とあだ名をつけられた男の子は、からかわれて、しょっちゅう泣いていた。
こんな事になるなんて思ってもいなかった勇輝は、謝るタイミングも周りを収めるタイミングもわからなかった。
どうしよう。戦隊ヒーローならきっとカッコ良く解決できるのに。
そうこうしてるうちに、ちょっとした事件は起きた。
泣いている男の子を庇った女の子が、相手に突き飛ばされて、かすり傷を負ったのだ。
こんなんじゃ戦隊ヒーローになれないぞ!勇輝は男の子と女の子の前に入って、突き飛ばした数人の男の子達に言った。
「たくさんでいじめるのは悪いやつのすることだぞ!」
普段リーダー格の勇輝が仲裁に入る事で、男の子達は次々とごめんなさい、と謝ってきた。
よし!守れたぞ!
達成感に満足した勇輝に、庇われた女の子が言った。
「さいしょにゆうきくんが、へんなあだなをつけたからでしょ。めっ!」
その通りだった。
その女の子に促される形で、勇輝も2人にごめんなさい、と謝った。
これが勇輝と怜、華と親しくなるキッカケだった。
いざわだかまりがなくなると3人はとても気があった。
勇輝をガツンと叱った勇ましい女の子は、日を追うごとに綺麗になっていく。勇輝が華に恋に落ちるのに、そう時間はかからなかった。
女と勘違いしてしまった怜は男らしくなりたいと牛乳を沢山飲んで運動も頑張っている。綺麗なのは相変わらずだが、少しずつ年相応に少年らしくなっていった。
今後お互いがどんな関係になっても、この縁は大事にしたい。そう思える位、勇輝は2人が好きだった。
◇◇◇
「どういう事ですか?」
華を残して呪いの館から脱出した勇輝は病院にいた。
怜と華、桃の3人は病室のベッドでまだ目覚めない。
「もしかして知らなかったかい?どうやら彼は持病を持っているね。あまり状態も良くない、早めに家族に連絡してあげて」
頭を殴られた様な衝撃だった。
怜が病気。そんな事、聞いた事もない。しかも怜の家族は海外で彼は一人暮らしだ。
ショックのあまりうまく働かない頭で、自分と華の家族にまず連絡した。
怜の両親と勇輝の両親の仲がいい為、幸い母親が連絡先を知っているという事だった。
怜の家族への連絡を頼んでから怜の病室へ向かった。
部屋に入ると、怜が上半身を起こしていた。
「怜!良かった、目が覚めたか」
「ここは?」
まだボーとしている。勇輝は館から出て、今は病院に入院している事を簡単に説明した。
そしてみんなの家族へ連絡したと説明したところで、怜が顔色を変える。
「まさか僕のとこにも?」
「当たり前だ。今頃、俺の母親から連絡がいってる筈だ」
そう、と呟いて怜は俯いた。
その様子を見て勇輝が切り出した。お前、何か病気持ってるのか?と。
怜は答えない。だがこの場合の無言は肯定だった。
「もうバレたんだから隠すのはよせ。いつからだ?」
「…中学に入った頃」
中学。全然気づかなかった。
いや、気づかせなかったのか。
今思えば、それまで周囲の男子とさほど変わらなかった怜が急に大人びた様にクールに振る舞い出したのも、その頃だった。
「華には黙ってて」
「言わないのか?」
「言うにしても自分から話す」
「わかった。でも早い方がいいぞ。と言っても…まずは華をどう助けるかだな」
のろのろと、怜が顔を上げた。まるで迷子になった幼子の様に、不安そうな顔をしている。
「桃は?」
「まだ目が覚めてない。医者が言うには華も桃も体調に悪い点は無いが、目が覚めないそうだ」
「恨みには恨みを…多分それだと思う」
どう言う事だ?首を傾げた勇輝に、怜が自分の推測を話した。
あの館で勇輝達は村人を皆殺しにする事で、被害者の恨みを晴らした。
その時に生じた桃と勇輝の恨みが、また呪いとして返ってきたのだと言った。
「は?どういう事だ?もっとわかりやすく説明してくれ」
そこから聞いた怜の話はとても信じられる事ではなかった。
怜の中に入っていた少年の幽霊から「あの異常な世界で、勇輝達3人は桃だけ除け者にして見えた」と言われた事。それによって桃は3人を恨み、最もショックを受ける方法で恨みを晴らしたという。
そして勇輝も桃を嫌っている。その恨みを受けて、桃が目が覚めないのだと。
「待てよ。じゃあ華が閉じ込められたのは俺達の態度のせいなのか」
信じられない、いや信じたくない。
良かれと思って精一杯してきた行動が好きな人を苦めたなんて。
「推測だけど間違い無いと思う。だから華を助ける為には、まずお前の桃への気持ちをどうにかしないと」
「俺の気持ち?」
「そう。そして桃が目覚めた後に、桃と話し合って…」
「いやだ。そもそも何で俺の恨みって決めつけるんだよ。華やお前も桃の態度は、おかしいと思っただろ?」
桃を恨んでいる。怜の指摘は図星だった。
剣を奮って村人を殺すのを楽しそうに応援していたあの女が許せない。
でもそれは、他の2人も同じじゃないのか?
だが怜の考えはまた別だった。
確かに、始めは勇輝と同じ考えだった。だが少年の話を聞いて自分達の行動を振り返って後悔した、という。
「勇…何も全部を許せと言ってるんじゃないんだ」
「悪いが無理だ。俺は人としてあいつが嫌いだ。それに恨みが原因だと決まった訳じゃないだろ?他にも華を助ける方法が…」
そこまで言って勇輝は口をつぐんだ。怜が傷ついた表情をしていたからだ。
子供の頃、自分の気持ちを誤魔化す為、怜を女男と呼んだ時もこんな顔をしていた。
俺はまた間違えたのか?
「わかった、もういい。他の方法を考える」
「怜」
「少し疲れた。休ませて」
そのまま、怜は横になって布団をに潜り込んでしまった。また来る、と言って勇輝は椅子から立ち上がった。
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