【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

文字の大きさ
上 下
78 / 87
第3部 呪いの館 それぞれの未来へ

勇輝の話 1

しおりを挟む
 勇輝はいわゆるガキ大将だった。

 小さい時から身長も大きく活発だったので、自然と周りに友達が集まるタイプだった。
 
 戦隊ヒーローに憧れていたから、もちろんイジメなんかしない。弱い友達を守るんだ!ずっとそう思っていた。

 幼な心に好きだったその子が男の子だとわかるまでは。

「ぼくおとこだよ」

 綺麗な切れ長の目にサラサラの肩まで伸ばした黒髪。どこから見てもキレイな女の子にしか見えなかった。

 ものすごいショックと、女の子と間違えた恥ずかしさで、つい言ってしまった。

「なんだよおまえ、おんなみてー。おんなおとこ!」

 ガキ大将の勇輝が発したあだ名は瞬く間に、子供達の間で広まった。

 とくに暴力をふるう事はないが、周りの子供にからかわれるのは、小さい子供には大問題だ。

 「おんなおとこ」とあだ名をつけられた男の子は、からかわれて、しょっちゅう泣いていた。

 こんな事になるなんて思ってもいなかった勇輝は、謝るタイミングも周りを収めるタイミングもわからなかった。

 どうしよう。戦隊ヒーローならきっとカッコ良く解決できるのに。

 そうこうしてるうちに、ちょっとした事件は起きた。

 泣いている男の子を庇った女の子が、相手に突き飛ばされて、かすり傷を負ったのだ。

 こんなんじゃ戦隊ヒーローになれないぞ!勇輝は男の子と女の子の前に入って、突き飛ばした数人の男の子達に言った。

「たくさんでいじめるのは悪いやつのすることだぞ!」

 普段リーダー格の勇輝が仲裁に入る事で、男の子達は次々とごめんなさい、と謝ってきた。

 よし!守れたぞ!

 達成感に満足した勇輝に、庇われた女の子が言った。

「さいしょにゆうきくんが、へんなあだなをつけたからでしょ。めっ!」

 その通りだった。
 その女の子に促される形で、勇輝も2人にごめんなさい、と謝った。

 これが勇輝と怜、華と親しくなるキッカケだった。

 いざわだかまりがなくなると3人はとても気があった。

 勇輝をガツンと叱った勇ましい女の子は、日を追うごとに綺麗になっていく。勇輝が華に恋に落ちるのに、そう時間はかからなかった。

 女と勘違いしてしまった怜は男らしくなりたいと牛乳を沢山飲んで運動も頑張っている。綺麗なのは相変わらずだが、少しずつ年相応に少年らしくなっていった。

 今後お互いがどんな関係になっても、この縁は大事にしたい。そう思える位、勇輝は2人が好きだった。



◇◇◇



「どういう事ですか?」

 華を残して呪いの館から脱出した勇輝は病院にいた。

 怜と華、桃の3人は病室のベッドでまだ目覚めない。

「もしかして知らなかったかい?どうやら彼は持病を持っているね。あまり状態も良くない、早めに家族に連絡してあげて」

 頭を殴られた様な衝撃だった。

 怜が病気。そんな事、聞いた事もない。しかも怜の家族は海外で彼は一人暮らしだ。

 ショックのあまりうまく働かない頭で、自分と華の家族にまず連絡した。

 怜の両親と勇輝の両親の仲がいい為、幸い母親が連絡先を知っているという事だった。

 怜の家族への連絡を頼んでから怜の病室へ向かった。

 部屋に入ると、怜が上半身を起こしていた。

「怜!良かった、目が覚めたか」
「ここは?」

 まだボーとしている。勇輝は館から出て、今は病院に入院している事を簡単に説明した。

 そしてみんなの家族へ連絡したと説明したところで、怜が顔色を変える。

「まさか僕のとこにも?」
「当たり前だ。今頃、俺の母親から連絡がいってる筈だ」

 そう、と呟いて怜は俯いた。

 その様子を見て勇輝が切り出した。お前、何か病気持ってるのか?と。
 怜は答えない。だがこの場合の無言は肯定だった。

「もうバレたんだから隠すのはよせ。いつからだ?」
「…中学に入った頃」

 中学。全然気づかなかった。

 いや、気づかせなかったのか。
 今思えば、それまで周囲の男子とさほど変わらなかった怜が急に大人びた様にクールに振る舞い出したのも、その頃だった。

「華には黙ってて」
「言わないのか?」
「言うにしても自分から話す」
「わかった。でも早い方がいいぞ。と言っても…まずは華をどう助けるかだな」

 のろのろと、怜が顔を上げた。まるで迷子になった幼子の様に、不安そうな顔をしている。

「桃は?」
「まだ目が覚めてない。医者が言うには華も桃も体調に悪い点は無いが、目が覚めないそうだ」
「恨みには恨みを…多分それだと思う」

 どう言う事だ?首を傾げた勇輝に、怜が自分の推測を話した。

 あの館で勇輝達は村人を皆殺しにする事で、被害者の恨みを晴らした。
 その時に生じた桃と勇輝の恨みが、また呪いとして返ってきたのだと言った。

「は?どういう事だ?もっとわかりやすく説明してくれ」

 そこから聞いた怜の話はとても信じられる事ではなかった。

 怜の中に入っていた少年の幽霊から「あの異常な世界で、勇輝達3人は桃だけ除け者にして見えた」と言われた事。それによって桃は3人を恨み、最もショックを受ける方法で恨みを晴らしたという。

 そして勇輝も桃を嫌っている。その恨みを受けて、桃が目が覚めないのだと。
 
「待てよ。じゃあ華が閉じ込められたのは俺達の態度のせいなのか」

 信じられない、いや信じたくない。
 良かれと思って精一杯してきた行動が好きな人を苦めたなんて。

「推測だけど間違い無いと思う。だから華を助ける為には、まずお前の桃への気持ちをどうにかしないと」
「俺の気持ち?」
「そう。そして桃が目覚めた後に、桃と話し合って…」
「いやだ。そもそも何で俺の恨みって決めつけるんだよ。華やお前も桃の態度は、おかしいと思っただろ?」

 桃を恨んでいる。怜の指摘は図星だった。

 剣を奮って村人を殺すのを楽しそうに応援していたあの女が許せない。
 でもそれは、他の2人も同じじゃないのか?

 だが怜の考えはまた別だった。

 確かに、始めは勇輝と同じ考えだった。だが少年の話を聞いて自分達の行動を振り返って後悔した、という。
 
「勇…何も全部を許せと言ってるんじゃないんだ」
「悪いが無理だ。俺は人としてあいつが嫌いだ。それに恨みが原因だと決まった訳じゃないだろ?他にも華を助ける方法が…」

 そこまで言って勇輝は口をつぐんだ。怜が傷ついた表情をしていたからだ。

 子供の頃、自分の気持ちを誤魔化す為、怜を女男と呼んだ時もこんな顔をしていた。

 俺はまた間違えたのか?

「わかった、もういい。他の方法を考える」
「怜」
「少し疲れた。休ませて」

 そのまま、怜は横になって布団をに潜り込んでしまった。また来る、と言って勇輝は椅子から立ち上がった。

 そして勇輝は、この時の自分の行動を後悔する事になる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...