【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林

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第1部 呪いの館 復讐編

5話

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 体格の良い勇輝が思いっきり体当たりしても傷どころか、ビクともしないドアと窓。

 この異常な空間に4人は閉じ込められた。

「うぅっ、怖いよぉ…。何でこんな事に、ひっく」

 桃がしゃくりあげながらボロボロに泣いている。

「ごめん」

 俯きながら勇輝が謝った。

「オレがホラー好きだって言ったから」

 絞り出すような勇輝の声に、ハッと桃が顔をあげた。

 確かに勇輝はホラー好きと言った。でもそれを知って、ここに来るように仕向けたのは桃だ。そもそも最初に話題にしたのもー。

「…違う。行こうって誘ったのは、わたしだから…。勇くんと少しでも一緒にいたくて…。わたしこそ、ごめんなさい…。ごめんね、勇くん、華ちゃん、怜くん…ごめんね」

 自分の浅慮がみんなを巻き込んだ。罪悪感からボロボロと涙を流しながら桃が謝まり続ける。

 離れたところから2人のやりとりを見ていた華は、桃が何を言ってるかまでは聞こえてなかった。

 ただ座り込んでボロボロに泣くその姿に、華は桃の元へ走り抱きしめた。

「桃ちゃん大丈夫?1人じゃないよ。怖くて不安だと思うけど、みんないるから」
「華ちゃん…」

 桃と勇輝の会話の流れからすれば、それは的外れな慰めだった。

 でも、この館に閉じ込められる原因を作った桃を責める事もなく、純粋に心配してくれる華の優しさが嬉しかった。桃も感謝と親愛を込めて、華を抱きしめ返した。

 勇輝がこんな華を好きになるのも仕方ない。

 本当はわかっていた。勇輝が華しか見てない事も。でも告白も何もしないうちにあきらめるのが嫌だっただけ。
 
 桃がポロポロと涙を流す間、華はずっと桃の背中をさすっていた。

「華ちゃん、ありがとう」

 桃は泣いた事でだいぶ気持ちが落ち着いたようだ。目元を腫らしながらも、いつもの明るい笑顔を見せた。

 その様子を見て怜が声をかけてきた。とりあえず一旦状況を把握する為、話し合おうと。
 
「一緒に来るって決めたのは僕たち自身の選択だから。だから誰が悪いってのは無しだ。一緒に帰るにはどうすればいいか、みんなで考えよう」

 怜の言葉に、みんなが頷いた。



◇◇◇



 この怪しい建物から抜けるにはどうすればいいか。

 とりあえず不気味な祭壇から距離をあけ、ドアに近い場所に集まって4人は話し合う事にした。

 幸い先程の怪しい声は、祭壇や腕輪から離れたせいか今は止まっている。

「ダメだ。通じない。電波も圏外だ」

 まず真っ先に勇輝が試したのはスマホが通じるかだ。予想通り、圏外表示で通じなかった。

 勿論、他の3人も同様だ。

「てことは、ここから出るには…」
「多分、あの祭壇に関わるしかないだろうな」

 もう関わりたくはないが、他に手がかりも無い。

 見渡す限り、この部屋には開かないドア、真っ暗な窓、不気味な祭壇と腕輪しかないからだ。避けては通れないだろうというのが、4人の共通の意見だった。

「ならせめて、俺に闘う役をやらせて欲しい」

 迷いのない強い目で勇輝は言い切った。身体的なバランスを考えると自分が適任だと言い切る。

「確かに、これは勇輝が1番向いてるな。じゃあ、護る役は僕がするよ」

 怜が名乗り出る。
 求める者を護る者という言葉通りだと、身体を張る可能性がある。その為、男である自分の方がいいだろうと言った。

「じゃあ最後の求める者だけど…」
「あの!それ、わたしにさせてもらえないかな?」

 桃が思いつめたように声をあげた。

「やっぱりこんな事になったのに罪悪感もあるし、わたしも何か出来ることをやりたい」

 勇輝と怜がお互いに視線を合わせ、頷いた。

「わかった。じゃあ、それは桃に任せるね。でも無理はしないで」

 怜の言葉に桃は嬉しそうに頷いた。

「あの、私は?」

 またしても1人蚊帳の外になってしまった華は、3人を見回す。

 確か腕輪は3つなので、もう役割はないが、何もしない選択肢はない。

「華は、桃のフォローに回ったらいいんじゃないかな」

 怜が考えるように目を伏せながら言った。腕組みしながら、右手で唇や顎を触っている。こんな時でも考える時の彼の癖は健在な様だ。

「推測だけど、求める者っていう位だから何かを調べたり探したりするんじゃないかな。それなら1人より2人の方がいいと思う」

 確かに。残りの3人も納得し頷いた。

「よし。じゃあこれで役割分担は決まったな。この後、どんな事になるかわからないけど…華も桃も俺が絶対守るから」

 勇輝が真っ直ぐな瞳で、華と桃に向けて言った。何かを覚悟したような表情はとても凛々しい。

 続けて怜も、同じように2人を見つめて微笑む。

「僕も柄じゃないけど…2人を護れるようがんばるよ。だから全員無事に帰ろう」
 
 ありがとう、と桃が照れながらお礼を言った。その頬はほんのり赤い。

 華はコクと頷いた。子供の頃から、何か困った事があった時、勇輝と怜はいつも助けてくれた。この2人と一緒ならきっと大丈夫。そう思えた。

「信用してる」

 華の一言に、勇輝と怜は一瞬目を見開いた後、嬉しそうに笑った。

「よし、じゃあさっきのとこに戻るか」

 勇輝の先導で、みんなで祭壇へ向かう。何となく一緒に協力すると言う事で、華と桃が並んで歩いていた。

「華ちゃんはすごいね」
「え?」
「たった一言で2人を笑顔にできちゃうんだもん」
「?」

 桃の言葉がよくわからなくて、華は桃が見つめた。その様子が面白かったのか、桃は軽く笑う。

「何でもない。ただ3人が仲良くて羨ましいなーと思っただけ。私、田舎から出てきたからあまり友達もいないし」

 寂しそうに桃が微笑む。

 桃は元々、祖父母と一緒に住んでいて、高校進学をきっかけに今の所に来たのだった。

 きっとそれまで仲の良かった友人とも離れてしまったのだろう。詳しい事情は知らないが、自分が勇輝や怜と離れて、1人別の学校に通ってたら…と思うととても寂しかっただろう。

 そっと華は桃の手を握った。

「桃ちゃんも私の大事な友達で、仲間だよ」

 桃がパッと華を見る。うん、と桃は嬉しそうに笑った。
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