混濁の中に咲くアセビ

まめ

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午前中の使用人達にとって忙しい時間にも関わらず、本邸は静まりかえっていた

男達に得体の知れない恐怖を感じるも、その後を追ってしまう

玄関ホールから右手に進んだ所にある、多目的に使用される大広間に三人は入っていった

演奏者などが使用するカーテンで仕切られた、所謂控え室にあたる続きの部屋に、男達に気付かれないように広間とは別な入り口から入った


「まだ眠っていますね」

「あれだけの観客に見守られ初舞台を務めたんですからね。その後観客全員を相手にしていれば致し方ないのでは?」

「上手いこと言いますな。それになぞらえて…。第二幕を始めてもらいますか」

「では、早速持ってきたこちらを…。ほら、起きろ」

「……い、嫌…」

「まだ己の立場を理解して無いのか?」

「…来ないで…」

「つべこべ言わずこちらを飲め。嫌な事は忘れ、善い夢だけ見られるぞ」

「ははっ、善い夢を見られるのは我々もですがね」

「ん、んぐっ、けほっ、けほっ」

「全部飲んだな。では、今日は私から…」

………

「ンッ、ああっ…」

「ああ、…絡みついてきますよ」

「い、いや、…やめて…、ンッンッ」

「こちらから良く見えるように、もっと脚を持ち上げてくれませんか」

「ん、そうです、な…。ああ、若いというのは…なんとも…」

「昨日の今日で、すっかり善い顔になってきてますね」

「ああ、私も待ちきれなくなりました。前を使わせてもらっても?」

「では、私はその柔肌を堪能させていただきます」

「アアッ、ンッ、アッ、…」

「ほら、次はこれを挿入れてやるから、味見してみろ」

「もう、うっとりして、きましたね…。薬の効きも、良いようで…」

肌をぶつけ合うような音

思考が停止し自分で自分の身体の機能を停止してしまったのか石のように固く動かせない
胸元を握り締めた拳だけがカタカタと震えている

ー!!!っ

「お嬢様、盗み聞きはご令嬢のすることではありませんよ…」

耳元で囁いたその声はミネルバ夫人だった





ーハッ

「ん~、エリィ、寒いから掛布動かさないで…」

「…ヴィー…、ご、ごめん…」

隣でわたしを抱き枕のようにしているヴィンセントの腕の中で体勢からによるものだけでない、息苦しさを感じた

あれ…、寝台…

「ヴィー、…あなたいつ戻って来たの?」

「え~、昨日?…遅くまで政務の手伝いさせられて、戻ってこれたのは…日付が変わった頃かなぁ…。今日は午前中休んで良いって、言われてるから、もう少し寝かせて…」

「う、うん……。でも、わたし自分の部屋に戻るね…」

ヴィンセントにそう告げて、絡みついていた腕を外し、身体を起こそうとした
その時脚の付け根からトロリと伝う物が有り、下半身に鈍い痛みを感じた

「あっ、……。ヴィー、ヴィー、ごめん、起きて」

「どうしたの…エリィ…?」

目を擦りながら、だが、また目を閉じれば眠ってしまいそうなヴィンセントがこちらを見た

「あの…ヴィーの寝台を汚してしまったかもしれないの…、だから…」

「ん?…ああ、ごめん、分かった。…シエラを呼んでくるね…。身体は大丈夫?」

「う、うん…。ヴィーの寝台なのにごめんね」

「気にしないで…」

ヴィンセントはゆっくり起き上がると、恥ずかしそうにしているわたしの頭を撫でて、寝着の上にガウンを羽織り、まだ眠気の残っている顔で部屋を後にした

月のものでヴィンセントの寝台を汚してしまうなんて…
不定期な月のものの訪れで油断してしまった
察してくれて、さらには労ってくれるヴィンセントに、より申し訳無さを感じる

…はぁ…、何やってるんだろう…

昨日アネッサに会えなくて、ヴィンセントとも一緒に夕食を食べられ無かったからって…

いつまでも小さな頃のように、ヴィンセントの寝台で寝てしまうのはもうやめよう


間もなくして呼ばれたシエラがやって来て、手慣れた手つきで着替えを手伝い、一瞬怪訝そうな顔をして寝台の敷布を回収していった
この年齢で未だヴィンセントのところで眠ったことに本当は苦言を呈したいのだろう
だが、何も言わずにいてくれた


下腹部と腰に重い痛みを感じたので、その日は部屋で休むことになった

アネッサは今日の授業始まったのかな…
…アネッサ…、
あれ…
わたし…何か…アネッサのこと…
何か、…

アネッサに関する何か大事なことを忘れているような気がした

昨日の夢でアネッサを…
あれ、どんな夢だったっけ…

あまり良い夢では無かったような気がする
月のものの始まりで身体の怠さから、嫌な夢でも見たのだろうか

部屋でぼうっと一人そんな事を思っている時、ヴィンセントが心配して来てくれた

「エリィ、どう?昼食は食べられそう?」

「うん…。ありがとう、ヴィー。ごめんね、その…」

言い淀むわたしを遮るように優しくヴィンセントは言った

「ああ、いいよ、気にしなくて。それより、身体の調子はどう?辛くない?」

元より、双子のわたしを心配し過ぎるヴィンセント
母が儚くなってからというもの、さらに過保護になった気がする
忌避される月のものですらこれだ

「いつもより、身体は怠いけど、大丈夫よ」

「なら、ここに食事を運んでもらって、一緒に食べようか?昨日の夕食は一緒に食べられ無かったからね」

「うん、そうしてくれると嬉しい。…ところで、アネッサは…?」

「今日は午後からジェノライド様の側近の方の授業らしいよ。王弟派閥の人達が順番で授業をするらしいけど、大変そうだよね」

「今日は授業が終わったら会えるかな…?昨日は何も言わずにお昼過ぎに帰ってしまったから…」

「こっちに寄ってもらうように言っておくよ。だからそれまでゆっくり身体を休めて」

「うん、そうする」

「じゃあ、昼食のことシエラに言ってくる。待ってて」



だが、他の仕事でも任されたのだろうか
昼食を運んできたのはシエラではなく別の者だった










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