もふもふすんすん

まめ

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薬の使い道

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バデスは決意した

アーテルからの呼び出しのタイミングで城から薬を持ち出し、その薬を番い様に使うことを
偽りの中での笑顔は真の幸せとは言えないだろう
番い様の幸せはやはり唯一無二の番いである王の元にあると

揺らぐ決意に惑わされない内に番い様に薬を手渡した

「リア様…、ドドナ…には後から薬を飲ませます。先ずはリア様がお飲み下さい。さぁ、お早く。時間が有りません」

チィは頷き従った

ほわりと温かい光を身体から放ち、それに押されるように黒い霧のような物が散った

「バデスさん…ありがとう。…楽しい記憶も悲しい記憶も私には大切な物だった。愚かな私はそれを手放しかけたのね。でも、貴方のおかげで全て思い出したわ…」
「リア様…」

記憶を取り戻したにも関わらずチィの顔は晴れなかった
「ごめんなさい…」
「何を謝まるのです?」
「ドドナは…貴方のお父様には薬を飲ませることは…出来ないの」
「…理由をお聞きしても…?」

「…カシャバルトのあの黒い嫌な者はドドナだった…。それを手伝ったのは貴方のお父様。記憶の無い私に告げても大丈夫だと思ったのね…。ドドナを実体に留めておかないと、またあの力を使うわ。私はドドナをあの身体に縛り付け、従わせることが出来るの。貴方には辛い…でもこれしか…」
「父は…罪を犯しました。国一つを滅ぼすような罪です。死罪になっても致し方ない罪をです…。これ以上罪を重ねることが無くなるのであれば、私はリア様のどんな決断にも従います」

「ありがとう…。今は貴方のお父様が現れる時間。夜、ドドナとなった時に…私がドドナに命じます。バデスさん、明日の朝迎えに来て下さい。私は逃げないことに決めました。上手くいったら明日、城へ戻ります」

「…かしこまりました。何卒お気をつけ下さい。では、私は離れます。明日の朝、また…」
バデスは頭を下げ出て行った



夜になりクレオンは荒々しく部屋に入って来た

「ドドナ、これ、今日もする?」
ブラシをふりふりと振ってドドナが現れるのを待った

「うっ、ぐっ…リテル、今日も…」
ジャガーに完全獣化したのを見計らいチィは急ぎ言葉を紡いだ

「オルカス!貴方の真名を保有し者として命じます!その身体と真に結び付き、今後逆らう事なく私の命に従いなさい!今後姿を変えることを禁じます!」

ジャガーの姿で時間を止められたようにドドナは動きを止めた

チィはあの黒い嫌な者が罪の無い人々を毒のような物で苦しめたことを頭では分かっていた
だが、常に自分にだけは優しく、ずっと側に居てくれたドドナに対し、ただの重罪人としてだけ処罰することは出来なかった
真名を自らの口で与えるという事は、その者に全てを捧げるということ
トトとの辛い日々から連れ出す為に、あの日チィに真名を与えた

チィは静かにドドナに言った
「オルカス、いいえ、ドドナ…。今までありがとう。貴方は本当は優しい人の筈。残りの生はこの姿で罪なき人を苦しめた罰を受け、今世で生涯を終えましょう…。私が辛い時に貴方は側に居てくれた。伴侶にはなれないけれど、これからずっと貴方の側に居るわ」

動きを止めていたジャガーの頭を優しく撫でた
チィの目から涙が溢れていた

何かを解除されたようにドドナはゆっくりと動き出した
「リテルよ。泣かないでくれ…」
ザラザラとした舌でチィの涙を掬い取るようにドドナは舐めた
「そうか…。我は力を…もう使えぬのだな…。この器の男も今ので人型を取れなくなった。この者の生涯が我の生涯となるのだな…。なに、ずっと続く命には飽きていたところだ。リテルと同じ時を過ごせるならば…、我の望みは叶ったということか…」

その夜チィはずっと泣きながらドドナを撫でていた


ドドナの居ない時にしか現れなかった小鳥達がその日は、朝を知らせるように窓辺に集まった
小鳥達の囀りでチィは目を覚ました

上掛けの布の上で丸まっていたジャガーも目を覚ました
「ドドナ、おはよう」
「我は………そうか…。おはよう、リテル…。この器の男もやっと我となった。未だ必死に抵抗しておるようだがな…」
「うん…」
「我はリテルと共に居られるのならば、何も要らぬ。其方が何度生まれ変わってもずっと共に居ることを願っておった。思っておったのと違う形ではあるが、其方とどこまでもいつまでも共におる。さあ、望む所に参ろう」
「うん…。お城に戻ろうと思う。私の番いの元へ。もう逃げずにちゃんと向き合ってみる。だから…ドドナも一緒に城に行こう」
「ああ、約束だからな。其方の側を離れぬと」

ちょうどその時扉がノックされた

「…父上、宜しいでしょうか?」
「バデスさん…開けても大丈夫よ…」

ジャガーに完全獣化していた父親の顔は穏やかな表情を浮かべていた

「父上…なのですか?」
「ああ、其方の父でありドドナという名を持つ者でもある」
「…そう、ですか…。父上、私は…」
バデスは悔しそうな淋しそうな顔を二人に見せないように下を向いた

「バデスさん…これからお城に戻るわ。でも、その前に小鳥さん達へのお礼に寄りたいお店があるの。連れてってくれる?」

「かしこまりました。馬車を手配致しましょう」



そして屋敷から二人と一匹が馬車に乗り込む姿を、一人の男が目を細め見ていた


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