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第2部 呪いの館 救出編

6話

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 先程と同じく、突然視界を闇が包んだ。ゆらゆら揺れるモヤのうっすら向こうに何か見える。

 それは全体的にモノクロの映像だった。

 書斎のような場所で、幼い少年は大人の男性から何かを学んでいる。

 沢山の本が入った本棚に、よくわからない道具の数々。いつも一緒にいる姉と親戚の男の子は側にいない。

 向かいにいた大人の男性が、褒めるように少年の頭を撫でた。くすぐったそうに少年は笑った。

 場面が変わる。
 少し成長した少年と姉は手を繋いで神社に続く階段を登っていた。

 社の前に先客がいた。黒髪と黒目の少年と女の子。笑顔で手を振ってきた。

 少年は彼より何歳か年上で、彼にとっては兄の様な存在だった。逆に女の子は幼く、妹の様に感じていた。彼はこの2人が大好きだった。

 少し離れた茂みが揺れた。見ると、茂みの向こうに金髪が見えた。一瞬だけ見えてすぐ消えた。親戚のあの子はいつもこの集まりには混じろうとしない。それがとても残念だった。

 次は一転温かい場面だった。
 姉と親戚の彼の婚約が決まった日。

 2人とても幸せそうで。自分もつられて幸せな気分になった。そうこの時、少年は姉の婚約者となった彼とある約束をしたのだ。もう、今は叶えられないけど。

 また場面が変わった。
 いつもの神社だ。

 この国で出来た友人達に、姉の婚約を報告に来たのだ。そして近い内に国に戻るという報告も。

 妹の様に思っていたあの子は泣いてくれた。
 大人になったら会いに来てくれると約束してくれた。笑って指切りをしてくれた。

 悲しい別れ、ではなく、いつの日かの再会を約束してくれた事が嬉しかった。
 
 突然、場面が切り替わった。
 先程と違って色がついている。

 暗い部屋にキャンドルが揺れている。床には沢山の死体。広がる赤い色。奥に姉の婚約者が剣を片手に立ち尽くしていた。

 その足元には、彼が兄の様に慕っていた黒髪の青年の身体と頭…。

 側にいた姉が絶叫して青年の死体に駆け寄る。それを無表情で婚約者の青年はただ見ていた。

 何で…こんな事に…。彼が、殺した青年を嫌っているのは知っていた。まさか殺す程とは…。

 窓の向こうから大勢の人の声が聞こえてかた。まだ距離はありそうだが、きっとこの館に向かっている。

 少年は立ち尽くしている青年に声をかけた。ここは危ないから、一緒に行こうと。返事はない。

 仕方なく泣き叫ぶ姉を連れて、父の書斎に連れて行った。

 ここは父が守りの結界を施しているから、この館で1番安全な場所だ。更に隠し通路なので、知らない人間は辿りつけない。姉にココで隠れるよう言い含め、少年は姉の婚約者の元に戻った。

 絶対死なせない。彼も隠し部屋に連れていく。

 彼はまだ部屋の中央に立っていた。

 表情もない。走り寄って、一緒に逃げようと腕を掴むが反応がない。

 ー何で?様子のおかしい彼を見つめる。そこで初めて気づいた。

 彼の左右の両耳がなかった。

 何か硬い物で殴られたのか、側頭が抉れてて血肉が出ていた。彼の足元の血は…彼自身の物だった。

 少年はその残酷な事実に驚愕し、気づいた。もう…彼は助からない…。立っているのが不思議な位の傷だった。

 この状態ではもう歩けないだろう。今から隠し部屋に連れて行くのは難しい。でもこのままだと、奴等に見つかってしまう。

 号泣しながら、少年は部屋で隠れる場所を探す。かろうじてタンスと壁の隙間なら、少なくとも近くに来ない限り見つからない筈だ。

 ごめんね、ごめんね、と泣きながら少年は彼を隠すように隙間に押し込めていく。彼はされるがままで何の抵抗もない。もう意識が朦朧としているのだろう。

 そんな彼の口が微かに動く。

「…やっと……」

 耳をすまさないと聞き取れない程の、小さな声。死にゆく者の最期の言葉。

「…やっと……ほんと…の…かぞく…に…なれる…と…」

 言葉はそこまでだった。目を開けたまま、もう動かない。

「…家族だっただろう。僕達ずっと…」 

 涙が止まらない。

 少年は初めて会った時から、ずっと家族だと思って接していた。

 でも彼には引け目があったのかもしれない。姉と結婚して、自分達と本当の家族になる。それをどれだけ渇望していたか。今更になって知った。

 婚約した日の約束。もう果たせない。
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