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第2部 呪いの館 救出編

9話

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 彼女の部屋の前に来た。

 少年の記憶では扉を破壊されていたが、今は綺麗な状態だ。

 というより、彼らの記憶にあるドアと少し作りが違う。今さらながらそれに気づいた。

 コンコン

 相手が女性なので、念のためノックする。

 華の中で青年が、オレのとこは何でしないんだ…と聞こえたが無視した。今後もするつもりはない。

 ドアを開ける。

 薄暗い部屋にかろうじて女性らしい内装。

 奥のベッドに彼女はいる筈だ。華がベッドに近くと、少しずつシーツが盛り上がってきた。大人1人分がうずくまった程度の大きさになると、動きが止まった。

 うずくまっていた人物がゆっくり上半身を起こす。シーツで全身を隠してるので姿は見えないが、彼女で間違いないだろう。

「ここの呪いを解く為、貴女達が何故殺されたのか調べようと思うの。お願い、協力して」

 華は手を差し伸べた。
 桃はシーツの中に引き摺り込まれたから、恐らく華もそうなるだろう。

 だが…いつまで待っても華は引き摺り込まれなかった。

「どうしたの?」

 彼女はシーツを被ったまま、ふるふると顔を横にふる。

 予想外の事だった。彼女は華に取り憑くのを拒否してる。

「そ、そんな…」
『何だお前、彼女に嫌われてるのか』
『まさかまた、別のはなちゃんと勘違いしてるのかな?』

 少年の言葉に、華は必死に言い募る。

「わ、私、多分そのはなちゃんじゃない!…と思う、多分!この前桃ちゃんに入った時に、嫌いって首を締められたのは私だけど!」
『……?結局どっちなんだ』
『…何かボクもわかんなくなってきた』

 相変わらず、シーツにくるまった彼女は、ふるふると首をふった。そして、華の手首を指さす。腕輪だった。

「腕輪?もしかして…他の2人と一緒が嫌なの?」

 コクと彼女は頷いた。

 華の中で、ショックを受けた青年が大騒ぎしている。

 そんな事など露知らず、彼女はそのまま、スルスルとベッドのシーツに溶けるように消えた。

 後には呆然と立ち尽くす華と、華の中で大騒ぎする青年、それを必死に宥める少年が残った…。



◇◇◇



「これは…由々しき自体です」

 とりあえず食堂に戻り、華は作戦会議をする事にした。

 といっても、身体は1つで幽霊2体は華と同化してるので、見た目は彼女1人の独り言だ。

 ノートとペン片手に、華は議長を務める。

「では、今後の作戦について。みんなの意見をお願いします」
『…彼女に嫌われたら、もう生きていけない…いっその事、殺してくれ…』
「もう死んでるので解決ですね、はい次!」
『とりあえず手がかりがないか、館の周辺から調査してみようか』
「それはいいですね!採用!」
『…こうなったら、また村人を皆殺しにしてやる』
「皆殺しにしても彼女は心を開かないので却下です、はい次!」
『気をつけないといけないのが、攻撃的な相手だね。姉さんがいないとボクらは能力が使えないんだ』
「そうなの?じゃあ何か身を守るものが必要だね」
『……オマエたち、オレへの扱いがひどくないか?』
「前回の貴方の私への態度よりマシです。邪魔だから静かにしててください」
『そうだよ、前回の彼女への態度は最悪だったよ。話進まないから黙ってて』
『……』

 青年はショックを受けて引っ込んだ。泣いてるかもしれないが、とりあえず今の内に話を進めておこう。

「ちなみに、2人の腕輪を置いて彼女のだけつける案は?」
『姉さんは憑いても、身を守る術は持ってない。何かあったら危ないよ』
「ちなみに、この世界で死んでしまったら…」
『身体は向こうに残ってるけど、目覚めることなく衰弱死するだろうね』
「こわい!」

 華は鳥肌がたった。ココにいる事がそんなリスクになるとは。…ん?という事は…。

「前回あのお屋敷で襲われた時、危なかったんだね…。今さらだけど助けてくれてありがとう」
『…ん。あの時の彼がキミの事、すごく大事にしてたからね』

 そうか。あの時の少年の霊が助けてくれたのは、怜のおかげでもあったのか。

 少年の言葉に華の気持ちが温かくなった。怜は…みんなは元気だろうか。

 ちょっと感情的になった事に気づいて、華は気持ちを切り替えた。今は思い耽る時では無い。

「じゃあ1番の解決方法は、最低もう1人腕輪をつけれる人がいること、だね」
『…まあ…出来ればあと2人いた方が確実だけどね』

 少年が歯切れ悪く答える。

 だが、実際ここには華しかいない。とりあえず方針は、最初に出した案、館の周辺の探索から始める事で決まった。

 何か身を守れる物…。念じて卓上BOXから取り出す。

 腰に巻くポーチとスタンガン。催涙スプレー。メリケンサックが出てきた。

 メリケンサック…何故。華の力ではあまり威力はないと思うが…とりあえず指に嵌めた。スタンガンと催涙スプレーは、ポーチに入れて装着する。

 準備万端だ。華は改めて気合いを入れ直した。
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