上 下
2 / 87
第1部 呪いの館 復讐編

プロローグ

しおりを挟む
「俺、夏休みにあいつに告白するから」

 牛乳パックを飲みながら、勇輝は隣に座る親友&幼馴染の怜に宣言した。

 宣言と言っても、やっぱりそれは気恥ずかしく、勇輝の頬はほんのり赤い。それをごまかすように持ってたサンドイッチにかぶりつき無言で咀嚼する。

 2人がいる場所は通っている高校の屋上。大事な話があるからと昼休みに怜を誘って、一緒に昼食を取りながら、勇輝は自分の一大決心を伝えた…のだが。

 空は青く。屋上からの見晴らしも良い。風に乗って雲が流れて行く…。

「ーって無視かよ!」

 いつまでも無言を貫く怜に、勇輝はツッコむ。

「…食べてる時に話しかけるから」

 口に入っていた分を飲み込んで、怜は軽く勇輝を睨む。

「まぁ、頑張って」
「軽っ!」
「…玉砕したら骨は拾ってやる」
「ひどっ!」
「………まぁもしダメでも死ぬわけじゃないから」
「重っ!」
「…………はぁ」

 いい加減ウザくなって怜は大きくため息を吐いた。

「何て言って欲しいの?」

 2つ目のサンドイッチにかぶりつきながら、勇輝は拗ねた様に怜を見た。

「…お前はいいのかよ」
「…。」
「俺が知らないとでも思ってるのかよ。俺が告白して華と両思いになっちゃって、2人でラブラブになっちゃったら、お前お邪魔虫になっちゃうんだぞ!それでもいいのかよ!」

 怜がポカンとした表情で包まれたままのおにぎりをポロッと落とした。

「…多分、華は勇輝の事、1mmも意識してないと思うけど…」
「ひどっ!心当たりしかないけどなっ!」

 勇輝が両手で顔を覆って、ひどいっ、怜のバカッとか言いながら泣き真似した。

 昼休みも半ばになり、徐々に学校内が騒がしくなってきた。

 怜が冷たい、構ってくれない、とかまだ言ってる勇輝を怜はジッと見る。

 怜の幼馴染で親友でもある勇輝は、背も高く体格も良い。見るからに体育会系だ。性格も明るいし、真っ直ぐな正確で男の自分から見ても好感が持てる。

「僕も…華のこと好きだよ」

 怜の呟きに、勇輝がピクリと反応する。泣き真似をしてた両手の隙間から、怜を盗み見る。

 いや、こっち覗いてるの見えてるし、と心の中で怜はツッコんだ。

「でも勇輝の事も同じくらい好きなんだよ」

 勇輝がサーッと顔を青ざめ、自分を抱きしめブルブル顔をふった。

「いや、そういう意味じゃないから…」

 どう言おうかと迷いながら怜は腕組みして、形の良い顎を触る。考える時の彼の癖だ。

「卒業したら僕は海外に行かないといけないし」
「何だよ。たまには帰ってくるだろ?」
「でも今までみたい何かあればすぐ会える距離じゃないだろ」

 怜が寂しそうに笑って、それに…と続ける。

「勇輝なら華を任せられるって思うんだよ」
「怜…」
「華はおっとりしてるだろ。だから勇輝の積極的なとこがさ、華にはピッタリだと思うんだよ」
「それ言うなら、怜の方が頭良いし、美形だし、大人っぽいし、華のフォローうまいじゃん!」
「まぁ、そうだな」
「否定しないんかいっ!」

 勇輝のツッコミに、怜が笑った。

 自惚れではないが、怜は比較的頭が良い。サラサラの黒髪に切れ長の美しい黒眼でクール系の美形だ。背は平均より低めだが、筋肉だってそれなりについている。つまり、なかなかのイケメン君だ。

「だから応援してるって言ってるだろ?でも…もし華を不幸にしたら」
「…不幸にしたら?」
「その時は全力で僕の物にするから」
「…負けないからな」
「言っとくけど僕が本気になったら手強いよ」
「知ってる」

 昼食を食べ終えた勇輝はゴロンと行儀悪く、その場に寝転んだ。

 勇輝から見ても、怜はカッコいいし、頭もいい。どちらかといえばクールで自分とは違うタイプ。でも勇輝が1番信頼してる存在だった。だからこそー。

「俺だって、俺以外に任せるとしたらお前しかいないんだよ」
「どうも」

 怜も軽く笑って隣に寝転んた。
 今日は風が穏やかで、青空が広がっていて気持ち良い。

「やっぱ、告るなら花火祭りとか、海だよな~」
「その前にさ…」
「ん~?」
「お前、あれどうにかした方がいいんじゃない?」
「げっ」

 屋上の入り口から女子2人が出て来た。1人は幼馴染で想いを寄せている華。もう1人は最近、3人と仲良くなった桃だ。

「やば、隠れるとこ…」
「こんな何もないとこで見つからないとかないから。いつまでも逃げ回るのやめたら?」
「だって、もし告白されて断ったら気まずいだろ!そしたら華にも気を使わせるし」

 桃は明るくノリも良い。

 友人としてなら最高だが…どうやら勇輝の事が好きらしく、隙をみては勇輝に絡んでくるのだ。

 もし2人っきりになって告白でもされたら…100%断る。でもそれでギスギスするのも嫌なので、のらりくらりと桃のアピールから逃げ回っているのだ。

 怜にはよく「潔く告白されて断れ!このヘタレが!」と怒られている。

 隠れようにも、屋上のだだっ広い所に寝込んでいた為、場所もなく。2人はすぐ見つかった。

「あ~いたいた!勇くん、怜くん!」

 桃が華を掴んだまま走ってくる。

「2人とも探したよ!」

 いや俺、怜と大事な話あるから今日は2人で他で食べるって言ったよね!?

 口に出す勇気がない勇輝は、顔で笑って心で泣いた。

 どうもこの桃という女子は、あまり空気を読めない。もしくは、あえて読まない。

 ふわふわの栗色の天然パーマに大きな黒眼。見た目はものすごく可愛いのに!見た目と性格のギャップが、勇輝としてはとても残念だった。

「勇ちゃん、怜ちゃん、ごめんね。今日大事な話してるって桃ちゃんにも言ったんだけど」

 華が申し訳なさそうに謝った。

 色白の肌にサラサラの黒髪のロングと、涼しげな黒眼。可愛い容姿の桃に比べて、華は清楚な美人だった。

 そんな華にわかりやすくニコニコする勇輝。 

 あぁ癒される~。さすが俺の華!
 …とか思ってるだろうな、と怜は勇輝の思考を看破した。

「で?どうしたの桃。わざわざ大事な話してるってわかってて、こんなとこまで探しに来たんでしょ?」

 チクチクと、怜は桃に対する嫌味も忘れない。

 怜からすると桃は空気を読めるのに読めないフリをしている。つまりはあざとい人種だ。

 対応に苦慮してる勇輝と違って、怜は適当にあしらえるから、特に桃に苦手意識はない。

 だが、事前に2人で大事な話をするから、と断ったのに割り込んでくるのは、流石に怒ってもいいだろう。

「もちろんよ!ねぇ、夏休みにみんなで旅行に行かない?」

 桃の提案に、なになに?と勇輝が興味をそそられる。きっと華への告白場所にいいかもと思ってるに違いない。

 反応の良い勇輝に桃がふふ、と嬉しそうに微笑んだ。

 アリ地獄の罠にかかるアリ。もしくは釣り人が垂らした釣り餌にかかった魚。

 あれほど気をつけろと言ったのに。

 怜は面白いほど桃の話につられる単純な勇輝に、呆れてため息をついた。

「急にどうしたの?」
「この前話したでしょ?高校卒業後は、みんな進路がバラバラだねって!だから想い出作りにいいかな、と思って!」
「おー!それいいな!」
「勇輝くんならノッテくれると思った!」
「え?そんなに俺わかりやすい?」
「わかりやすすぎる」

 怜がツッコミ、桃と華が頷く。

「勇ちゃんと桃ちゃんて仲良いよね!ノリも似てるし」

 ふふっと華が笑う。

 その言葉に勇輝はショックで固まり、怜は呆れてまたため息をつき、桃は嬉しそうに頬を染めた。



 この時桃が持ち込んだ夏の思い出作りは、無事夏休みに開催されることになる。
  
 楽しい筈の旅行が、4人を恐怖のドン底に陥れる事件になるとは知らずにー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サハツキ ―死への案内人―

まっど↑きみはる
ホラー
 人生を諦めた男『松雪総多(マツユキ ソウタ)』はある日夢を見る。  死への案内人を名乗る女『サハツキ』は松雪と同じく死を望む者5人を殺す事を条件に、痛みも苦しみもなく松雪を死なせると約束をする。  苦悩と葛藤の末に松雪が出した答えは……。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

廃墟の呪い

O.K
ホラー
主人公が電子書籍サイトで見つけた遺書には、禁じられた場所への警告が書かれていた。それを無視し、廃墟に近づいた主人公は不気味な声に誘われるが、その声の主は廃墟に住む男性だった。主人公は襲われるが、無事に逃げ出す。数日後、主人公は悪夢にうなされ、廃墟のことが頭から離れなくなる。廃墟がなくなった現在も、主人公はその場所を避けている。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

私メリーさん。今あなたの──

家紋武範
ホラー
ある晩、メリーさんを名乗る女から電話が来た。今から部屋に来るとのことだ。おれは急いで準備を始めた。

世界で一番、可愛いおばけ

ことは
ホラー
25歳で結婚した村瀬亜紀は、5年後に待望の赤ちゃんを授かった。 しかし、妊娠19週目の妊婦検診で、胎児が「無頭蓋症(むとうがいしょう)」だと宣告される。 脳はあるが頭蓋骨が形成されておらず、お腹の中では育つが外に出たら生きられない。 亜紀は悩んだ末、20週で人工死産を選択する。 亜紀は夫の孝之とともにその子に「そら」と名付け、火葬後遺骨を持ち帰った。 四十九日を過ぎた頃、そらが亜紀の目の前に現れた。 だが、孝之にはそらが見えない。孝之は亜紀に精神科の受診を勧めた。 しかし亜紀は、精神疾患によってそらの幻覚が見えるのならそれでも構わない、病気を治療してそらと会えなくなるのなら、精神病を治したくないと考えた。 はたしてそらは、本当に亜紀の幻覚なのか、それとも……。 【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。 https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl

性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ
ホラー
須原幸太は借金まみれ。 金貸しの元で無償労働をしていたが、ある日高額報酬の愛人契約を持ちかけられる。 『死ぬまで性奴隷をやる代わりに借金は即刻チャラになる』 飲み込むしかない契約だったが、須原は気づけば拒否していた。 「はい」と言わせるための拷問が始まり、ここで死ぬのかと思った矢先、須原に別の労働条件が提示される。 それは『バーで24時間働け』というもので……?

処理中です...