上 下
4 / 51

4.再開

しおりを挟む
「あら、ステラ、刺繍を刺す手が止まってるわよ。心ここにあらずね。何かあったのかしら?」
「…母様。いえ、何でもないわ。そうだわ、母様糸が足りなくなったから買いに行ってもいいかしら?」

あの日から、ステラは毎日レイのことが頭から離れなかった
バークスやラミア達にレイとの出会いを打ち明け、尚更自分があの騎士レイに心を奪われたことを実感していた
街に行けばまたレイに会えるのではないかと淡い期待をしていた

「侍女に使いを出したら?私は午後からお客様を招いているから付き添えないし…」

「母様、追加する別な色も選びたいの。1人では行動しないし、護衛も1人連れて行くから…ねぇ、母様お願い」

ステラのお願いに折れ、侍女と護衛を付けることと裁縫店以外には行かないことを約束させ、外出の許可を母ヘイリンはしたのだった


「いいこと、必ず直ぐに帰るのよ」
「分かってるわ、母様。では、行って参ります」

ヘイリンは心配気な顔のままステラを見送った





馬車を停め、1本中に入った裁縫店までずっとキョロキョロとしながら歩くステラに侍女は怪訝そうな顔で諌めた
「お嬢様、先程からどうされたんですか?はしたないですよ」

「…何でも無いわ」

そう簡単には会えないかと諦めかけた時、レイ達見回り騎士3人が角を曲がって現れた

「あっ!」
思わず声を出したステラに、おや?という顔でこちらに気が付き騎士達は近付いてきた

「ノアール様、先日は助けていただきありがとうございました」

「ああ、あの時のお嬢様。あの時は本当にすまなかったね。ジャスティン、改めてお嬢様にお詫びを」

レイしか目に入って居なかったが騎士の1人が先日の青年ジャスティンだった
騎士服の首元を少し着崩していたジャスティンはさっと整え、ステラに向き直った

「可愛い花、先日は酔っ払ってすまなかったね。あれからこのレイにこっぴどく説教食らったよ。もう昼に響くほど酒は飲まないことを約束させられてね。身体に血の代わりに酒が流れてるとまで言われてる私が禁酒中さ。ということで、もう安全だから今度お茶でもしないかい?」

さっと、手を差し出したジャスティンの手はバチンという音と共にレイに払われた

「ジャス!いい加減にしないか!まだ反省してかいのか?騎士の恥を晒さないでくれ」

「おいおい、レイ、恥とは酷いな。お前は硬過ぎるんだよ」

戯けてみせたジャスティンにステラはクスクスと笑い出した


「騎士様、先日は本当に怖かったんです。騎士様とお茶はご遠慮しますが、ノアール様には先日のお礼をさせていただきたく思います」

「あちゃあ…ジャスティン、お前損な役割だな。レイに美味しいとこ取りされてるじゃないか」

もう1人居た騎士に揶揄われたレイは顔を赤らめながら
「お嬢様、民の安全を守るのが私達騎士の仕事です。お気になさらず」
と言い踵を返そうとした


「ステラです!ステラ・ロンシェルです!」
慌てて名を告げたステラにレイはコクリと頷いて2人の騎士を掴むようにして行ってしまった

遠くから「ステラちゃんまたね~」とジャスティンがにこやかに手を振っていた



「お嬢様、一体いつ騎士様とお知り合いに?」

「ふふ、ハンナと居る時にね。このことはお母様には秘密よ。心配なさるといけないから。さぁ、ナンシー行くわよ。刺繍糸の色も決まったから、その色を買うだけ。ふふ、早く行きましょう」

「危ないことは無かったんですよね?お嬢様。奥様に報告するようなことは無いんですよね?お嬢様~」

足早に裁縫店に向かったステラを慌てて追いかける侍女だった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

パート妻が職場の同僚に寝取られて

つちのこ
恋愛
27歳の妻が、パート先で上司からセクハラを受けているようだ。 その話を聞いて寝取られに目覚めてしまった主人公は、妻の職場の男に、妻の裸の写真を見せてしまう。 職場で妻は、裸の写真を見た同僚男から好奇の目で見られ、セクハラ専務からも狙われている。 果たして妻は本当に寝取られてしまうのか。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊
恋愛
両親が死別した侑梨はホテルで働いている22歳 侑梨の目的はただ一つ 両親の死に関わる実業家ジーノ・マウロに会い真相を聞くこと 父の元部下の三島櫂 父の会社を買収したジーノ・マウロ 2人の想いが侑梨の運命を回し出す

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

処理中です...