3 / 87
第1部 呪いの館 復讐編
1話
しおりを挟む
まとわりつくような暑さ。
蝉の大合唱。
「肝試し?」
早めの夕飯も終わり、縁側で涼みながらアイスを食べようとした華は、桃の言葉に動きを止めた。
「そうなの。この近くに洋館の空き家があって~。夜見ると不気味だから昔友達と肝試しに行ってたの、懐かしい~」
そう言って、華の左隣に座った桃はニコニコして、シャクッとアイスをかじった。
栗色の天然パーマに、くりくりした大きな黒目。アイスおいし~と呟く桃は、見た目は肝試しとか苦手そうなのに意外だ。
縁側の向こうには木々や芝生が広がり、相変わらず蝉の大合唱が聞こえてくる。
「なにそれ!楽しそう!」
家の中から勇輝と怜もアイス片手に縁側に出てきた。
「俺、ホラーとか大好きなんだよね!」
勇輝がキラキラした笑顔で笑った。スポーツマンらしく健康的に日焼けしたその笑顔は、笑うと少し幼く見える。
「あはは!勇くん怖いのとか、度胸試しとか好きそうだもんね!」
「桃は意外だな。女の子ってそういうのに苦手そうなのに」
勇輝と桃、2人のやり取りをスルーして、怜はさっさっと華の隣を確保した。あっ、怜ずるっ!と勇輝の声が聞こえた気がしたが無視した。
「華、アイスたれてるよ」
怜が背中に背負ってたボディバッグからポケットティッシュを取り出して、華に差し出した。
「あ、ありがとう!怜ちゃん」
受け取ったティッシュで垂れたアイスを拭う。
肝試しとか、ホラーとか不穏なワードに気を取られ、すっかりアイスの事を忘れていた。
遅ればせながら、アイスを頬張る。
夏のうだるような暑さで、すでにアイスが溶け出していた。口の中に広がる甘さに、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、華ちゃん可愛い」
桃がつられて笑った。
華は見た目が清楚な上に性格もおっとりしているので、下手をするとお高くとまっているように誤解されがちだ。
だからこそ、こういう子供っぽく笑った時の笑顔はとても貴重で可愛らしい。
「華は怖い話が苦手だからね。桃の話でフリーズしたんじゃない?」
怜の言葉に、華はコクコク頷いた。さすが10年以上つきあいのある幼馴染。ばれてる。
「華ちゃん、怖いのダメなの?」
「苦手。桃ちゃんは平気なの?」
「そんな事ないよ。怖い事は怖いけど、ほら怖いもの見たさってやつ?」
???。怖いなら見なきゃいいのに。華にはその感覚は理解できそうにない。
そんな華に、怜が小声で華だけに聞こえるように囁く。
「理解しなくていいよ。どうせ勇輝の気を引きたいだけだから」
「え?」
華がビックリした表情で怜を見た。
おや?と怜も華を見つめる。
怜につられて華も小声で返してきた。
「ーすごい。何で理解できてないってわかったの?」
「ーそっち?はぁ…どんだけ付き合い長いと思ってるの」
桃が勇輝の気を引こうとしてる、という点を流すあたり、勇輝の恋は前途多難そうだ。
「ーもう。怜ちゃんお母さんみたい」
わかりにくいが少し拗ねた表情をする華を見て、怜は笑った。
普段あまり表情が変わらないと思われがちな華だが、親しい仲、例えば自分や勇輝の前では意外に表情豊かだ。
おっとりした華には勇輝がお似合いだ。そう思うのは本心だ。
でも、こんな可愛い表情を見せられると、誰にも渡したくない気持ちにもなる…。
「ちょっと、そこコソコソしない!」
焦った親友の声が聞こえた気がするが、怜は華麗にスルーした。
「勇くん、こっち座る?」
桃が自分の隣をトントン叩く。
え?え?と分かりやすく勇輝は動揺した。
桃が促すように見てくる。できれば座りたくない。
怜がどうするの?と観察するように見てくる。気のせいか圧が…。
華が何の意図もなく見てくる。眼中になさすぎて。つらい。
結果、勇輝は縁側にあったサンダルを履いて庭に飛び出た。
「いやー暑いから俺外でいいわ!」
「勇くん、暑いってそこ扇風機当たってないよ」
「そのサンダル女物だよ」
桃と華の的確なツッコミが心のHPをガリガリ削ってくる。勇輝は、平気~と、笑いつつ心で泣いた。
怜は勇輝の行動と2人のツッコミがツボにささったらしく、1人口元を抑えて爆笑していた。ちくしょう覚えてろ!
「勇くんがいいなら別にいいけど。さっきの話だけど、ホラーが好きならお化け屋敷とかも良く行ったの?」
「そうだな。遊園地のお化け屋敷とかはよく入ったかも。華はそういうの苦手だから外で待ってもらってて、俺と怜だけで入ってたな」
「男2人で?」
「男2人で」
ドッと桃と勇輝が笑いあう。お互い明るい性格のせいか、笑いのツボが合うようだ。
「わたしでよければ付き合うよ」
「え?」
一難去ってまた一難。
恋のアピールは勇輝より桃が上手だったようだ。
蝉の大合唱。
「肝試し?」
早めの夕飯も終わり、縁側で涼みながらアイスを食べようとした華は、桃の言葉に動きを止めた。
「そうなの。この近くに洋館の空き家があって~。夜見ると不気味だから昔友達と肝試しに行ってたの、懐かしい~」
そう言って、華の左隣に座った桃はニコニコして、シャクッとアイスをかじった。
栗色の天然パーマに、くりくりした大きな黒目。アイスおいし~と呟く桃は、見た目は肝試しとか苦手そうなのに意外だ。
縁側の向こうには木々や芝生が広がり、相変わらず蝉の大合唱が聞こえてくる。
「なにそれ!楽しそう!」
家の中から勇輝と怜もアイス片手に縁側に出てきた。
「俺、ホラーとか大好きなんだよね!」
勇輝がキラキラした笑顔で笑った。スポーツマンらしく健康的に日焼けしたその笑顔は、笑うと少し幼く見える。
「あはは!勇くん怖いのとか、度胸試しとか好きそうだもんね!」
「桃は意外だな。女の子ってそういうのに苦手そうなのに」
勇輝と桃、2人のやり取りをスルーして、怜はさっさっと華の隣を確保した。あっ、怜ずるっ!と勇輝の声が聞こえた気がしたが無視した。
「華、アイスたれてるよ」
怜が背中に背負ってたボディバッグからポケットティッシュを取り出して、華に差し出した。
「あ、ありがとう!怜ちゃん」
受け取ったティッシュで垂れたアイスを拭う。
肝試しとか、ホラーとか不穏なワードに気を取られ、すっかりアイスの事を忘れていた。
遅ればせながら、アイスを頬張る。
夏のうだるような暑さで、すでにアイスが溶け出していた。口の中に広がる甘さに、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、華ちゃん可愛い」
桃がつられて笑った。
華は見た目が清楚な上に性格もおっとりしているので、下手をするとお高くとまっているように誤解されがちだ。
だからこそ、こういう子供っぽく笑った時の笑顔はとても貴重で可愛らしい。
「華は怖い話が苦手だからね。桃の話でフリーズしたんじゃない?」
怜の言葉に、華はコクコク頷いた。さすが10年以上つきあいのある幼馴染。ばれてる。
「華ちゃん、怖いのダメなの?」
「苦手。桃ちゃんは平気なの?」
「そんな事ないよ。怖い事は怖いけど、ほら怖いもの見たさってやつ?」
???。怖いなら見なきゃいいのに。華にはその感覚は理解できそうにない。
そんな華に、怜が小声で華だけに聞こえるように囁く。
「理解しなくていいよ。どうせ勇輝の気を引きたいだけだから」
「え?」
華がビックリした表情で怜を見た。
おや?と怜も華を見つめる。
怜につられて華も小声で返してきた。
「ーすごい。何で理解できてないってわかったの?」
「ーそっち?はぁ…どんだけ付き合い長いと思ってるの」
桃が勇輝の気を引こうとしてる、という点を流すあたり、勇輝の恋は前途多難そうだ。
「ーもう。怜ちゃんお母さんみたい」
わかりにくいが少し拗ねた表情をする華を見て、怜は笑った。
普段あまり表情が変わらないと思われがちな華だが、親しい仲、例えば自分や勇輝の前では意外に表情豊かだ。
おっとりした華には勇輝がお似合いだ。そう思うのは本心だ。
でも、こんな可愛い表情を見せられると、誰にも渡したくない気持ちにもなる…。
「ちょっと、そこコソコソしない!」
焦った親友の声が聞こえた気がするが、怜は華麗にスルーした。
「勇くん、こっち座る?」
桃が自分の隣をトントン叩く。
え?え?と分かりやすく勇輝は動揺した。
桃が促すように見てくる。できれば座りたくない。
怜がどうするの?と観察するように見てくる。気のせいか圧が…。
華が何の意図もなく見てくる。眼中になさすぎて。つらい。
結果、勇輝は縁側にあったサンダルを履いて庭に飛び出た。
「いやー暑いから俺外でいいわ!」
「勇くん、暑いってそこ扇風機当たってないよ」
「そのサンダル女物だよ」
桃と華の的確なツッコミが心のHPをガリガリ削ってくる。勇輝は、平気~と、笑いつつ心で泣いた。
怜は勇輝の行動と2人のツッコミがツボにささったらしく、1人口元を抑えて爆笑していた。ちくしょう覚えてろ!
「勇くんがいいなら別にいいけど。さっきの話だけど、ホラーが好きならお化け屋敷とかも良く行ったの?」
「そうだな。遊園地のお化け屋敷とかはよく入ったかも。華はそういうの苦手だから外で待ってもらってて、俺と怜だけで入ってたな」
「男2人で?」
「男2人で」
ドッと桃と勇輝が笑いあう。お互い明るい性格のせいか、笑いのツボが合うようだ。
「わたしでよければ付き合うよ」
「え?」
一難去ってまた一難。
恋のアピールは勇輝より桃が上手だったようだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サハツキ ―死への案内人―
まっど↑きみはる
ホラー
人生を諦めた男『松雪総多(マツユキ ソウタ)』はある日夢を見る。 死への案内人を名乗る女『サハツキ』は松雪と同じく死を望む者5人を殺す事を条件に、痛みも苦しみもなく松雪を死なせると約束をする。 苦悩と葛藤の末に松雪が出した答えは……。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
廃墟の呪い
O.K
ホラー
主人公が電子書籍サイトで見つけた遺書には、禁じられた場所への警告が書かれていた。それを無視し、廃墟に近づいた主人公は不気味な声に誘われるが、その声の主は廃墟に住む男性だった。主人公は襲われるが、無事に逃げ出す。数日後、主人公は悪夢にうなされ、廃墟のことが頭から離れなくなる。廃墟がなくなった現在も、主人公はその場所を避けている。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
世界で一番、可愛いおばけ
ことは
ホラー
25歳で結婚した村瀬亜紀は、5年後に待望の赤ちゃんを授かった。
しかし、妊娠19週目の妊婦検診で、胎児が「無頭蓋症(むとうがいしょう)」だと宣告される。
脳はあるが頭蓋骨が形成されておらず、お腹の中では育つが外に出たら生きられない。
亜紀は悩んだ末、20週で人工死産を選択する。
亜紀は夫の孝之とともにその子に「そら」と名付け、火葬後遺骨を持ち帰った。
四十九日を過ぎた頃、そらが亜紀の目の前に現れた。
だが、孝之にはそらが見えない。孝之は亜紀に精神科の受診を勧めた。
しかし亜紀は、精神疾患によってそらの幻覚が見えるのならそれでも構わない、病気を治療してそらと会えなくなるのなら、精神病を治したくないと考えた。
はたしてそらは、本当に亜紀の幻覚なのか、それとも……。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話
タタミ
ホラー
須原幸太は借金まみれ。
金貸しの元で無償労働をしていたが、ある日高額報酬の愛人契約を持ちかけられる。
『死ぬまで性奴隷をやる代わりに借金は即刻チャラになる』
飲み込むしかない契約だったが、須原は気づけば拒否していた。
「はい」と言わせるための拷問が始まり、ここで死ぬのかと思った矢先、須原に別の労働条件が提示される。
それは『バーで24時間働け』というもので……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる