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釣り竿を持ったキューピッドによる譲渡会

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今日も変わらずスローンはアイリーンの元へ足繁く通ってきていた
バイオレットと打ち合わせ済みのアイリーンは待ち合わせ場所にスローンを誘導した

「アイリーン様、今日の授業で分からないところなどございませんでしたか?僭越ながら、私、スローンがお教え致します」
「いえ、結構です。先生にも飛び級を勧められております故、分からないところなどございませんわ」
「…、で、では、今、私が習っている…
「いい加減になさいまし!アイリーン嬢が嫌がっておいででしょう!」
扇子をビシッとスローンに向けバイオレットが言った

「………バイオレット、嬢?」

扇子越しにチラリとスローンの股間の辺りを見ながらバイオレットは続けた

「貴方、まだ、色々と成長されてないようですねぇ。私が、貴方が成長出来るように躾て差し上げますわ。ほら、着いてらっしゃい!」

ぐいっとスローンの襟元を掴み、引き摺るように寮の方へ連れて行った

「……ふぅ。後はバイオレット様がアドバイス通りにして下されば大丈夫ね」
アイリーンはにこやかに二人の後ろ姿を見送った

その日の夜から、バイオレットの部屋では誰かの罵る言葉と、別な誰かの喜びの雄叫びが聞こえてくるようになった
たまたま前を通りかかり、部屋から出てきたスローンとそれを見送るバイオレットの顔はお互いうっとりしていた
しかもバイオレットの首筋には赤い鬱血痕、スローンの眼鏡は歪んでいた
アイリーンは見てはいけないモノを見てしまったと素知らぬ顔してその場を通り過ぎたのだった


だが、アイリーンの受難はこれだけでは無かった

近衛騎士隊長の息子で脳筋バカのユージーン
筆頭貴族の息子プルート
子爵家ではあるが王国全土で商会を営む会長の息子キャスバン
最後はこの国の第三王子ルミナス
次から次へと目をつけられた

だがその度に適合者を探し、彼等の趣味趣向を教え、譲渡を繰り返した

いつしかアイリーンは釣り竿を持ったキューピッドと嬉しくない二つ名で呼ばれるようになった

アイリーンは釣ってるつもりは無い
向こうから勝手に釣られてくる
そして譲渡というリバースが行われる

他人のエンジョイライフにばかり貢献しているのだった


第三王子ルミナスの譲渡会を無事に終え、それまでの疲れもあり、アイリーンは花壇脇にあるベンチに一人深く腰掛けた
「ふぅ、やっと片付いた。もう、本当に何で次から次へと…それも変態ばっかり…この国には変態しか居ないの?隣の王国に行けばまともな人に出会えるのかしら…?」

「行ってみる?」
突然話しかけてきたのは隣国の王子エイダンだった
「あ、あの、エイダン様…、先程のこと聞かれてました?」
「ふふ、聞こえてきちゃったが正解かな。隣に座っても?」
「ええ…」
アイリーンは気不味さにエイダンから目を逸らした

「アイリーン嬢は私の国に興味があるのかい?」
「あ、その…、この国には、私の思い描く理想の男性が居ないのではと…ですので、クーン王国へ行ってみたいと安易に考えただけで…はしたないですわね。お忘れ下さい」
「いや、どんなきっかけでも、私の母国、クーンに興味を持ってくれるのは嬉しいよ。冗談では無く、一度来て欲しいな。アイリーン嬢なら大歓迎さ」
歓迎するとまで言われ嬉しくなったアイリーンはチラリとエイダンを見た

エイダンは隣国クーンから留学生として一年間滞在している
スラリとした細身の身体で手足は長く、バランスの取れた体型をしていた

脳筋バカのユージーンが剣技の授業を受けてる時、大声で教室のアイリーンを呼んだ事が有った
恥ずかしいから呼ぶな!と二階の窓から睨もうと顔を覗かせた
その時、同じ剣技の授業を受けており、シャツの腕を外し、上半身裸のエイダンが見えた

エイダンの細身ながら程良くついている筋肉、くどさのない爽やかな顔立ち
どれをとっても見た目はアイリーンの好みそのものだった
エイダンを見てフニャリと笑ったつもりのアイリーンだったが、それを自分に向けてくれたと勘違いしたユージーンを喜ばせてしまい、譲渡会をより急いだのは言うまでも無い

そのエイダンが隣に座り歓迎してくれると好意的
アイリーンは嬉しさを隠しきれない様子で、クーン王国について尋ね始めたのだった



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