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最終話
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残り二つのガラス窓となった
ー「あいつから逃げてここを出られる方法が見つかったんだ」
「ヴィー…、無理よ…。わたし達二人じゃ…」
わたしの部屋で共に寝台の上で抱きしめ合っている
「信じられないかもしれないけど…、望むように記憶を書き換えることが出来る力を手に入れたんだ」
「…どういうこと…?」
「あいつの記憶を書き換えてエリィに手を出させないようにした。だから、これからはあいつを思うように操って、ここから遠く、誰も知らない所へ行こう…」
「…記憶を…?」
「そうなんだ…」
「…ヴィー、なら、お願いがあるの。本当にそんな力が有るなら、…わたしのあの嫌な記憶を消して…。あの記憶がある限り、そのことが邪魔をして、食事を受け付け無いの知ってるよね…。そのまま死んでしまっても良いと思ってたけど…」
「何を…、…エリィ、僕を…一人にするの?」
「しない、したくない、…だから、…お願いよヴィー、ヴィーと二人で居るためにも、あの記憶を全部、全部消して」
「…そうだね。エリィには楽しい記憶だけで良い。これからも、ずっと…。…エリィ、僕の手を握って…」
「…うん」
ぎゅっと手を握りその手に温かさを感じた後、ヴィンセントはわたしに問いかけた
「エリィ…、エリィは何の授業が好き?」
「…刺繍と礼儀作法…かな…どうして?」
「……そっか。その二つならエリィは楽しく過ごせるんだね。…その時が来るまで、エリィが楽しく過ごせますように」
そう言ってヴィンセントはわたしの額にキスをした
「お休み、エリィ…」
その言葉に誘われるようにわたしは眠りについた
あとに残ったのは一つ…
ー「ちょっと、今このタイミングで誰?メール寄越したの!」
いつの間にか忘れていた向こうのわたしが見える
「え!何、なんで?今日メアド聞かれて無いよね?」
生姜醤油に浸った厚揚げの皿をひっくり返しながら、こちらを見ている
ガラス越しに浮かぶ文字
〈今日は急いでたみたいだから、連絡先を交換するタイミングを逃しちゃった。職場の人に勝手に聞いて連絡してみたんだけど…〉
「えええ!マジ?マジで?春来た?連敗に終止符?…落ち着けわたし…。あ、…ミスった…。メール開くつもりが、変なタイミングでポチッちゃったよ…。ああ、リセットだー!また課金じゃん」
ガラス窓に指が伸びた
ブツッと音を立て最後のガラス窓は真っ暗になった
そしてこの世界は閉ざされた
残ったのは閉ざされた世界で生きるわたし達
わたしは初めからエリザベスだった
思い返してみてもあの人の幼い頃の記憶は無い…
辛い現実を忘れるために見せた空想の世界だったのか
そしてその辛い現実を双子のヴィンセントは一人で請け負いわたしをずっと守ってくれていた
記憶を消してと頼んだのは他でも無い自分だった…
ヴィンセント一人に悪夢を見続けさせて…
眠りから覚めるように瞼を開けば、馬車の中、ヴィンセントの手を握ったままだった
「ヴィー…ごめん、わたしだけ……、ごめん…」
「……エリィ、……?」
少し眩しそうに目を開け、戸惑いの表情をヴィンセントはしていた
「全部、わたしのためだった…。わたしがお願いしたから…」
「思い出して…しまったんだ、ね…。でも…、違うよ…」
まだ、回復していない弱々しい声でヴィンセントはわたしの悔いを否定する
「ずっと一緒に居る…。ヴィーを、ヴィーを幸せにする…。わたしが、…次はわたしの番…」
「エリィ…」
溢れる涙はヴィンセントの頬に落ちていく
ヴィンセントの目にも涙が浮かび、どちらの物か分からなくなった
「愛してるんだ…エリィ。僕の半身…」
「わたしも、…わたしも愛してる…」
横たわるヴィンセントに口付けたのはわたしだった
「ああ、エリィ…。二人で幸せになろう。もうあいつの手は及ばない。あの悪夢は本当に終わったんだ」
「ええ、終わったのね…。ヴィーが終わらせてくれたのね」
そしてヴィンセントとはゆっくりとその身体を起こし、力の限りわたしを強く抱きしめた
到着したわたし達は身を隠すように、森の中に住まいを与えられた
小さな鈴のような可愛らしい花を沢山付けた低木が辺りを囲っている
まるで幻想の世界に居るように
「エリィ、一つになろう…」
寝台の上、お互いその身に何も纏わず互いを求め合う
ゆっくりとわたしの中に挿入ってくる
「元々、わたし達一つだったのね…」
「ああ、エリィ、やっと一つになれたね…」
禁忌の関係という忌避すべき認識は、元の一つになったわたし達には無い
「愛してる、ヴィー…、ずっと一緒よ…」
「愛してる、エリィ…」
わたしの中に収まり安堵の表情を浮かべ、まるで幼な子のようなヴィンセント
ヴィンセントに包まれ安らぎを感じているのはわたしもだった
…………
「手に入れたのか」
「とうの昔にエリィは僕の物ですよ」
「既にお前の手の内にあったというわけか」
「貴方が迂闊にも蜜蝋に国印などを押して寄越したせいで、危ういところでしたけどね」
「それで、エリザベスは何の能力を持っている?」
「エリィは魅了の力を手に入れてました。次から次へと虜にするから、僕は大変でしたけどね」
「お前が見せたのは全て偽の記憶か…」
「…貴方の望む通り、母の代わりにあの国を堕としました。これからはエリィと二人、誰にも邪魔されない暮らしをお約束下さいね。愚かにも近付いて、またエリィの魅了に当てられては困りますからね」
「ああ、約束通り、尖角の塔を用意した。永遠に近い私の命だ。お前達二人が存分にその生を全うするまで、好きに過ごさせてやる」
「ありがとうございます」
ハッセンタイトの王城に続く森の中、アセビが生い茂るその中に、尖角の塔はひっそりと建つ
近付いた者はアセビの毒にやられ、二度と近付こうとはしない
その塔には瓜二つの男女が長くその時を過ごし続けた
その事を知るのはごく僅かな人間のみだった
ー 完 ー
拙い作品を最後までお読みいただきありがとうございました
リクエストをいただきました今作品ですが、とても思い入れのある作品となりました
この場を借りてリクエストして下さったいつも支えて下さる読者様に改めて感謝申し上げます
それにしても自分で言うのも何ですが、相変わらずのネーミングの無さ…
ずっと仄暗い雰囲気の中、日焼け止め、髪染め、西洋風男性の名前、夫人と言えば等々、決して巫山戯てる訳では無いのですが、そのセンスの無さで少しは暗さを緩和出来た…ことにして下さいf^_^;
感想やリクエストいただけると幸いです
(優しめでお願いします)←打たれ弱い
ネーミングアドバイスも欲しい…
それではまた何かの作品で
まめ
ー「あいつから逃げてここを出られる方法が見つかったんだ」
「ヴィー…、無理よ…。わたし達二人じゃ…」
わたしの部屋で共に寝台の上で抱きしめ合っている
「信じられないかもしれないけど…、望むように記憶を書き換えることが出来る力を手に入れたんだ」
「…どういうこと…?」
「あいつの記憶を書き換えてエリィに手を出させないようにした。だから、これからはあいつを思うように操って、ここから遠く、誰も知らない所へ行こう…」
「…記憶を…?」
「そうなんだ…」
「…ヴィー、なら、お願いがあるの。本当にそんな力が有るなら、…わたしのあの嫌な記憶を消して…。あの記憶がある限り、そのことが邪魔をして、食事を受け付け無いの知ってるよね…。そのまま死んでしまっても良いと思ってたけど…」
「何を…、…エリィ、僕を…一人にするの?」
「しない、したくない、…だから、…お願いよヴィー、ヴィーと二人で居るためにも、あの記憶を全部、全部消して」
「…そうだね。エリィには楽しい記憶だけで良い。これからも、ずっと…。…エリィ、僕の手を握って…」
「…うん」
ぎゅっと手を握りその手に温かさを感じた後、ヴィンセントはわたしに問いかけた
「エリィ…、エリィは何の授業が好き?」
「…刺繍と礼儀作法…かな…どうして?」
「……そっか。その二つならエリィは楽しく過ごせるんだね。…その時が来るまで、エリィが楽しく過ごせますように」
そう言ってヴィンセントはわたしの額にキスをした
「お休み、エリィ…」
その言葉に誘われるようにわたしは眠りについた
あとに残ったのは一つ…
ー「ちょっと、今このタイミングで誰?メール寄越したの!」
いつの間にか忘れていた向こうのわたしが見える
「え!何、なんで?今日メアド聞かれて無いよね?」
生姜醤油に浸った厚揚げの皿をひっくり返しながら、こちらを見ている
ガラス越しに浮かぶ文字
〈今日は急いでたみたいだから、連絡先を交換するタイミングを逃しちゃった。職場の人に勝手に聞いて連絡してみたんだけど…〉
「えええ!マジ?マジで?春来た?連敗に終止符?…落ち着けわたし…。あ、…ミスった…。メール開くつもりが、変なタイミングでポチッちゃったよ…。ああ、リセットだー!また課金じゃん」
ガラス窓に指が伸びた
ブツッと音を立て最後のガラス窓は真っ暗になった
そしてこの世界は閉ざされた
残ったのは閉ざされた世界で生きるわたし達
わたしは初めからエリザベスだった
思い返してみてもあの人の幼い頃の記憶は無い…
辛い現実を忘れるために見せた空想の世界だったのか
そしてその辛い現実を双子のヴィンセントは一人で請け負いわたしをずっと守ってくれていた
記憶を消してと頼んだのは他でも無い自分だった…
ヴィンセント一人に悪夢を見続けさせて…
眠りから覚めるように瞼を開けば、馬車の中、ヴィンセントの手を握ったままだった
「ヴィー…ごめん、わたしだけ……、ごめん…」
「……エリィ、……?」
少し眩しそうに目を開け、戸惑いの表情をヴィンセントはしていた
「全部、わたしのためだった…。わたしがお願いしたから…」
「思い出して…しまったんだ、ね…。でも…、違うよ…」
まだ、回復していない弱々しい声でヴィンセントはわたしの悔いを否定する
「ずっと一緒に居る…。ヴィーを、ヴィーを幸せにする…。わたしが、…次はわたしの番…」
「エリィ…」
溢れる涙はヴィンセントの頬に落ちていく
ヴィンセントの目にも涙が浮かび、どちらの物か分からなくなった
「愛してるんだ…エリィ。僕の半身…」
「わたしも、…わたしも愛してる…」
横たわるヴィンセントに口付けたのはわたしだった
「ああ、エリィ…。二人で幸せになろう。もうあいつの手は及ばない。あの悪夢は本当に終わったんだ」
「ええ、終わったのね…。ヴィーが終わらせてくれたのね」
そしてヴィンセントとはゆっくりとその身体を起こし、力の限りわたしを強く抱きしめた
到着したわたし達は身を隠すように、森の中に住まいを与えられた
小さな鈴のような可愛らしい花を沢山付けた低木が辺りを囲っている
まるで幻想の世界に居るように
「エリィ、一つになろう…」
寝台の上、お互いその身に何も纏わず互いを求め合う
ゆっくりとわたしの中に挿入ってくる
「元々、わたし達一つだったのね…」
「ああ、エリィ、やっと一つになれたね…」
禁忌の関係という忌避すべき認識は、元の一つになったわたし達には無い
「愛してる、ヴィー…、ずっと一緒よ…」
「愛してる、エリィ…」
わたしの中に収まり安堵の表情を浮かべ、まるで幼な子のようなヴィンセント
ヴィンセントに包まれ安らぎを感じているのはわたしもだった
…………
「手に入れたのか」
「とうの昔にエリィは僕の物ですよ」
「既にお前の手の内にあったというわけか」
「貴方が迂闊にも蜜蝋に国印などを押して寄越したせいで、危ういところでしたけどね」
「それで、エリザベスは何の能力を持っている?」
「エリィは魅了の力を手に入れてました。次から次へと虜にするから、僕は大変でしたけどね」
「お前が見せたのは全て偽の記憶か…」
「…貴方の望む通り、母の代わりにあの国を堕としました。これからはエリィと二人、誰にも邪魔されない暮らしをお約束下さいね。愚かにも近付いて、またエリィの魅了に当てられては困りますからね」
「ああ、約束通り、尖角の塔を用意した。永遠に近い私の命だ。お前達二人が存分にその生を全うするまで、好きに過ごさせてやる」
「ありがとうございます」
ハッセンタイトの王城に続く森の中、アセビが生い茂るその中に、尖角の塔はひっそりと建つ
近付いた者はアセビの毒にやられ、二度と近付こうとはしない
その塔には瓜二つの男女が長くその時を過ごし続けた
その事を知るのはごく僅かな人間のみだった
ー 完 ー
拙い作品を最後までお読みいただきありがとうございました
リクエストをいただきました今作品ですが、とても思い入れのある作品となりました
この場を借りてリクエストして下さったいつも支えて下さる読者様に改めて感謝申し上げます
それにしても自分で言うのも何ですが、相変わらずのネーミングの無さ…
ずっと仄暗い雰囲気の中、日焼け止め、髪染め、西洋風男性の名前、夫人と言えば等々、決して巫山戯てる訳では無いのですが、そのセンスの無さで少しは暗さを緩和出来た…ことにして下さいf^_^;
感想やリクエストいただけると幸いです
(優しめでお願いします)←打たれ弱い
ネーミングアドバイスも欲しい…
それではまた何かの作品で
まめ
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ババナ様
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こんにちは!
あ、実はあの時もうヤラレてました( ̄▽ ̄)
なので、魅了の能力発揮してました
分かりにくかったですねσ^_^;反省
楽しんで頂けて幸いです
リクエスト、本当にありがとうございました
やっぱり仄暗い作品の方が好き…
場面がさくさくと浮かびました
また、こんなの読みたい!が思い付きましたらリクエスト下さいませ
次作もまた楽しんで頂けるよう頑張ります!
いつも支えて下さって心から感謝です
ババナ様
こんにちは!
昨日何度も書き直してたら寝落ちして投稿出来ず、朝早く目が覚めたのでそのまま書き上げ投稿しました
隠されていた秘密をこの後一気に明かします
本当はタグに近親を入れなきゃ何ですが、ネタバレになるので完結してから入れる予定です
アセビの花言葉のイメージにどこまで沿えるか…
完結までもう少しです
引き続きよろしくお願いします!