上 下
20 / 45

17話

しおりを挟む
「わ、わ、若ちん!い、いつから!?」
「アホか。お前の声がデカすぎて部屋まで聞こえてたわ。俺も一緒に出ようと思ったのに、先に出た上に、何か始めやがって。出るに出れるかよ」
「わー!恥ずかしい!」

 思わず鈴木くんの胸に顔を埋めた!

 鈴木くんの鼓動が早くなったのがわかった。不思議に思って見上げると、茹でタコ状態の鈴木くんがそこにいた。

「鈴木くん!大丈夫!?」
「あ、うん。ごめん、女の子にあまり免疫なくて、そろそろ離れてもいい?」
「ごめん!」

 ピョン!と結構距離をあける。その間に若ちんが部屋から出て来た。

 ちょうどわたしと鈴木くんの間にいる状態だ。

「まあ、俺も恋愛ごとは反対しないけどよ。ほどほどにな。じゃあ先に行ってるぞ」

 少しフラフラしながら、若ちんは外に向かって歩いて行った。

 残ったわたしと鈴木くんは、お互い顔を見合わせて。

「僕達も行こうか」
「うん」

 どちらから言うでもなく。何となく自然に手を繋いで、歩き出した。



◇◇◇



 非戦闘組の作業場に行くと。
 速攻、鈴木くんと付き合った事がバレた。

 そりゃ手を繋いでたらバレるよね!
 でも、若ちんに聞かれてたのが恥ずかしくて手を繋いだの無意識だったよ!

 元々昨日の若ちんの起こした事件で訓練は休みだったらしく。みんな自主的に集まって作業をしていたらしい。

 でもわたしと鈴木くんが現れてからは、訓練そっちのけで、恋バナで盛り上がった。勇者一行といっても高校生なので恋愛事情は大好物だ。

「いつからお互い好きだったんだよ!」
「僕は前から…」
「きゃー!田中さんは!?」
「昨日、森で守ってもらった時かな」
「いやーん青春!私も恋したーい!」
「じゃあ、俺なんかどう?」

 その内、わたしと鈴木くんそっちのけで告白大会が始まり。めでたく新たな2組のカップルが誕生したのだった。

 青春!



◇◇◇



 夕飯事には戦闘組にもこの事が伝わり。今までにない位にみんながハシャいでた。

 もちろんいつもみんな明るいけど。ココに来てからはやっぱりしっかりしなきゃ!て雰囲気だったから。

 ココに来る前みたいな、良い意味で本当に緩んだ空気は久しぶりだった。

 わたし達、非戦闘組だけで3組のカップル誕生にみんな大はしゃぎだ!

 その後、実は俺もー、私もー、と続き。更に3組のカップルが誕生したのだった!

 夕飯事の賑やかな雰囲気が落ち着いた頃、若ちんが注目!と大声を出した。

「みんな浮かれるのもいいが、ちょっと現実に戻すぞ!昨日の一件からの続報だ!」

 若ちんは、あの後フラフラしながら王様の所へ行って昨日の一件で話をつけてきたらしい。

 本当に良く出来た先生だ!

 若ちん曰く。王様は、王女様がやらかした事件を深く詫び、王女様やその護衛を離れの宮殿に軟禁したらしい。私達が帰るまでは、絶対そこから出さないと誓ってくれたそうだ。

 元々勇者を王女の婚約者にと考えたのは、王妃様と王女様だったが、昨日の若ちんの壊れスキルと、勇者の性格の冷たさで、キッパリ諦めたそうだ。

 今ではむしろ早く元の世界に帰って欲しいと言ってるらしい。

 そっちが呼び寄せたくせに勝手!

 で、明日からは更なるスキルアップの為、戦闘組は基本外で実践を積む方向でレベルアップを狙うそうだ。

 非戦闘組は引き続き、城内で自分のスキルアップを図る事になった。

 わたしは未だに自分のスキルを使いこなせてないから、戦闘組では足手まといになる。だから非戦闘組に混じるよう言われた。

 夕飯後、部屋に戻ろうとした時に大河がやって来た。

「ちょっといいか?」

 わたしじゃなく、鈴木くんに声をかけた。先に部屋に帰ってていいよ、と言い残して、2人は食堂から連れだって出て行った。



◇◇◇



「あれ?田中さんどうしたの?」

 暫くすると、両手いっぱいに素材を抱えた鈴木くんが帰って来た。

 どうしても気になって、鈴木くんの部屋の前で待っていたのだ。

「大河と何話したのか気になって」

 だって、これまで大河と鈴木くんが話してるとこなんて、見たことないし!なんかわたしの事で言われてないかって気になってしまったのだ。

「あぁ、たいした事じゃないよ」

 鈴木くんは笑って、大河との事を簡単に話してくれた。

「田中さんの事をよろしくって言って、沢山素材を貰ったんだよ」
「え?」

 確かに、鈴木くんの両腕にはいくつもの鉱物類がゴロゴロしていた。

「これで田中さんの身を守る物を作ってあげて欲しいって」
「大河…」
「素敵な幼馴染だね」
「…うん!」

 その後は、何か作って欲しいのある?とか、こういうのが欲しいな、とか。鈴木くんの部屋の前で、とりとめない話をして過ごした。

 帰りは、一旦素材を部屋に置いた鈴木くんが今度はわたしを部屋まで送ってくれた。

 こういうのって、なんか付き合ってるって感じがする!ドキドキ。

 わたしの部屋の前に着いて帰り際。
 鈴木くんがちょっと照れながら言ってきた。

「あ、あのさ。田中さんの事を名前で呼んでいい?」
「いいよ!じゃあ私も鈴木くんを名前で呼んでいい?」

 そこでハタと気づく。

 あれ?鈴木くんの下の名前って何だっけ?

しのぶだよ。鈴木忍すずきしのぶ
「~~~っ。ごめんなさい!」

 大丈夫、何となく気づいてたから、と鈴木くんが笑った。
 
 私本当にクラスのみんなの事を知らなかったんだな。ちょっと反省。

 笑って許してくれる鈴木くん…忍くんの懐の広さに、好感度爆上がりだ。

「じゃあ、あかりちゃん。おやすみ。また明日ね」

 フッと頭に何かが触れたと思ったら、忍くんは踵を返して足早に帰って行った。

 後ろ姿でもその耳が真っ赤になっていて。
 そして気づく。
 頭にキスされた事に。

「ふわぁぁぁ~」

 生まれた年=彼氏いない歴のわたしには、そんな軽いスキンシップも破壊力抜群で。

 ちょっと腰砕けになりながら、部屋に戻った。

 その後、真っ赤な顔したわたしは、菜穂ちゃんとくるみちゃんに色々突っ込まれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

僕は今日から狐の女の子になった

恋愛
「一緒に行こう」とある日の夜、立派な耳と尻尾を持った男に拐われた伊吹。人間も性別もやめちゃうことに!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

処理中です...