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ジェノライドからの許可が下り、シエラが専属侍女となった
「洗濯係からメイドになっただけでも大出世だと親が喜んだんですよ、それがお嬢様の専属侍女なんて!ああ、一生分の幸運をここで使い果たしてしまった~!!!」
「ふふふ、シエラ、専属侍女嫌だった?」
「そんな訳有りません!幸せ過ぎて夢じゃないかと思ってるだけです」
着替えを手伝いながら、シエラは声高に言った
「分かったから、そう興奮しないで」
「申し訳有りません…。つい…。ところで、お嬢様、お披露目の際のドレス、どれをお選びになったんですか?」
「二着で迷って、でも、どちらかに絞れなくて、ヴィーに選んでもらったわ。自分も差し色に薄紫が使われてるから、お揃いで同じ色の小花の入ったレースが使われてるのにしようって」
長年、国王陛下は病いを患っていた
ここ最近、体調が回復しつつあるとのことで、先日、国王自らお披露目会を催すことをご提案下さったと伝えられた
「お母様もお二人のお姿をご覧になりたかったでしょうね…」
「…例え今も存命していたとしても…きっと分からなかったと思う」
母は旅立つ前、気が触れて、自分が誰だか分からないほどだった
「…ですが、お嬢様とヴィンセント坊っちゃまのこと、最期まで気に掛けておいででした。ご自身のことは…リタさんだと言い張ってらっしゃいましたが…。お部屋から何度か抜け出し、バンの所に行ってはそう叫んでらっしゃいましたしね…。きっと、ずっとお側に居られなかったことを悔やまれて、側仕えのリタさんになりたいという願望がそうさせてしまったんでしょうね…」
「…そうだと良いわね…」
「も、申し訳有りません。出過ぎたことを申し上げました…」
「…構わないわ。バンには迷惑を掛けていたのね。ちっとも知らなかった」
「…バンも始めは戸惑っていたようですが、あんな感じで何も言わずに気付になるからと、よくお母様の側仕えのメイドに薬草を渡してましたね」
「…そう」
「さぁ、お嬢様、お支度も整いました。お食事の席までご一緒しますね」
ジェノライドとの定例の食事に間に合うようにと、シエラは話を切り上げた
シエラに伴われ、食堂に入れば、先に到着していたジェノライドの横に向かい合う形でアネッサとヴィンセントが座っていた
「揃ったな。今日はアネッサ嬢の都合もついたのでこの場に招いた。お前も会いたがっていたと聞いたのでな」
「はい、お気遣いありがとうございます。アン、久しぶり」
久しぶりにアネッサと顔を合わせることが出来、嬉しく思い声を掛けるも、当のアネッサは顔色が悪く、以前のような覇気も無い
顔はこちらを見ているようだが、その目はわたしではなく、どこか違う所を見ているようだった
「アン…?」
「久しぶりに顔を合わせて話したいこともあるだろうが、先に食事を始める」
「…はい」
運ばれてきた食事を摂りながら、ジェノライドとヴィンセントは途絶えていた隣国との国交についてなどを話し始めていた
その間、ヴィンセントの隣でわたしはアネッサに視線を送り続けた
だが、やはりアネッサとは視線が交わらない
二品目が運ばれてきた時だった
「うっ…」
アネッサがカトラリーから手を離し、口元を押さえた
その様子に気が付いたジェノライドが話を止め、アネッサに向かって言った
「疲れが溜まっているようだな。今日は下がって医者に診てもらうと良い」
指で控えていた家来を呼び、耳元で何かを指示した
「久しぶりの食事会だったが、急用が出来た。私も席を外すが、二人はそのまま食事を摂るように」
ヴィンセントとわたしにそう告げ、メイドに支えられるようにして席を立ったアネッサを伴うようにその場を後にした
結局アネッサとは言葉を交わすどころか、目を合わせることさえ無かった
「アン…」
「エリィ…、久しぶりだったのに、会話も出来ず残念だったね。アネッサ、ずっと授業のスケジュールも詰まってたみたいだから、頑張り過ぎて疲れが溜まっちゃったんだね…」
「まだ、授業は続くのかな…」
「いや、身体を壊してしまっては、元も子もないからね。これで暫くは授業はしないんじゃ無いかな」
「早く良くなると良いな…」
慰めるように少し俯き加減のわたしの頭をヴィンセントはぽんぽんと優しく触れた
本邸での食事を終え、ヴィンセントと二人、別邸へ戻る途中、わたし達を待っていたかのように、バンが木の影から現れた
「エリィ、ちょっと待ってて」
ヴィンセントは足早にバンの元に行き、二言、三言言葉を交わし、何かを受け取って戻ってきた
「バンから何を受け取ったの?」
ヴィンセントの手には蜜蝋の付いた白い封筒が握られている
「ああ、これ?この間、リタの遠縁の人が見つかって、遅くなったけどお悔やみの手紙を送ったんだ。その返事がバンと僕宛てに届いたんだけど、二人の手紙が入れ替わって届いちゃったみたいで、僕宛てのを受け取ったんだ」
「リタって、お母様と同郷なのよね?わたし、それを知ったのも最近で…。今更だけど、お母様のこと何も知らないことに気が付いたの。薄らと記憶に在るのは、同じ部屋でお母様があなたと間違えて、わたしをヴィンスと呼んだことぐらい。自分でも思う…薄情な娘よね」
「…ううん、エリィは薄情なんかじゃ無いよ。荼毘に付される少し前、お母様のあの状態を見て、エリィは倒れてしまうぐらい傷ついていたんだ。そんな優しいエリィを薄情なんて言うのは例えエリィ自身でも、許さないよ」
「ヴィー…。優しいのはヴィーの方だよ。いつも、わたしに寄り添ってくれて、本当に感謝してる」
「僕のたった一人の大切なお姫様だからね」
「ありがとうナイトさま」
そして、その夜もヴィンセントの部屋で過ごすため、部屋を訪れるも、わたしが湯浴みをしている間にヴィンセントはどこかに出掛けたようで、部屋には居なかった
暖炉に火が入っていたため、身体を冷やさないようにと近づくと手前の床に蜜蝋が落ちていた
何となく気になり、拾って印を見ようとしたタイミングでヴィンセントが戻ってきた
疚しい事など何も無いはずなのに、何故かその蜜蝋をヴィンセントに見られないように隠したのだった
「洗濯係からメイドになっただけでも大出世だと親が喜んだんですよ、それがお嬢様の専属侍女なんて!ああ、一生分の幸運をここで使い果たしてしまった~!!!」
「ふふふ、シエラ、専属侍女嫌だった?」
「そんな訳有りません!幸せ過ぎて夢じゃないかと思ってるだけです」
着替えを手伝いながら、シエラは声高に言った
「分かったから、そう興奮しないで」
「申し訳有りません…。つい…。ところで、お嬢様、お披露目の際のドレス、どれをお選びになったんですか?」
「二着で迷って、でも、どちらかに絞れなくて、ヴィーに選んでもらったわ。自分も差し色に薄紫が使われてるから、お揃いで同じ色の小花の入ったレースが使われてるのにしようって」
長年、国王陛下は病いを患っていた
ここ最近、体調が回復しつつあるとのことで、先日、国王自らお披露目会を催すことをご提案下さったと伝えられた
「お母様もお二人のお姿をご覧になりたかったでしょうね…」
「…例え今も存命していたとしても…きっと分からなかったと思う」
母は旅立つ前、気が触れて、自分が誰だか分からないほどだった
「…ですが、お嬢様とヴィンセント坊っちゃまのこと、最期まで気に掛けておいででした。ご自身のことは…リタさんだと言い張ってらっしゃいましたが…。お部屋から何度か抜け出し、バンの所に行ってはそう叫んでらっしゃいましたしね…。きっと、ずっとお側に居られなかったことを悔やまれて、側仕えのリタさんになりたいという願望がそうさせてしまったんでしょうね…」
「…そうだと良いわね…」
「も、申し訳有りません。出過ぎたことを申し上げました…」
「…構わないわ。バンには迷惑を掛けていたのね。ちっとも知らなかった」
「…バンも始めは戸惑っていたようですが、あんな感じで何も言わずに気付になるからと、よくお母様の側仕えのメイドに薬草を渡してましたね」
「…そう」
「さぁ、お嬢様、お支度も整いました。お食事の席までご一緒しますね」
ジェノライドとの定例の食事に間に合うようにと、シエラは話を切り上げた
シエラに伴われ、食堂に入れば、先に到着していたジェノライドの横に向かい合う形でアネッサとヴィンセントが座っていた
「揃ったな。今日はアネッサ嬢の都合もついたのでこの場に招いた。お前も会いたがっていたと聞いたのでな」
「はい、お気遣いありがとうございます。アン、久しぶり」
久しぶりにアネッサと顔を合わせることが出来、嬉しく思い声を掛けるも、当のアネッサは顔色が悪く、以前のような覇気も無い
顔はこちらを見ているようだが、その目はわたしではなく、どこか違う所を見ているようだった
「アン…?」
「久しぶりに顔を合わせて話したいこともあるだろうが、先に食事を始める」
「…はい」
運ばれてきた食事を摂りながら、ジェノライドとヴィンセントは途絶えていた隣国との国交についてなどを話し始めていた
その間、ヴィンセントの隣でわたしはアネッサに視線を送り続けた
だが、やはりアネッサとは視線が交わらない
二品目が運ばれてきた時だった
「うっ…」
アネッサがカトラリーから手を離し、口元を押さえた
その様子に気が付いたジェノライドが話を止め、アネッサに向かって言った
「疲れが溜まっているようだな。今日は下がって医者に診てもらうと良い」
指で控えていた家来を呼び、耳元で何かを指示した
「久しぶりの食事会だったが、急用が出来た。私も席を外すが、二人はそのまま食事を摂るように」
ヴィンセントとわたしにそう告げ、メイドに支えられるようにして席を立ったアネッサを伴うようにその場を後にした
結局アネッサとは言葉を交わすどころか、目を合わせることさえ無かった
「アン…」
「エリィ…、久しぶりだったのに、会話も出来ず残念だったね。アネッサ、ずっと授業のスケジュールも詰まってたみたいだから、頑張り過ぎて疲れが溜まっちゃったんだね…」
「まだ、授業は続くのかな…」
「いや、身体を壊してしまっては、元も子もないからね。これで暫くは授業はしないんじゃ無いかな」
「早く良くなると良いな…」
慰めるように少し俯き加減のわたしの頭をヴィンセントはぽんぽんと優しく触れた
本邸での食事を終え、ヴィンセントと二人、別邸へ戻る途中、わたし達を待っていたかのように、バンが木の影から現れた
「エリィ、ちょっと待ってて」
ヴィンセントは足早にバンの元に行き、二言、三言言葉を交わし、何かを受け取って戻ってきた
「バンから何を受け取ったの?」
ヴィンセントの手には蜜蝋の付いた白い封筒が握られている
「ああ、これ?この間、リタの遠縁の人が見つかって、遅くなったけどお悔やみの手紙を送ったんだ。その返事がバンと僕宛てに届いたんだけど、二人の手紙が入れ替わって届いちゃったみたいで、僕宛てのを受け取ったんだ」
「リタって、お母様と同郷なのよね?わたし、それを知ったのも最近で…。今更だけど、お母様のこと何も知らないことに気が付いたの。薄らと記憶に在るのは、同じ部屋でお母様があなたと間違えて、わたしをヴィンスと呼んだことぐらい。自分でも思う…薄情な娘よね」
「…ううん、エリィは薄情なんかじゃ無いよ。荼毘に付される少し前、お母様のあの状態を見て、エリィは倒れてしまうぐらい傷ついていたんだ。そんな優しいエリィを薄情なんて言うのは例えエリィ自身でも、許さないよ」
「ヴィー…。優しいのはヴィーの方だよ。いつも、わたしに寄り添ってくれて、本当に感謝してる」
「僕のたった一人の大切なお姫様だからね」
「ありがとうナイトさま」
そして、その夜もヴィンセントの部屋で過ごすため、部屋を訪れるも、わたしが湯浴みをしている間にヴィンセントはどこかに出掛けたようで、部屋には居なかった
暖炉に火が入っていたため、身体を冷やさないようにと近づくと手前の床に蜜蝋が落ちていた
何となく気になり、拾って印を見ようとしたタイミングでヴィンセントが戻ってきた
疚しい事など何も無いはずなのに、何故かその蜜蝋をヴィンセントに見られないように隠したのだった
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