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聖堂内は大きな騒めきを残し式は一時中断となった
気を失いその場に倒れたアネッサを国王フィリップが横抱きにし、近衛であるヘンリーを伴いその場を離れた
騒ぎを鎮めるためジェノライドが祭壇前に立ち告げた
「国事にこのような騒ぎになったが、王妃となったアネッサ・ランフォード様は世継ぎを宿しておられる。体調が芳しくない中での成婚の儀であった。皆、配慮願いたい」
「おお!それはめでたい!」
「戴冠と婚儀、そして懐妊とはこれほどめでたいことはない!」
どこかしこから聞こえてくるジェノライドの言葉を後押しする声
それは以前屋敷に訪れていたジェノライドの派閥の者達の声だった
ヴィンセントが誰かに目配せした後、何かを確認するように頷き、わたしの手を握って言った
「エリィ、…着いて来て」
わたし達は戸惑いから祝福の騒めきに取って代わった聖堂を後にした
「…どこに行くの?」
「…これから何が起こっても、僕が何を話しても僕の事だけを信じてくれると約束してくれる?
「…もちろんよ、…ヴィー?」
「…ありがとう」
ヴィンセントに連れられ、辿り着いたのは聖堂の控えの間だった
前に立つ護衛達が入室を阻もうとしたが、継承権を持たずとも王族となったわたし達を止めることは出来ず、わたし達はそのままノックもせず中に入った
「陛下、お話があります」
「ヴィンセント、入室を許可した覚えは無いが」
「不躾なことは承知で申し上げます。陛下はアネッサ嬢がその身に子を宿しているのをご存知ですか。もちろん陛下の子で無いことは、陛下ご自身がお分かりですね」
「子を…」
「あの場で父ジェノライドが公にしました。もちろん陛下の子として」
「……、何故叔父はそのようなことを…。相手は叔父か?」
「前王弟派閥の全ての者が該当する、と言えばお分かりでしょうか。…陛下、ここに居るエリザベスは王太子妃候補に以前名前が上がってましたね」
「ああ、だがその事と何か関係でも?」
「アネッサ嬢は王太子妃の座を狙っておりました。…陛下、陛下はある者を手に入れるために講じた策がございましたね。アネッサ嬢は陛下とある意味似た者同士でした。ただ、違ったのは彼女は実行する前に念願叶い、事に至りませんでしたが…。ですが、エリザベスを貶めようとしたことには変わりありません。彼女は自分の策をその身で受けたまでのこと」
「…どこでそれを知った」
「…陛下もジェノライドと同じように、アネッサ嬢をお飾りの王太子妃にするつもりでしたのなら、何も問題はございませんね」
「答えるつもりは無いという事か。だが、…叔父の派閥の者の子となれば話は別だ。それを理由として王の座を狙ってくる可能性だってある」
「大きな後ろ楯を私が用意すると言ったら?」
「……それはどういう事だ」
「亡くなった母はハッセンタイトの出自でした。長らくこの国との和平調和が整わなかった彼の国が、陛下の後ろ楯になるのです」
「其方達の母はハッセンタイトの…。それが理由で非嫡出子となったのか…ならば尚更のこと、叔父の勢力の後ろ楯になるのではないか」
「いいえ、先日交渉の場に同席した際、母の兄と密約を交わしました。私の望む側に着くと」
「ヴィンセント、…お前は何を望む」
「少しの時間で結構です。母の兄と私達二人、アネッサ嬢と話をさせていただきたいのです。あと、お咎め無くこの国を出ること、この二つを叶えて下されば、他は何も望みません。父の事もアネッサ嬢のことも全て陛下にご判断をお任せします。それと…、ヘンリー殿をどの様にして手に入れたのかも、生涯口外することは無いとお約束致します」
「…選択肢は無いということだな。…式を中断したままだ、長くは無理だぞ」
国王フィリップは、アネッサの横たわる寝台脇から立ち上がり、扉へ向かった
「ヴィ、ヴィー…」
それまで繋いでいた手に力を込めてぎゅっと握り、何かをヴィンセントに問おうとしたが、何から尋ねれば良いのか分からず言葉が続かなかった
扉を開けた所に王族専門医と聖堂で目にした壮年期のヴィンセントが、扉が開くのを待っていたようにその場に居た
「体調も問題無い、お前達は下がってくれ。暫くはこの者達だけにする」
「へ、陛下…」
「国王の私が問題無いと言っているのだ。行くぞ」
扉の外でそんなやり取りがされた後、先程ヴィンセントが言っていた母の兄であろうその人が部屋に入ってきた
「アネッサ、…いえ、母はこちらに…」
こくりと頷き、その人はアネッサの元へ近付いた
「…サラディア、目を覚ませ…」
「う、…ん…、お兄…様…」
その様子を見守りながら、ヴィンセントは私を後ろ背に隠すようにした
「ヴィー…あの…」
わたしの呼び掛けにヴィンセントは安心させるためなのか、優しく微笑み、静かに言った
「エリィ、分からないことだらけだよね…。でもさっき約束したこと覚えてる?」
「ヴィーを…信じるってこと…?」
「そう、エリィ、僕達のどんな秘密を聞かされても、僕だけを信じて…」
「…信じるわ」
「必ず後で説明するから…」
「ええ…」
そして、何も知らなかったわたしは、その理由も何もかもを知ることになった
気を失いその場に倒れたアネッサを国王フィリップが横抱きにし、近衛であるヘンリーを伴いその場を離れた
騒ぎを鎮めるためジェノライドが祭壇前に立ち告げた
「国事にこのような騒ぎになったが、王妃となったアネッサ・ランフォード様は世継ぎを宿しておられる。体調が芳しくない中での成婚の儀であった。皆、配慮願いたい」
「おお!それはめでたい!」
「戴冠と婚儀、そして懐妊とはこれほどめでたいことはない!」
どこかしこから聞こえてくるジェノライドの言葉を後押しする声
それは以前屋敷に訪れていたジェノライドの派閥の者達の声だった
ヴィンセントが誰かに目配せした後、何かを確認するように頷き、わたしの手を握って言った
「エリィ、…着いて来て」
わたし達は戸惑いから祝福の騒めきに取って代わった聖堂を後にした
「…どこに行くの?」
「…これから何が起こっても、僕が何を話しても僕の事だけを信じてくれると約束してくれる?
「…もちろんよ、…ヴィー?」
「…ありがとう」
ヴィンセントに連れられ、辿り着いたのは聖堂の控えの間だった
前に立つ護衛達が入室を阻もうとしたが、継承権を持たずとも王族となったわたし達を止めることは出来ず、わたし達はそのままノックもせず中に入った
「陛下、お話があります」
「ヴィンセント、入室を許可した覚えは無いが」
「不躾なことは承知で申し上げます。陛下はアネッサ嬢がその身に子を宿しているのをご存知ですか。もちろん陛下の子で無いことは、陛下ご自身がお分かりですね」
「子を…」
「あの場で父ジェノライドが公にしました。もちろん陛下の子として」
「……、何故叔父はそのようなことを…。相手は叔父か?」
「前王弟派閥の全ての者が該当する、と言えばお分かりでしょうか。…陛下、ここに居るエリザベスは王太子妃候補に以前名前が上がってましたね」
「ああ、だがその事と何か関係でも?」
「アネッサ嬢は王太子妃の座を狙っておりました。…陛下、陛下はある者を手に入れるために講じた策がございましたね。アネッサ嬢は陛下とある意味似た者同士でした。ただ、違ったのは彼女は実行する前に念願叶い、事に至りませんでしたが…。ですが、エリザベスを貶めようとしたことには変わりありません。彼女は自分の策をその身で受けたまでのこと」
「…どこでそれを知った」
「…陛下もジェノライドと同じように、アネッサ嬢をお飾りの王太子妃にするつもりでしたのなら、何も問題はございませんね」
「答えるつもりは無いという事か。だが、…叔父の派閥の者の子となれば話は別だ。それを理由として王の座を狙ってくる可能性だってある」
「大きな後ろ楯を私が用意すると言ったら?」
「……それはどういう事だ」
「亡くなった母はハッセンタイトの出自でした。長らくこの国との和平調和が整わなかった彼の国が、陛下の後ろ楯になるのです」
「其方達の母はハッセンタイトの…。それが理由で非嫡出子となったのか…ならば尚更のこと、叔父の勢力の後ろ楯になるのではないか」
「いいえ、先日交渉の場に同席した際、母の兄と密約を交わしました。私の望む側に着くと」
「ヴィンセント、…お前は何を望む」
「少しの時間で結構です。母の兄と私達二人、アネッサ嬢と話をさせていただきたいのです。あと、お咎め無くこの国を出ること、この二つを叶えて下されば、他は何も望みません。父の事もアネッサ嬢のことも全て陛下にご判断をお任せします。それと…、ヘンリー殿をどの様にして手に入れたのかも、生涯口外することは無いとお約束致します」
「…選択肢は無いということだな。…式を中断したままだ、長くは無理だぞ」
国王フィリップは、アネッサの横たわる寝台脇から立ち上がり、扉へ向かった
「ヴィ、ヴィー…」
それまで繋いでいた手に力を込めてぎゅっと握り、何かをヴィンセントに問おうとしたが、何から尋ねれば良いのか分からず言葉が続かなかった
扉を開けた所に王族専門医と聖堂で目にした壮年期のヴィンセントが、扉が開くのを待っていたようにその場に居た
「体調も問題無い、お前達は下がってくれ。暫くはこの者達だけにする」
「へ、陛下…」
「国王の私が問題無いと言っているのだ。行くぞ」
扉の外でそんなやり取りがされた後、先程ヴィンセントが言っていた母の兄であろうその人が部屋に入ってきた
「アネッサ、…いえ、母はこちらに…」
こくりと頷き、その人はアネッサの元へ近付いた
「…サラディア、目を覚ませ…」
「う、…ん…、お兄…様…」
その様子を見守りながら、ヴィンセントは私を後ろ背に隠すようにした
「ヴィー…あの…」
わたしの呼び掛けにヴィンセントは安心させるためなのか、優しく微笑み、静かに言った
「エリィ、分からないことだらけだよね…。でもさっき約束したこと覚えてる?」
「ヴィーを…信じるってこと…?」
「そう、エリィ、僕達のどんな秘密を聞かされても、僕だけを信じて…」
「…信じるわ」
「必ず後で説明するから…」
「ええ…」
そして、何も知らなかったわたしは、その理由も何もかもを知ることになった
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