春を待つ君に

まめ

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桜の木の建物に行くことも出来ず、2人はヒィヤルフの夕陽を眺めていた
ただ黙って眺めていた2人だったが、不意にネオが莉子の両頬に手をやり、親指で涙を拭った
「リコ、泣くな…。きっとジーンさんは元の世界ではない違う世界に幸せを探しに行ったんだ。大丈夫だ、きっと今頃そこに到着してるさ」
知らぬ間に泣いていた莉子はネオに涙を拭われたことで自分が泣いていることに気が付いた

「ネオ…、」
何か話したいのに、何故か涙が止まらなくなってしまった莉子の額にネオは自分の額を付けて諭すように語った

「リコ、泣くということはジーンさんが辛い場所に行ったと思うことと同じだ。ジーンさんのことを思うなら泣き止むんだ。ジーンさんは素敵な場所を探す旅に出たんだ、泣く必要はないだろう?違うか?」
返事の代わりに莉子はゴシゴシと涙を拭って見せた

「そうだ、リコ、もう泣かないんだぞ」
コクンと頷き下唇を少し噛みながらまた夕陽に目を向けた…

莉子の涙が止まったのを見てネオは手を差し出した
「リコ、帰ろう…。明日はずっと工房に居るから、俺を描きに来いよ。な、」
「うん、…ずっとネオを描いててもいい?」
「もちろんさ!」
差し出された手を取り、ネオと莉子は帰路についた



その日莉子はなかなか寝付けることが出来なかった
あの無の空間のことばかりが頭を巡った
その度にネオの優しい囁きが、莉子の心を落ち着かせたのだった…
「ネオ…」



昼ごろに起き出した莉子は昨日のことを思い出して絵を描くことが何故か少し怖くなった
だが、ネオとの約束のため、重い腰を上げ工房に向かった


「リコ、約束守ったんだな、偉いぞ」
「ネオったら…、お兄さんぶって…。…ありがとうね、ネオ。ネオが昨日約束してくれなかったら、何もする気が起きなかった」
「いや、俺もリコと同じさ。リコと約束したおかげで工房で作業する気になったんだから…」
「…作業始める?」
「ああ、しっかり描いてくれよ」
「うん、男前に描いてあげるね」
「ははっ、そりゃ楽しみだ」

ネオは座面の装飾部分に取り掛かり始めた
莉子はその様子を見ながらスケッチを何枚も埋めた
2人はその間、昨日のことを考えず没頭することができた
何時間も過ぎてネオがひと段落着いた時2人はやっと重かった心を癒すことができたのだった
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