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あの事件は大切な国事を控えていることも有り、事故として扱われた
アネッサはヴィンセントの言った通り、時を待たずして城へ居住を移した
そしてその日を迎え、戴冠式と婚儀に参加するため、わたし達は揃って城へ向かった
「ヴィンセント、エリザベス、今日はお前達の披露目も兼ねている。粗相の無いようにな」
「はい」
馬車が到着し、ヴィンセントのエスコートで降りてみれば、そこには白亜の城
屋敷から出たことも無く、初めての外の世界だ
にも関わらず見覚えのある光景
玉座で杖を掴み王冠を乗せた若き王の姿
っ、スチル!!!…
……スチ、ル…?
何の言葉か分からない単語が頭をよぎった
先に行われる戴冠式はジェノライドのみ参加のため、わたしとヴィンセントは婚儀の執り行われる聖堂で待つことになった
「エリザベス・ランフォード様、アネッサ様がお呼びでらっしゃいます」
席の端側に座っていたわたしに、耳打ちする者が居た
ヴィンセントは来賓の人々と挨拶を交わしていてこちらには気付いてない
式を目前に緊張しているアネッサに会うぐらいなら問題無いだろうと、言伝に来た者の案内に従った
ふと、視線を感じそちらを見ると、人混みの中ちらりと見えたその人は、母、というよりは壮年になったヴィンセントがそこに居たように見えた
良く見ようと足を止めたところで、案内人に先を促されたため、仕方なくその場を後にした
控えの間だろう場所に到着し、案内人は部屋の前で一礼し、去っていった
王太子妃だというのに、見張りの護衛騎士の姿は無い
ノックをし、中からアネッサの返事が聞こえたため、ゆっくりと扉を開けた
そこには…
「ほら、お客様がおみえよ。いつまで味わってるの。もう、よして」
椅子に腰掛けた状態で膝元にはドレスを捲し上げ、中に顔を埋めている男
ゆっくりと顔を離し、口元を拭うようにしてニヤリと卑下た笑みをこちらに向けると、男は部屋を出て行った
ドレスの裾を直しながら、アネッサは蔑むような目をし言った
「前は盗み聞きだったものね。ふふ、良いのよ、この身体がいくら汚れても、エリィが綺麗な身体でいてくれたら。発現してないところを見るとまだ無垢なままでしょう?」
「アン…?」
「ああ、そうね、ヴィンスが消したんだったわ。ずっとそうやってヴィンスに守って貰ってるもの。ふふ、気が変わったわ。今エリィと変わっても良いんだけど、折角だから、もっとこの国を混乱させてからにする」
「貴女、何を…」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、動け無いわたしに近付いて揶揄うような声で囁いた
「無垢なその身体はヴィンスにはあげないでね。その身体は私がお兄様に改めてあげる物だから…」
身体がぞわりとし、これ以上聞きたく無いと反射的に耳を塞いだ
「間もなくお時間です」
扉の外から呼ばれ、アネッサはわたしをその場に残し出て行った
「貴女様も遅れてはなりません。戻りましょう」
先程の案内人が退出を促し、震えながらわたしもその部屋を後にした
聖堂の広間の騒めきが人の多さを物語っている
段々と大きくなるそれに向かいながら、回らない頭で先程目にした光景と、アネッサの言葉を考えた
もやもやと霞が掛かるような思考
進み足の歩幅が小さくなる
「エリィ!!!」
駆け寄って支えてくれたのは、いつもわたしを安心させてくれるはずの手だった
「何処に行ってたの?探したよ」
「アネッサに…呼ばれ…て」
「!!…エリィ…。…今日のアネッサはエリィを何て呼んでた?」
「…エリィって…」
「以前は?」
「…ベス…」
「はぁっ、良かった。エリィ無事だったんだね。何を言われたのか大体想像はつくよ。あの事故からまだ日が経っていない内の成婚の儀だからね…。不安定になることが良くあるって聞いてるし。時間が無いから、とりあえず向かおう」
身体が強張って動けない
「い、いや…」
「…何か僕の想像を超える怖い思いをさせられたんだね…。エリィ、大丈夫だよ、僕の手を取って」
それでも動かないわたしの手を取って軽く握った
霞が頭の中を埋め尽くし、何かの夢を見ていたような感覚になった
「…エリィ、大丈夫?喉が渇いたからって、何も言わずに席を離れたらいけないよ」
「…ええ。ごめんなさい」
「さあ、行こう」
ヴィンセントに手を握られ、二人で席に向かう
得体の知れない胸の不快感が何なのか、わたしには分からなかった
聖堂に静けさが訪れ、先程戴冠式を終え、王位を継承したフィリップが入場した
祭壇の前でアネッサを待つ
国歌の調べと共に扉が開かれ、ウェディングドレスを纏ったアネッサが兄ヘンリーにエスコートされ入り口から続く赤い絨毯を歩き始めた
厳かな式の始まりを止めたのはアネッサだった
誰かに呼ばれたのか足を止め、他国の来賓席に顔を向けた途端、力を失くしたように崩れかけた
隣のヘンリーが機転を効かせさっと掬い上げ、何ごとも無かったように支えながら、王となったフィリップの元へ導いていった
こちらの席からもアネッサが小刻みに震えているのが分かる
聖堂内が騒めき始めたところで、司祭の合図により誓約の言葉を交わし始めた
フィリップ陛下が言葉を述べ終え、アネッサの番になった
なかなか誓いを述べないアネッサ
「……嘘よ、…何かの間違いよ…いや、…いやーーーーー!!!!」
聖堂にアネッサの叫び声が響きその場で彼女は崩れ落ちた
アネッサはヴィンセントの言った通り、時を待たずして城へ居住を移した
そしてその日を迎え、戴冠式と婚儀に参加するため、わたし達は揃って城へ向かった
「ヴィンセント、エリザベス、今日はお前達の披露目も兼ねている。粗相の無いようにな」
「はい」
馬車が到着し、ヴィンセントのエスコートで降りてみれば、そこには白亜の城
屋敷から出たことも無く、初めての外の世界だ
にも関わらず見覚えのある光景
玉座で杖を掴み王冠を乗せた若き王の姿
っ、スチル!!!…
……スチ、ル…?
何の言葉か分からない単語が頭をよぎった
先に行われる戴冠式はジェノライドのみ参加のため、わたしとヴィンセントは婚儀の執り行われる聖堂で待つことになった
「エリザベス・ランフォード様、アネッサ様がお呼びでらっしゃいます」
席の端側に座っていたわたしに、耳打ちする者が居た
ヴィンセントは来賓の人々と挨拶を交わしていてこちらには気付いてない
式を目前に緊張しているアネッサに会うぐらいなら問題無いだろうと、言伝に来た者の案内に従った
ふと、視線を感じそちらを見ると、人混みの中ちらりと見えたその人は、母、というよりは壮年になったヴィンセントがそこに居たように見えた
良く見ようと足を止めたところで、案内人に先を促されたため、仕方なくその場を後にした
控えの間だろう場所に到着し、案内人は部屋の前で一礼し、去っていった
王太子妃だというのに、見張りの護衛騎士の姿は無い
ノックをし、中からアネッサの返事が聞こえたため、ゆっくりと扉を開けた
そこには…
「ほら、お客様がおみえよ。いつまで味わってるの。もう、よして」
椅子に腰掛けた状態で膝元にはドレスを捲し上げ、中に顔を埋めている男
ゆっくりと顔を離し、口元を拭うようにしてニヤリと卑下た笑みをこちらに向けると、男は部屋を出て行った
ドレスの裾を直しながら、アネッサは蔑むような目をし言った
「前は盗み聞きだったものね。ふふ、良いのよ、この身体がいくら汚れても、エリィが綺麗な身体でいてくれたら。発現してないところを見るとまだ無垢なままでしょう?」
「アン…?」
「ああ、そうね、ヴィンスが消したんだったわ。ずっとそうやってヴィンスに守って貰ってるもの。ふふ、気が変わったわ。今エリィと変わっても良いんだけど、折角だから、もっとこの国を混乱させてからにする」
「貴女、何を…」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、動け無いわたしに近付いて揶揄うような声で囁いた
「無垢なその身体はヴィンスにはあげないでね。その身体は私がお兄様に改めてあげる物だから…」
身体がぞわりとし、これ以上聞きたく無いと反射的に耳を塞いだ
「間もなくお時間です」
扉の外から呼ばれ、アネッサはわたしをその場に残し出て行った
「貴女様も遅れてはなりません。戻りましょう」
先程の案内人が退出を促し、震えながらわたしもその部屋を後にした
聖堂の広間の騒めきが人の多さを物語っている
段々と大きくなるそれに向かいながら、回らない頭で先程目にした光景と、アネッサの言葉を考えた
もやもやと霞が掛かるような思考
進み足の歩幅が小さくなる
「エリィ!!!」
駆け寄って支えてくれたのは、いつもわたしを安心させてくれるはずの手だった
「何処に行ってたの?探したよ」
「アネッサに…呼ばれ…て」
「!!…エリィ…。…今日のアネッサはエリィを何て呼んでた?」
「…エリィって…」
「以前は?」
「…ベス…」
「はぁっ、良かった。エリィ無事だったんだね。何を言われたのか大体想像はつくよ。あの事故からまだ日が経っていない内の成婚の儀だからね…。不安定になることが良くあるって聞いてるし。時間が無いから、とりあえず向かおう」
身体が強張って動けない
「い、いや…」
「…何か僕の想像を超える怖い思いをさせられたんだね…。エリィ、大丈夫だよ、僕の手を取って」
それでも動かないわたしの手を取って軽く握った
霞が頭の中を埋め尽くし、何かの夢を見ていたような感覚になった
「…エリィ、大丈夫?喉が渇いたからって、何も言わずに席を離れたらいけないよ」
「…ええ。ごめんなさい」
「さあ、行こう」
ヴィンセントに手を握られ、二人で席に向かう
得体の知れない胸の不快感が何なのか、わたしには分からなかった
聖堂に静けさが訪れ、先程戴冠式を終え、王位を継承したフィリップが入場した
祭壇の前でアネッサを待つ
国歌の調べと共に扉が開かれ、ウェディングドレスを纏ったアネッサが兄ヘンリーにエスコートされ入り口から続く赤い絨毯を歩き始めた
厳かな式の始まりを止めたのはアネッサだった
誰かに呼ばれたのか足を止め、他国の来賓席に顔を向けた途端、力を失くしたように崩れかけた
隣のヘンリーが機転を効かせさっと掬い上げ、何ごとも無かったように支えながら、王となったフィリップの元へ導いていった
こちらの席からもアネッサが小刻みに震えているのが分かる
聖堂内が騒めき始めたところで、司祭の合図により誓約の言葉を交わし始めた
フィリップ陛下が言葉を述べ終え、アネッサの番になった
なかなか誓いを述べないアネッサ
「……嘘よ、…何かの間違いよ…いや、…いやーーーーー!!!!」
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