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第1部 呪いの館 復讐編
3話
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「ついたよ~」
いつの間にか勇輝と桃が立ち止まっていた。
桃が元気に両腕を振っている。その横で勇輝は、ジッと華と怜を見ていた。
「?」
無表情な勇輝は珍しい。どうしたのか、と首を傾げて勇輝を見ていたが、先に勇輝が視線をそらした。
気になったが、何となく声をかけそびれて、そのまま目の前の建物に目を向けた。
これ絶対ヤバいやつ。
感想はその一言につきた。
恐らく建てた当初は、白く優美な美しい洋館だったろう。月明かりに浮かび上がるソレは、今は壁はところどころ剥がれ、壊れて、窓はひび割れている。建物の周りの庭は雑草が荒れ果て様々な野草が生えている。
「こ、こんなとこ入るの?」
華は震える声で隣の怜に聞いた。怖すぎて涙目だ。
「いや…さすがにこれは無理じゃないかな?」
怜も困惑した表情だ。
予想以上の廃屋だし、かろうじて門から玄関までは人が通れる石畳があるが、それでも雑草がひどい。
「子供の頃に来た時は、まだマシだったと思うんだけどな~」
「よくこんなとこに、来ようと思ったな」
勇輝が呆れたように桃を見る。
「んー、昔はもう少しキレイだったよ。こんなに草ボーボーじゃなかったし。手入れしてる人がいたんじゃないかな」
桃がチョンと門を触った。ボロボロで今にも崩れそうだ。
「そっかー。でもさすがにこんなとこに入ろうとは思えないし。帰るか!」
言い出しっぺ、と華は思っている勇輝が帰ると言い出した事で、みんなの空気が緩む。
さすがに一緒にノリノリだった桃も、こんな物騒な場所は嫌なようだった。
「良かった…」
ホッとしたせいか華の目尻にほんのり涙が浮かぶ。
怜がすかさず取り出したハンドタオルで目尻を拭ってくれた。ここまでくると、兄というより、母だ。過保護すぎる。
「帰るぞ」
スタスタこちらに向かってきた勇輝が、華と怜の間に割り込むと、パッと華の手首を掴んで歩きだした。
「え?」
突然のことに、華はよろけながら勇輝につられて歩く。気のせいか、勇輝の表情は拗ねているようだ。
「勇ちゃん、どうかした?」
「……」
引っ張られながらも、華は心配そうに尋ねた。
「…怜ばっかずるい」
「え?」
「今日、ずっと怜ばっか華の側にいてずるい」
「え?なんで?ずっと4人でいたじゃない」
困惑する華に、勇輝が拗ねたように言った。
「そういう意味じゃない。ただ一緒にいたいんじゃなくて…俺は華の側にいたいの」
「勇ちゃん…」
「だから…今度2人だけでどっか遊びに行こ」
勇輝に引っ張っられているので、その表情は見えない。
ただ後ろから見える彼の耳は月明かりの中でもわかるほど赤くなっていた。
つられて華も気恥ずかしくなり、顔を伏せる。掴まれた勇輝の手からやたら熱を感じた。
怜や桃は、何か言い合いながら、2人の後ろをのんびりついて来ている。
距離が少し離れているせいか4人で来ている筈なのに、まるで勇輝と2人っきりで月夜のデートをしているみたいだった。
華は今まで感じた事のない胸の鼓動を感じていた。
◇◇◇
その時、一斉に4人は風を感じた。
生ぬるい、じっとりとした。身体を撫でるような、嫌な風だった。
辺り全体に声が響いた。
耳からでなく、まるで直接脳に響いてくるような、これまで聞いたことのない音であり、声だった。
『 に が さ ぬ 』
言葉の意味を理解する前に、突然4人の意識はそこで途切れた。
いつの間にか勇輝と桃が立ち止まっていた。
桃が元気に両腕を振っている。その横で勇輝は、ジッと華と怜を見ていた。
「?」
無表情な勇輝は珍しい。どうしたのか、と首を傾げて勇輝を見ていたが、先に勇輝が視線をそらした。
気になったが、何となく声をかけそびれて、そのまま目の前の建物に目を向けた。
これ絶対ヤバいやつ。
感想はその一言につきた。
恐らく建てた当初は、白く優美な美しい洋館だったろう。月明かりに浮かび上がるソレは、今は壁はところどころ剥がれ、壊れて、窓はひび割れている。建物の周りの庭は雑草が荒れ果て様々な野草が生えている。
「こ、こんなとこ入るの?」
華は震える声で隣の怜に聞いた。怖すぎて涙目だ。
「いや…さすがにこれは無理じゃないかな?」
怜も困惑した表情だ。
予想以上の廃屋だし、かろうじて門から玄関までは人が通れる石畳があるが、それでも雑草がひどい。
「子供の頃に来た時は、まだマシだったと思うんだけどな~」
「よくこんなとこに、来ようと思ったな」
勇輝が呆れたように桃を見る。
「んー、昔はもう少しキレイだったよ。こんなに草ボーボーじゃなかったし。手入れしてる人がいたんじゃないかな」
桃がチョンと門を触った。ボロボロで今にも崩れそうだ。
「そっかー。でもさすがにこんなとこに入ろうとは思えないし。帰るか!」
言い出しっぺ、と華は思っている勇輝が帰ると言い出した事で、みんなの空気が緩む。
さすがに一緒にノリノリだった桃も、こんな物騒な場所は嫌なようだった。
「良かった…」
ホッとしたせいか華の目尻にほんのり涙が浮かぶ。
怜がすかさず取り出したハンドタオルで目尻を拭ってくれた。ここまでくると、兄というより、母だ。過保護すぎる。
「帰るぞ」
スタスタこちらに向かってきた勇輝が、華と怜の間に割り込むと、パッと華の手首を掴んで歩きだした。
「え?」
突然のことに、華はよろけながら勇輝につられて歩く。気のせいか、勇輝の表情は拗ねているようだ。
「勇ちゃん、どうかした?」
「……」
引っ張られながらも、華は心配そうに尋ねた。
「…怜ばっかずるい」
「え?」
「今日、ずっと怜ばっか華の側にいてずるい」
「え?なんで?ずっと4人でいたじゃない」
困惑する華に、勇輝が拗ねたように言った。
「そういう意味じゃない。ただ一緒にいたいんじゃなくて…俺は華の側にいたいの」
「勇ちゃん…」
「だから…今度2人だけでどっか遊びに行こ」
勇輝に引っ張っられているので、その表情は見えない。
ただ後ろから見える彼の耳は月明かりの中でもわかるほど赤くなっていた。
つられて華も気恥ずかしくなり、顔を伏せる。掴まれた勇輝の手からやたら熱を感じた。
怜や桃は、何か言い合いながら、2人の後ろをのんびりついて来ている。
距離が少し離れているせいか4人で来ている筈なのに、まるで勇輝と2人っきりで月夜のデートをしているみたいだった。
華は今まで感じた事のない胸の鼓動を感じていた。
◇◇◇
その時、一斉に4人は風を感じた。
生ぬるい、じっとりとした。身体を撫でるような、嫌な風だった。
辺り全体に声が響いた。
耳からでなく、まるで直接脳に響いてくるような、これまで聞いたことのない音であり、声だった。
『 に が さ ぬ 』
言葉の意味を理解する前に、突然4人の意識はそこで途切れた。
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