44 / 45
エピローグ
しおりを挟む
「戻る用意ができたぞ!」
建物の方から担任の若宮の声が聞こえた。
その声を聞いて、中庭にいた伊藤が江川の方を振り向く。
「で?用件さっさと言えよ。若ちんが呼んでんだろ」
既に魔王を倒した為、今は勇者と聖女としての服でなく、ここに来た時に着けていたウェイター姿と制服姿だ。
「伊藤くんはどうして…田中さんが鈴木くんと付き合うの黙って見てるの?あの身代わりの石だって、伊藤くんが田中さんの為に死ぬ思いで取って来たのに」
「お前に関係ないだろ。前にも言ったけどアイツは妹みたいなもんだから鈴木みたいな良い奴なら文句は言わねえよ」
「…わかったわ。口出ししてごめんなさい」
「加藤、お前またアイツに何かすんなよ。俺、お前がした事、まだ許してねーからな」
「わかってる。もうあんな事…二度としないわ。田中さんは命の恩人だもの」
江川は項垂れる様に顔を伏せた。
「ただ…私のせいで伊藤くんが責任を感じてるなら申し訳なくて…」
「…余計なお世話だ。もう俺に関わるな」
そう言って伊藤は江川を置いて行ってしまった。
1人残された江川の瞳から堪えきれず涙が溢れた。
ガサゴソ、近くの垣根から音がして、若宮がやって来た。
「なーにやってんだお前。もうみんな儀式の間に向かってるぞ」
「…すみません」
「はぁ…また伊藤と揉めたのか?」
「……私が悪いんです」
落ち込む江川に、若宮が、はぁーとため息を吐いた。
「確かによ。お前は悪い事をしたかもしれない。でも同じ位、良い事もしてる」
「……若ちん」
「今、田中が今のクラスメイトが好きだって言えてるのは委員長のお前が普段気を使ってやってるのもあんだろ?」
「……」
「大丈夫さ。お前達若者には未来がある。失敗して後悔した分を取り戻せる位、これから頑張ればいい」
「…ありがとうございます。儀式の間に向かってますね」
ぺこりと頭を下げて、江川は中庭を出て行った。
誰もいなくなった中庭を見回して、若宮はガシガシ頭を掻いた。
色々ともどかしい。みんな自分にとっては可愛い生徒だ。だから誰か1人だけの肩を持つ事はしたくない。
正直なところ。問題の3人を自分が担当する事になった時はどうしようかと思ったのが本音だ。
中学の頃クラスのいじめが原因で引きこもり不登校になった田中。
クラスを先導していじめていた張本人の江川。
そして、いじめのキッカケになった伊藤。
クラスのみんなには伏せているが、伊藤大河と田中あかりは兄妹だ。幼い頃に親が離婚したせいで苗字が違うが、仲の良い兄妹だったらしい。
ところが中学のイジメがキッカケで、精神的なショックから田中は過去の記憶を所々無くしてしまったらしく、兄の大河を幼馴染だと思い込んでしまったらしい。
そんな田中をフォローするさせる為に兄の伊藤をあえて一緒のクラスにしたのだが…。
想定外だったのは江川だ。
中学を転校した後に親が離婚し苗字が変わった彼女は、たまたま2人と同じ高校、同じクラスになってしまった。
それが判明したのは、実際授業が始まってからだ。その時にはもうクラス分けのしようが無かった。
今のところ江川は自分のイジメで引きこもりになった田中に対して、心から後悔して接してる様だ。
だがもし田中の記憶が戻った時。このクラスがどうなってしまうかはわからない。
それでも担任として。少しでもみんなが幸せになれるよう手を貸してやりたい、そう思う。
◇◇◇
儀式の間に戻ると、若宮のクラスの生徒達は全員揃っていた。
1人も欠けることなく。無事な姿で。
若宮は生徒全体を見渡した。みんな、無事に帰れる喜びからか、とても良い笑顔だ。
元々仲の良いクラスだったが、今回の件でより一層絆が深まった気がする。
そんな中、伊藤はクラスの男子とふざけて遊んでる。
江川は少し表情が暗いが、仲の良い山田が側に寄り添ってるから大丈夫だろう。
田中あかりと鈴木忍は、仲良く手を繋いでおしゃべりしている。2人の幸せそうな雰囲気が周囲をほっこりさせている。
「若ちん殿!準備できました!」
ローブを羽織った翁に声をかけられた。
いよいよだ。
「よしみんな!今から帰還するぞ」
生徒達が注目してくる。
「バタバタして大変な14日間だったが、みんなよくやった。こうやって…誰1人欠けることなく…帰れて本当に….良かった」
ちくしょう。何だか、込み上げて来る物があるな。
若ちんガンバレーとか言ってる奴がいる。しめるぞコラ。気合いで目から出そうな何かは引っ込ませた!
「おし、帰るぞお前ら!」
「はい!」
生徒の声に呼応する様に、光がみんなを包んだ。
◇◇◇
光が収まると、よく知っている教室だった。
あの日のあの時のままの、カフェ仕様の教室だった。時計の時刻も同じだった。
「帰って来た…」
誰かが呟き、クラス全体が歓喜に包まれた。
よっしゃーと叫んだり、泣き出したり、笑い出したり、とにかく大騒ぎで、よそのクラスが何事かと顔を覗かせて来てる。
「ホームルームするぞ!席につけー!」
「えー!今それ言う?」
「あたりめーだ!今から学園祭だぞ!」
みんなが、えぇ~と不満そうだ。
「こういう日常がどんだけ大事か身に染みただろ!」
「そうだけど~」
「若ちん、あの時も言ったけど、もうセッティング終わってるから席無いよ~。今さらホームルームいる?」
「うっせえ!いる!じゃあ注意事項話すから適当に立ったまま聞け!」
「ええ~!」
晴れた秋空に生徒達の不満声が響き渡った。
オタク女子はクラス転移で愛を知り哀を察る 完
ーーー
物語は以上です。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
最後に登場人物一覧の最終版を追加します。エピローグまでの全てのネタバレ、裏事情を記載してます。
気になる方はぜひそちらもお読み頂けたら嬉しいです。
建物の方から担任の若宮の声が聞こえた。
その声を聞いて、中庭にいた伊藤が江川の方を振り向く。
「で?用件さっさと言えよ。若ちんが呼んでんだろ」
既に魔王を倒した為、今は勇者と聖女としての服でなく、ここに来た時に着けていたウェイター姿と制服姿だ。
「伊藤くんはどうして…田中さんが鈴木くんと付き合うの黙って見てるの?あの身代わりの石だって、伊藤くんが田中さんの為に死ぬ思いで取って来たのに」
「お前に関係ないだろ。前にも言ったけどアイツは妹みたいなもんだから鈴木みたいな良い奴なら文句は言わねえよ」
「…わかったわ。口出ししてごめんなさい」
「加藤、お前またアイツに何かすんなよ。俺、お前がした事、まだ許してねーからな」
「わかってる。もうあんな事…二度としないわ。田中さんは命の恩人だもの」
江川は項垂れる様に顔を伏せた。
「ただ…私のせいで伊藤くんが責任を感じてるなら申し訳なくて…」
「…余計なお世話だ。もう俺に関わるな」
そう言って伊藤は江川を置いて行ってしまった。
1人残された江川の瞳から堪えきれず涙が溢れた。
ガサゴソ、近くの垣根から音がして、若宮がやって来た。
「なーにやってんだお前。もうみんな儀式の間に向かってるぞ」
「…すみません」
「はぁ…また伊藤と揉めたのか?」
「……私が悪いんです」
落ち込む江川に、若宮が、はぁーとため息を吐いた。
「確かによ。お前は悪い事をしたかもしれない。でも同じ位、良い事もしてる」
「……若ちん」
「今、田中が今のクラスメイトが好きだって言えてるのは委員長のお前が普段気を使ってやってるのもあんだろ?」
「……」
「大丈夫さ。お前達若者には未来がある。失敗して後悔した分を取り戻せる位、これから頑張ればいい」
「…ありがとうございます。儀式の間に向かってますね」
ぺこりと頭を下げて、江川は中庭を出て行った。
誰もいなくなった中庭を見回して、若宮はガシガシ頭を掻いた。
色々ともどかしい。みんな自分にとっては可愛い生徒だ。だから誰か1人だけの肩を持つ事はしたくない。
正直なところ。問題の3人を自分が担当する事になった時はどうしようかと思ったのが本音だ。
中学の頃クラスのいじめが原因で引きこもり不登校になった田中。
クラスを先導していじめていた張本人の江川。
そして、いじめのキッカケになった伊藤。
クラスのみんなには伏せているが、伊藤大河と田中あかりは兄妹だ。幼い頃に親が離婚したせいで苗字が違うが、仲の良い兄妹だったらしい。
ところが中学のイジメがキッカケで、精神的なショックから田中は過去の記憶を所々無くしてしまったらしく、兄の大河を幼馴染だと思い込んでしまったらしい。
そんな田中をフォローするさせる為に兄の伊藤をあえて一緒のクラスにしたのだが…。
想定外だったのは江川だ。
中学を転校した後に親が離婚し苗字が変わった彼女は、たまたま2人と同じ高校、同じクラスになってしまった。
それが判明したのは、実際授業が始まってからだ。その時にはもうクラス分けのしようが無かった。
今のところ江川は自分のイジメで引きこもりになった田中に対して、心から後悔して接してる様だ。
だがもし田中の記憶が戻った時。このクラスがどうなってしまうかはわからない。
それでも担任として。少しでもみんなが幸せになれるよう手を貸してやりたい、そう思う。
◇◇◇
儀式の間に戻ると、若宮のクラスの生徒達は全員揃っていた。
1人も欠けることなく。無事な姿で。
若宮は生徒全体を見渡した。みんな、無事に帰れる喜びからか、とても良い笑顔だ。
元々仲の良いクラスだったが、今回の件でより一層絆が深まった気がする。
そんな中、伊藤はクラスの男子とふざけて遊んでる。
江川は少し表情が暗いが、仲の良い山田が側に寄り添ってるから大丈夫だろう。
田中あかりと鈴木忍は、仲良く手を繋いでおしゃべりしている。2人の幸せそうな雰囲気が周囲をほっこりさせている。
「若ちん殿!準備できました!」
ローブを羽織った翁に声をかけられた。
いよいよだ。
「よしみんな!今から帰還するぞ」
生徒達が注目してくる。
「バタバタして大変な14日間だったが、みんなよくやった。こうやって…誰1人欠けることなく…帰れて本当に….良かった」
ちくしょう。何だか、込み上げて来る物があるな。
若ちんガンバレーとか言ってる奴がいる。しめるぞコラ。気合いで目から出そうな何かは引っ込ませた!
「おし、帰るぞお前ら!」
「はい!」
生徒の声に呼応する様に、光がみんなを包んだ。
◇◇◇
光が収まると、よく知っている教室だった。
あの日のあの時のままの、カフェ仕様の教室だった。時計の時刻も同じだった。
「帰って来た…」
誰かが呟き、クラス全体が歓喜に包まれた。
よっしゃーと叫んだり、泣き出したり、笑い出したり、とにかく大騒ぎで、よそのクラスが何事かと顔を覗かせて来てる。
「ホームルームするぞ!席につけー!」
「えー!今それ言う?」
「あたりめーだ!今から学園祭だぞ!」
みんなが、えぇ~と不満そうだ。
「こういう日常がどんだけ大事か身に染みただろ!」
「そうだけど~」
「若ちん、あの時も言ったけど、もうセッティング終わってるから席無いよ~。今さらホームルームいる?」
「うっせえ!いる!じゃあ注意事項話すから適当に立ったまま聞け!」
「ええ~!」
晴れた秋空に生徒達の不満声が響き渡った。
オタク女子はクラス転移で愛を知り哀を察る 完
ーーー
物語は以上です。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
最後に登場人物一覧の最終版を追加します。エピローグまでの全てのネタバレ、裏事情を記載してます。
気になる方はぜひそちらもお読み頂けたら嬉しいです。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
異世界からしか開きません
さよ
恋愛
実家に帰省した加七子は家ごと変な空間へ飛ばされた。
開かなかった玄関から現れたボロボロの男の子を助けようとするが、いつの間にか姿が消えている。
こちらからは開けられないのに、なぜか異世界からは開く玄関のドア。そんな家で加七子はひとり暮らしていたのだが……。
異世界に行ったら成長した男の子と再開した。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
SNSで知り合った相手とリアルで出会ったら、真っ暗だった青春が色付き始めた。
minori0310
恋愛
学校に行くことが億劫になり、引きこもり生活を続けていた主人公の”齊藤和之(さいとうかずゆき)”は、ある日、S N Sで交流のある”ハルカ”と電気街を巡ることになった。
顔こそ初めて合わせる二人だったが、文字を介した数年間があったからかそれほど居心地の悪さは感じない。共通の趣味を通して、二人の距離感はゆったりと縮んでいく。
低い身長やコミュニケーションをとることに不自由を抱えた和之は、ハルカに支えられながら細やかな青春を過ごしていくことになった。
*完結済みの作品です
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる