混濁の中に咲くアセビ

まめ

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カインズ家の、小ぶりだが黒塗りに優美な曲線の馬車が迎えに来た

以前からヘンリーに、同じ歳の妹と友人になって欲しいと頼まれていた
頼まれたからだけでは無い
リタに焼き菓子を用意してもらい、籠にリボンをかけ、久しぶり…エリザベスとしては初の女子会にワクワクしていたのだ

馬車から降り、わたしを待っていてくれたヘンリーは、いつも通り少し軽めの口調ながら、お礼を述べ、エスコートの手を差し出してくれた

大人びたスマートさを見せられあのスチルがよぎる

二人で馬車に乗り込み、妹も今日を待ち侘びていたと聞かされ、思わず口角が上がった


そして会話を楽しんでいる時に、ガタンと車輪でも外れたような大きな音と衝撃があり、馬車が止まった
向かいに座っていたヘンリーがコンと小窓を叩き御者の返事を待つが何の返事も無い
訝しんだ彼が口に人差し指を立てた後、そっと馬車の扉を開けた
同時に武骨な腕が伸び、彼を馬車から勢い良く引き摺り出した

一瞬の出来事だった

驚いてる間もなくわたしの首に何かを当てられ、馬車の外で倒れていたヘンリーに、姿は確認出来ないが、低く濁った声で男が一言掛けた

「動くなよ、兄ちゃん。お嬢ちゃんに傷を付けたくなかったら、腰の物を寄越せ」


………


気を失っていたのだろうか
手足を拘束され、目隠しと同じように口も塞がれていた
肌に当たる空気と声の響き方から室内だということだけが辛うじて分かった


「おい、娼館の女達にいつもやらせてることをこいつにもしてやれ。いきなり突っ込んでも面白く無いからな」

「えぇ!?男を悦ばせるなんて嫌ですよ」

「お前らもヤッてみれば分かる。女とはまた違う良さが愉しめるぞ」

「へい、へい。俺はあっちの子供の方がまだ良いんですがね」

「つべこべ言わずに早くやれ」

ゴソゴソと身動ぎをする音とくぐもった声で、誰かの言葉にならない声が会話の合間に聞こえる

「お、立派なモン持ってやがるぜ」

「お前いつもそうやって貰ってんのか」

「うるせぇ、お前だって同じだろ!」

「お前も見てないで手伝ってやれ」

「へーい」

ピチャピチャ、ジュポジュポと音がする

「こいつ、目隠しされてるとはいえ、男に弄られておっ立て始めたぜ」

「後ろの穴もきちんとほぐせよ」

「もう、二本も咥えてますよ。三本いけるんじゃないっすかね」

「お、イキますぜ、こいつ」

「イカせるなよ。ほら、どけ」

「出た、娼婦泣かせのイチモツ!」

「ンンッーーーーー、!!!」

「おら、暴れんな!女じゃなくても、初モンは締まりが良いな。ほら咥えて離さねぇ。一気に奥まで挿入れるぞ」

「ンッ、ンンッ!ンン!ンッーー」

「なんだ、後ろでイキやがったのか!とんだ野郎だぜ」




「お頭、お、俺も早くヤリてぇ」

「んっ、ぐっ…。俺ので挿入れやすく、しといたからな。存分に愉しめ。ほら、交代だ」

「次は俺だ」

「お、お、こりゃあ、お頭の言う通りだぜ。女とはまた違う良さだ。腰が止まんねえ」

「おい、お前早く終わらせて代われよ。後ろにあと四人も控えてんだからな!」


視界を遮られ必然的に聴覚に意識がいく
塞ぎたいのにその手は後ろに縛られたまま
会話の内容と聞こえてくる音
出来たのは、目隠しの布の中でぎゅっと目を閉じることだけだった



………



薄明かりが目に差し込み目を開けた

「起きたか」

「ジェノライド…様…」

「ああ、まだ寝ていろ」

「あの、わたし…」

「もう、大丈夫だ」

頬に貼り付くようにあった髪を横に優しく撫で付け、そのまま頬に手を添えた

「ここに居れば安全だ。何も心配は要らない。リタ、額の手巾を変えてやってくれ」

「かしこまりました」

リタと入れ替わり、こちらを心配そうに見ているヴィンセントの肩をポンと叩いた

「無事目が覚めたんだ、明日の式典のためにもう寝るように」

「…はい」

そう告げるとジェノライドは部屋を後にした

「ヴィー…、あの…カインズ様は…」

「……騎士団の任命式には、繰り上げでミネルバ夫人のご子息が参加されることになったよ…。明日エリィの代わりに僕が参加する。エリィはゆっくり休んでて…」

こちらに近付くことも無く、それだけ告げ、ヴィンセントも部屋を出ていった

「お嬢様…ご無事で何よりです。さあ、今はまだ眠る時間です。明日また起きられてからにしましょう…」

リタもわたしに何か訊かれる前にそう言った


暫くは無かったあの頭の痛みがじわじわと始まり、何も考えられなくなったわたしは、再び目を閉じた


………


あの事を何も聞けないまま、あれから一週間が過ぎた
何事も無かったように授業も再開され、今日は礼儀作法の授業が行われる日だった

部屋の外でミネルバ夫人の声がした

「おかげさまで、無事に入団出来ましたわ。…ええ、本人の希望を叶えてやれて私共も満足しております」

会話の相手の声は聞こえなかったが恐らくジェノライドだろう

甥であるヘンリーは
あの時にわたしが聞かされていたのは
繰り下げになったのは
可愛いがっていたんじゃ無いの

わたしだけが無事だったの
ヘンリーだけが襲われたの

ぎゅっと皺になるほどスカートを掴んだ

ノックがされ夫人が部屋に入ってきた
いつも通りの表情で

本当に何も無かったように…







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