春を待つ君に

まめ

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莉子がヒィヤルフに来てから一年が経とうとしていた
キーニさん達と住む家の1人が元の世界に戻る日がやってきた

「キーニ、世話になったわね。ここでの生活は楽しかったわ。向こうに戻ってもあなた達のこと、忘れないわ。ありがとう」

住まいの住人達に見守られながら、カシャと言う名の女性はその姿を霞がかかるようにして消えた
初めて莉子は元の世界に戻るところに立ち合い、その光景に何度も目を瞬かせた

「行ったわね…またしばらくは寂しくなるわね。でも…、また新たな住人がやってくるからね。今度はどんな人がやってくるのかしら?」
「キーニさん、楽しみ?」
「そりゃあね。私ここに来てもう二年が経つけど、皆ここに来た戸惑いが落ち着くとキラキラした目をして何かを始めるもの。その変化を間近で見守れるのよ、そんな素敵なこと無いじゃない。リコも人を描く時何か感じるんじゃない?」
「そうですね…。皆さん何かに夢中になってされてる姿はとても美しいです」
「でしょう?、さぁ、見送りも済んだことだし、リコネオのところへ行ってらっしゃい。今日も行くんでしょう?」
「はい!今日はいよいよ椅子の飾り彫りに入るようなので、見逃さないように行ってきます!」
「ふふっ、気をつけて」





工房では真剣な眼差しで飾り彫りに入っているネオが居た
莉子は声を掛けずその姿をスケッチし始めた
背面になる部分に透かし彫りである花を形作り始めた
ネオの姿に夢中になって描いていた莉子はその花が何か気が付かなかった

ふぅーっ、
「これを一面に彫るのかぁ、自分で決めたこととはいえ、どんくらい時間掛かるのかな?参ったな…。あ!リコ!いつの間に…」
サッと腕で花の部分を隠したネオだっだが莉子の絵にはもうすっかりと描かれていた
「ネオ夢中になってたもんね…、ねぇ、今気が付いたんだけど、もしかしなくてもその花って…」

「はぁ、なんだよ、秘密にして驚かせようと思ったのに…、そうだよ、サクラだよ。リコに使ってもらうから、せっかくならリコに馴染みのある花にしようと思ってさ」
「ネオ…、ありがとう。嬉しい!ずっと見てたくて座れないかも…」
「おいおい、そこは使ってくれよ」
「ふふっ、冗談よ。でも出来上がるの楽しみになってきた」
「なんだよ、前は楽しみじゃなかったのか?」
「ううん、前からもだけど、もっとってこと!」
「あれからサクラ見に行けてないから、また行くか?」
「うん!行きたい!」
「なら早速だけど、明日朝イチで迎えに行くな」

ジーンのことがあってから、桜の話すら出来なかったが漸く2人は見に行こうと思えるようになった
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