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第2部 呪いの館 救出編
7話
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ゆっくり意識が覚醒した華は、ソファに仰向けになりながら、止まらない涙を腕で押さえて嗚咽した。
恐怖からではない。
先程の青年と少年のすれ違いが苦しくて。お互い家族として思いあってた筈なのに。2人の間に何があったかは、わからない。でも確かにお互い大切に思っていた筈だ。
『そうだよ。別に姉さんと結婚しなくても、僕は最初から家族だと思ってた』
ふと少年の声がした。
『…それでも不安だったんだ』
今度は青年の声がした。
『お前があの村人ばかり慕ってるように見えたから』
『だって僕よりだいぶ年上だったから、お兄ちゃんみたいって思ってたんだよ』
『……』
『あの時はそんな事気にしてるって気づかなかったんだ。…ごめん。でも本当の兄はアンタだと思ってる』
『……!』
青年の心が喜びで震えた。
同化してるせいか、華にもダイレクトに伝わってきた。
『次は……彼女だな』
照れているのか、青年は話題を無理矢理変えた。少年が思わず笑った気配がする。
すれ違ったまま別れた最期だったが、今こうして華に同化する事でお互いの気持ちを伝える事が出来た。
それだけで、ココに残った意味があったかもしれない。華も少しだけ救われた気がした。
◇◇◇
華は食堂に移動していた。これまで見た事をノートに整理するのと、単純に疲労した身体を癒す為だ。
意外な事に青年は大人しかった。早く愛しい婚約者の所に行けと、もっと騒ぐかと思ったのに。
少年に長年辛かった事を告白出来て、気持ちが落ち着いたのかもしれない。
……いいな。
『で、キミは何をしてるの?』
「いや、2人が羨ましくて…」
華はテーブルに並べていたどんぐりに、油性ペンで顔を描いていた。
『誰?』
「勇ちゃん。こっちが怜ちゃん」
『似てないな』
「そう?こっちは桃ちゃん」
『あ、それ似てるかも』
『…そうか?』
うるさい外野を無視して、華は最後のどんぐりに自分の似顔絵を完成させた。
コロンと仲良く並ぶどんぐりが可愛い。早くみんなの元へ帰れますように…。華なりの願掛けだった。
「早く帰れるよう頑張らないと」
『そうだね』
「早くしないと夏休みも終わっちゃうし」
『夏休みが何かわからないけど、時間的な物なら問題ないよ』
「え?何で?」
それから少年は思い出した事を教えてくれた。
この世界はもちろん現実ではなく、魂を縛りつけている世界。華の身体は元の世界にあり、ココは時間の概念はないので、戻った時にはそんなに時間は経っていない筈だと言った。
「そう良かった。帰る時に箱を渡されて、開けたらおばあちゃんになっちゃうとかじゃなくて本当に良かった」
『何の話だ?』
「亀を助けてお爺さんにされたかわいそうな人の話です。気にしないでください」
青年が、まったくわからん、とブツブツ呟いてる気配があるが、華は無視して、少年の方に意識を向けた。
「時間の事はわかった。でもそんなすごい呪い、私やあなた達にも何か代償とかないの?早く戻らないと戻れなくなるとか」
少年が代償について覚えている事を教えてくれた。
まずこの世界に連れて来られた代償は、この世界にいるだけで魂と肉体が疲労する事だった。
前回の勇輝や怜の様にその能力を駆使したら余計だ。
だから無理せずこまめに休憩すれば、特に身体に疾患がなければ問題ないそうだ。健康体の華は安心した。
次に彼ら3人と村人は、代償に名前を失っている事。この呪いが解ければ、彼らは自分の名前を思い出して死の世界に旅立つだろう、と。それは魂が安らかに眠るという事なので、彼らにとっては辛い事ではないと言った。
「じゃあ、この館や村は?魂は名前が代償だったけど…。そこには何もないの?」
華の疑問に少年は、しばし考える気配が伝わってくる。心辺りがあるのに何か迷っているような。
『…ハッキリした事がわからないから、もう少し思い出してからでいいかな?』
「もちろん。じゃあ私こっちに集中するね」
一旦そこで華は言葉を切って、ノートをまとめる事に集中した。
少年の口ぶりは自信がないというより、言いたくないという気がした。だからあえて突っ込まなかった。
今日知り得た事を綴っていく。
そういえば、あの書斎は何だったのか。あと、黒髪の兄妹は彼らの友人だったのだろうか?
その疑問を汲み取り、少年から解答が伝わってきた。
あの書斎は彼の父の職場。彼らの一族は表向きの仕事とは別で、呪い関係を生業としている。実はそれこそが本業だった。少年は嫡男で跡取りだった為、唯一そこに入る事を許されていたという。
「じゃあこの大規模な呪いは…」
『父で間違いないと思う』
勇輝や怜と話した推測は当たっていた。
だが…死んだ後もその子供の魂を縛ってまで、恨みを晴らすだろうか。
それとも、謎を1つずつ解いていけばその答えにも辿りつくのか。
『あと…黒髪の兄妹の事だけど…』
少年が彼らについて、ポツリポツリ話してくれた。
2人はこの村の村長の子供。しっかり者の兄と無邪気な妹。少年と姉は兄弟ぐるみで仲良くしていた。
あの日。神社で婚約と帰国の報告を終えた後、彼らは一度、神社でそのまま別れた。
だがその日の夜、突然黒髪の青年が館にやって来たのだ。必死の形相で事情は言えないが、この村から逃げろと。
そこから先は、青年や少年の記憶が見せた展開通りだった。
この呪いのをかけたのは彼らの父親。事情を知っている黒髪の青年。少しずつ、事件の概要がわかってきた。あとは彼女と同化すれば、もしかしたら…。
恐怖からではない。
先程の青年と少年のすれ違いが苦しくて。お互い家族として思いあってた筈なのに。2人の間に何があったかは、わからない。でも確かにお互い大切に思っていた筈だ。
『そうだよ。別に姉さんと結婚しなくても、僕は最初から家族だと思ってた』
ふと少年の声がした。
『…それでも不安だったんだ』
今度は青年の声がした。
『お前があの村人ばかり慕ってるように見えたから』
『だって僕よりだいぶ年上だったから、お兄ちゃんみたいって思ってたんだよ』
『……』
『あの時はそんな事気にしてるって気づかなかったんだ。…ごめん。でも本当の兄はアンタだと思ってる』
『……!』
青年の心が喜びで震えた。
同化してるせいか、華にもダイレクトに伝わってきた。
『次は……彼女だな』
照れているのか、青年は話題を無理矢理変えた。少年が思わず笑った気配がする。
すれ違ったまま別れた最期だったが、今こうして華に同化する事でお互いの気持ちを伝える事が出来た。
それだけで、ココに残った意味があったかもしれない。華も少しだけ救われた気がした。
◇◇◇
華は食堂に移動していた。これまで見た事をノートに整理するのと、単純に疲労した身体を癒す為だ。
意外な事に青年は大人しかった。早く愛しい婚約者の所に行けと、もっと騒ぐかと思ったのに。
少年に長年辛かった事を告白出来て、気持ちが落ち着いたのかもしれない。
……いいな。
『で、キミは何をしてるの?』
「いや、2人が羨ましくて…」
華はテーブルに並べていたどんぐりに、油性ペンで顔を描いていた。
『誰?』
「勇ちゃん。こっちが怜ちゃん」
『似てないな』
「そう?こっちは桃ちゃん」
『あ、それ似てるかも』
『…そうか?』
うるさい外野を無視して、華は最後のどんぐりに自分の似顔絵を完成させた。
コロンと仲良く並ぶどんぐりが可愛い。早くみんなの元へ帰れますように…。華なりの願掛けだった。
「早く帰れるよう頑張らないと」
『そうだね』
「早くしないと夏休みも終わっちゃうし」
『夏休みが何かわからないけど、時間的な物なら問題ないよ』
「え?何で?」
それから少年は思い出した事を教えてくれた。
この世界はもちろん現実ではなく、魂を縛りつけている世界。華の身体は元の世界にあり、ココは時間の概念はないので、戻った時にはそんなに時間は経っていない筈だと言った。
「そう良かった。帰る時に箱を渡されて、開けたらおばあちゃんになっちゃうとかじゃなくて本当に良かった」
『何の話だ?』
「亀を助けてお爺さんにされたかわいそうな人の話です。気にしないでください」
青年が、まったくわからん、とブツブツ呟いてる気配があるが、華は無視して、少年の方に意識を向けた。
「時間の事はわかった。でもそんなすごい呪い、私やあなた達にも何か代償とかないの?早く戻らないと戻れなくなるとか」
少年が代償について覚えている事を教えてくれた。
まずこの世界に連れて来られた代償は、この世界にいるだけで魂と肉体が疲労する事だった。
前回の勇輝や怜の様にその能力を駆使したら余計だ。
だから無理せずこまめに休憩すれば、特に身体に疾患がなければ問題ないそうだ。健康体の華は安心した。
次に彼ら3人と村人は、代償に名前を失っている事。この呪いが解ければ、彼らは自分の名前を思い出して死の世界に旅立つだろう、と。それは魂が安らかに眠るという事なので、彼らにとっては辛い事ではないと言った。
「じゃあ、この館や村は?魂は名前が代償だったけど…。そこには何もないの?」
華の疑問に少年は、しばし考える気配が伝わってくる。心辺りがあるのに何か迷っているような。
『…ハッキリした事がわからないから、もう少し思い出してからでいいかな?』
「もちろん。じゃあ私こっちに集中するね」
一旦そこで華は言葉を切って、ノートをまとめる事に集中した。
少年の口ぶりは自信がないというより、言いたくないという気がした。だからあえて突っ込まなかった。
今日知り得た事を綴っていく。
そういえば、あの書斎は何だったのか。あと、黒髪の兄妹は彼らの友人だったのだろうか?
その疑問を汲み取り、少年から解答が伝わってきた。
あの書斎は彼の父の職場。彼らの一族は表向きの仕事とは別で、呪い関係を生業としている。実はそれこそが本業だった。少年は嫡男で跡取りだった為、唯一そこに入る事を許されていたという。
「じゃあこの大規模な呪いは…」
『父で間違いないと思う』
勇輝や怜と話した推測は当たっていた。
だが…死んだ後もその子供の魂を縛ってまで、恨みを晴らすだろうか。
それとも、謎を1つずつ解いていけばその答えにも辿りつくのか。
『あと…黒髪の兄妹の事だけど…』
少年が彼らについて、ポツリポツリ話してくれた。
2人はこの村の村長の子供。しっかり者の兄と無邪気な妹。少年と姉は兄弟ぐるみで仲良くしていた。
あの日。神社で婚約と帰国の報告を終えた後、彼らは一度、神社でそのまま別れた。
だがその日の夜、突然黒髪の青年が館にやって来たのだ。必死の形相で事情は言えないが、この村から逃げろと。
そこから先は、青年や少年の記憶が見せた展開通りだった。
この呪いのをかけたのは彼らの父親。事情を知っている黒髪の青年。少しずつ、事件の概要がわかってきた。あとは彼女と同化すれば、もしかしたら…。
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