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罪
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「おい、ディーノ、今朝からずっと呆っとしてるがまだ昨日の酒が残ってるのか?」
「…いや、大丈夫…だ…」
自分が今何をしているのかも分からない。頭の中は今朝交代の門番から聞かされた自分を訪ねて来た者のことしか無かった。
ー毎日届く手紙にはこちらに訪ねて来るようなことは書かれて居なかった。いや、手紙をいつから開いていない?ここ数日エミーナのことで手一杯だった。だから、手紙を読むことも書くこともしていない。レオーネからの手紙は何通か机に置かれたまま。門番が言ってたのは本当にレオーネなのか?同じ場所に黒子のある者などいくらでも居る。そうだ、巡回中に知り合った誰かだ。きっとそうだ。
だが、愚かな自分の考えを否定する事実は容赦なく自分を責め立てた。
「そういや、昨日、あの男が出てくる前に巻き毛の可愛らしい娘が食堂から出てきたが、その娘も何かされたのか?」
「えっ…」
「酷く青褪めた顔をして出てきたから、あの男、他の娘にも付き纏いしてるんじゃないかと思ったんだが」
ー仮に、仮にレオーネがこちらに来ていたとしても、そんな偶然は無いだろう。あの周辺にはたくさんの食堂がある。ましてあの時、恋人のふりをしてエミーナをこの腕に抱き寄せ…。まさか、違うと言ってくれ。
「まあ、ハイゼット行きの乗り合い馬車に乗ってったようだからこの辺りの娘じゃないだろうな。それなら、あの男とは関係ないか」
その時完全に思考が停止した。
その場にうずくまり、前髪を鷲掴む。
「お、おい…」
相方の声が頭の上でするが、立ち上がることが出来ない。無理矢理身体を立たせられるまで、どのぐらいそうしていたのだろう。力の入らなくなった身体と真っ白になった頭はその後の記憶すら待ち合わせることは無かった。
「念のため、今日は俺が彼女を家まで送り届けるから、お前は休め」
どうやって巡回を終え寮の自室に戻ったのか。相方が部屋の扉を閉める音で漸く自分がどこに居るのか認識した。
ー俺は一体何をした?人助けと言いながら、恋人でも無いエミーナと関係を持ち、俺は…。レオーネ、レオーネは本当にあの場に居合わせたのか?ああ、直ぐにでもレオーネに会わなければ…。だが、会って何を言う?あれは人助けで、恋人のふりをするための演技だったと…。そうだ、レオーネはあの場面しか見ていない。その後のことは…知らないはずだ。誤解だと、誤解なんだと言えば彼女なら解ってくれる。一生黙っていれば彼女を傷つけることも無い。あとひと月もすればここでの任期も終える。ハイゼットに戻れば今まで通りレオーネとは上手くやっていける。
自分の犯したことから目を背け、ただひたすらレオーネに誤魔化すことしか考えていなかった卑怯な自分に、この後神は罰を下す。
「お前に婦女暴行の訴えが出ている。嫌疑が晴れるまで職務を解任扱いとし、身柄を拘束する」
団長に呼び出され告げられた内容に言葉を失った。同僚だった者達に取り押さえられ、罪人と同じ牢に入れられた。訴えを起こしたのはあの日以来顔を合わすことすら無かったエミーナだった…
「…いや、大丈夫…だ…」
自分が今何をしているのかも分からない。頭の中は今朝交代の門番から聞かされた自分を訪ねて来た者のことしか無かった。
ー毎日届く手紙にはこちらに訪ねて来るようなことは書かれて居なかった。いや、手紙をいつから開いていない?ここ数日エミーナのことで手一杯だった。だから、手紙を読むことも書くこともしていない。レオーネからの手紙は何通か机に置かれたまま。門番が言ってたのは本当にレオーネなのか?同じ場所に黒子のある者などいくらでも居る。そうだ、巡回中に知り合った誰かだ。きっとそうだ。
だが、愚かな自分の考えを否定する事実は容赦なく自分を責め立てた。
「そういや、昨日、あの男が出てくる前に巻き毛の可愛らしい娘が食堂から出てきたが、その娘も何かされたのか?」
「えっ…」
「酷く青褪めた顔をして出てきたから、あの男、他の娘にも付き纏いしてるんじゃないかと思ったんだが」
ー仮に、仮にレオーネがこちらに来ていたとしても、そんな偶然は無いだろう。あの周辺にはたくさんの食堂がある。ましてあの時、恋人のふりをしてエミーナをこの腕に抱き寄せ…。まさか、違うと言ってくれ。
「まあ、ハイゼット行きの乗り合い馬車に乗ってったようだからこの辺りの娘じゃないだろうな。それなら、あの男とは関係ないか」
その時完全に思考が停止した。
その場にうずくまり、前髪を鷲掴む。
「お、おい…」
相方の声が頭の上でするが、立ち上がることが出来ない。無理矢理身体を立たせられるまで、どのぐらいそうしていたのだろう。力の入らなくなった身体と真っ白になった頭はその後の記憶すら待ち合わせることは無かった。
「念のため、今日は俺が彼女を家まで送り届けるから、お前は休め」
どうやって巡回を終え寮の自室に戻ったのか。相方が部屋の扉を閉める音で漸く自分がどこに居るのか認識した。
ー俺は一体何をした?人助けと言いながら、恋人でも無いエミーナと関係を持ち、俺は…。レオーネ、レオーネは本当にあの場に居合わせたのか?ああ、直ぐにでもレオーネに会わなければ…。だが、会って何を言う?あれは人助けで、恋人のふりをするための演技だったと…。そうだ、レオーネはあの場面しか見ていない。その後のことは…知らないはずだ。誤解だと、誤解なんだと言えば彼女なら解ってくれる。一生黙っていれば彼女を傷つけることも無い。あとひと月もすればここでの任期も終える。ハイゼットに戻れば今まで通りレオーネとは上手くやっていける。
自分の犯したことから目を背け、ただひたすらレオーネに誤魔化すことしか考えていなかった卑怯な自分に、この後神は罰を下す。
「お前に婦女暴行の訴えが出ている。嫌疑が晴れるまで職務を解任扱いとし、身柄を拘束する」
団長に呼び出され告げられた内容に言葉を失った。同僚だった者達に取り押さえられ、罪人と同じ牢に入れられた。訴えを起こしたのはあの日以来顔を合わすことすら無かったエミーナだった…
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