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再開された最初の授業は礼儀作法だった
先生として前王妃のご実家からミネルバ夫人が以前と同様来て下さった
夫人は濃いブラウンヘアの眉目秀麗な間もなく成人を迎える頃の青年を伴っていた
「またお教えすることができて私も嬉しく思います。本日は久しぶりということも有りますので、趣向を変えて、ダンスの授業と致します。暇を持て余していた甥もちょうどおりましたので」
「叔母上、暇人扱いは酷いですね。…失礼、ご挨拶が遅れました。カインズ家次男のヘンリーと申します。僭越ながら、ダンスのお相手をさせていただきますね」
爵位の無いわたしに対して紳士的に接することも相まって、思わず見とれてしまった
「は、初めまして。エリザベスと申します。よろしくお願い致します」
慌ててドレスを摘み礼を取った
「エリザベス嬢は私の妹と同じ歳ですが、落ち着いてらっしゃいますね」
「ミネルバ夫人の教えのおかけです」
ふふっとヘンリーは笑いながら手を差し出した
夫人が得意だというピアノを弾き始め、ワルツの基本ステップを教わった
あちらでも運動は好きで、専門学校からの友達に誘われて、働き始めてから月に二度ほどベリーダンスを習いに通っていた
ダンスのジャンルは違えど、曲に合わせて体を動かす時間は純粋に楽しむことが出来た
「姿勢もぶれず、初めてでここまで踊れる方はなかなかいませんよ」
「叔母上、パートナーのセリフを奪うのはいかがなものかと」
どうやら及第点を貰えたようだ
二人のやり取りを見ながら、ふと思ったことを尋ねてみた
「カインズ様は騎士を目指してらっしゃるんですか?」
「ああ、触れ心地の悪い手で分かってしまったかな。成人を迎えたら、白鷲の騎士団に入団が決まったところ」
掌がペンを握るようなものとは違い、固さが有り、たこが出来ていた
ふと、照れ臭そうに微笑んだ彼の顔を見てはっとなった
………"筋肉祭り"!!!!!
プレスチルの中に青地に白鷲の紋章の入った旗を背景に、ブラウンヘアの青年の横顔が
有った、確かに有った
エリザベスとしてそこは留めたが、心の中ではうひょ~とこの授業では絶対口に出来ない雄叫びを上げていた
少しだけによによとしてしまったのは許して欲しい
そんなわたしを見て彼は言った
「良ければ任命式を見に来てくれる?」
「そんな大切な式に、家族でも無いわたしが行くわけにはいきません」
是非!
とは言えず、開いた両手をぶんぶんと左右に振った
「あら、家族以外にも友人も招待出来るから問題無いのですよ。都合が良ければ、最初で最後かもしれないこれの晴れ舞台を見に行って下さりません?」
「礼儀作法の教師に似つかわしく無い発言を有難うございます。というこで、エリザベス嬢、招待状を送らせてもらうね」
そして久しぶりに養父との夕食の席が設けられ、夫人とヘンリーもその場に招待された
「ご無沙汰しております。エリザベス嬢の授業再開にあたり、以前同様、私をご指名いただき、感謝申し上げます」
「夫人、そう畏まるな。食の席を楽しもう」
「勿体無いお言葉ありがとうございます」
食事の席での話題はやはり今日の授業のことだった
少し得意気に夫人はわたしのダンスの腕前を褒めちぎってくれた
褒められることに慣れていない
何だかむず痒さを感じた
「貴重な休日にエリザベスのダンスに付き合ってもらい、感謝する」
「いえ、可愛らしいお嬢様の、初のパートナーという栄誉を得られたこと光栄に思います」
「君は白鷲騎士団だったか。君の任命式には私も参加することになっている」
「はい、ちょうどその任命式のことで、殿下にお願いが有ります。エリザベス嬢に招待状をお送りしたいので、ご許可を頂けますか?」
「ああ、公の場に少しずつ慣れていくことも大切だからな。許可しよう。式まではまだ日がある、訓練で怪我などして、晴れ舞台に参加出来ないようなことの無いように注意したまえよ」
今まで、母を含め、わたしとヴィンセントを外出させないようにしていたことが嘘のように、あっさりと許可を下した
「本当に行ってもよろしいのですか?」
「ああ、勿論だ」
にこりといつもの優しい顔で養父は頷いた
その日の夜、いつものおやすみの挨拶をしにヴィンセントがやって来た
寝そべっているわたしの寝台に腰掛け、少し会話をした後、額にキスをお互いに交わすのが決まりのようになっている
「ヴィー…どうしたの?今日は、ヴィー剣術の授業だったよね?大変だった?」
なかなか口を開かず少し顔色の悪いヴィンセントが気になった
「……エリィ、あのカインズ様とあまり親しくしない方が良いよ」
「なぜ?カインズ様はとても優しくて素敵な人だよ」
「……そう思うなら、なおさら…」
ヴィンセントはそれだけ言うと急ぐように額にキスし、わたしのお返しを待たずに、すっと部屋を出て行ってしまった
何かに怯えたり、機嫌が良くなったりを繰り返す
これまで互いしか居なかった、わたし達の関係に他の人が関わってくることに妬いたのか
双子としては兄だが、あちらの年齢基準だと弟だ
そのヤキモチが可愛らしく思えた
それからも何度か休みの日が合えば、ヘンリーはダンスレッスンのパートナー役を買って出てくれた
一通りのジャンルのダンスの基礎をマスターした頃、ヘンリーから妹の話し相手として屋敷に招待された
それは彼の任命式の二週間前、訓練生として最後の休みの日だった
先生として前王妃のご実家からミネルバ夫人が以前と同様来て下さった
夫人は濃いブラウンヘアの眉目秀麗な間もなく成人を迎える頃の青年を伴っていた
「またお教えすることができて私も嬉しく思います。本日は久しぶりということも有りますので、趣向を変えて、ダンスの授業と致します。暇を持て余していた甥もちょうどおりましたので」
「叔母上、暇人扱いは酷いですね。…失礼、ご挨拶が遅れました。カインズ家次男のヘンリーと申します。僭越ながら、ダンスのお相手をさせていただきますね」
爵位の無いわたしに対して紳士的に接することも相まって、思わず見とれてしまった
「は、初めまして。エリザベスと申します。よろしくお願い致します」
慌ててドレスを摘み礼を取った
「エリザベス嬢は私の妹と同じ歳ですが、落ち着いてらっしゃいますね」
「ミネルバ夫人の教えのおかけです」
ふふっとヘンリーは笑いながら手を差し出した
夫人が得意だというピアノを弾き始め、ワルツの基本ステップを教わった
あちらでも運動は好きで、専門学校からの友達に誘われて、働き始めてから月に二度ほどベリーダンスを習いに通っていた
ダンスのジャンルは違えど、曲に合わせて体を動かす時間は純粋に楽しむことが出来た
「姿勢もぶれず、初めてでここまで踊れる方はなかなかいませんよ」
「叔母上、パートナーのセリフを奪うのはいかがなものかと」
どうやら及第点を貰えたようだ
二人のやり取りを見ながら、ふと思ったことを尋ねてみた
「カインズ様は騎士を目指してらっしゃるんですか?」
「ああ、触れ心地の悪い手で分かってしまったかな。成人を迎えたら、白鷲の騎士団に入団が決まったところ」
掌がペンを握るようなものとは違い、固さが有り、たこが出来ていた
ふと、照れ臭そうに微笑んだ彼の顔を見てはっとなった
………"筋肉祭り"!!!!!
プレスチルの中に青地に白鷲の紋章の入った旗を背景に、ブラウンヘアの青年の横顔が
有った、確かに有った
エリザベスとしてそこは留めたが、心の中ではうひょ~とこの授業では絶対口に出来ない雄叫びを上げていた
少しだけによによとしてしまったのは許して欲しい
そんなわたしを見て彼は言った
「良ければ任命式を見に来てくれる?」
「そんな大切な式に、家族でも無いわたしが行くわけにはいきません」
是非!
とは言えず、開いた両手をぶんぶんと左右に振った
「あら、家族以外にも友人も招待出来るから問題無いのですよ。都合が良ければ、最初で最後かもしれないこれの晴れ舞台を見に行って下さりません?」
「礼儀作法の教師に似つかわしく無い発言を有難うございます。というこで、エリザベス嬢、招待状を送らせてもらうね」
そして久しぶりに養父との夕食の席が設けられ、夫人とヘンリーもその場に招待された
「ご無沙汰しております。エリザベス嬢の授業再開にあたり、以前同様、私をご指名いただき、感謝申し上げます」
「夫人、そう畏まるな。食の席を楽しもう」
「勿体無いお言葉ありがとうございます」
食事の席での話題はやはり今日の授業のことだった
少し得意気に夫人はわたしのダンスの腕前を褒めちぎってくれた
褒められることに慣れていない
何だかむず痒さを感じた
「貴重な休日にエリザベスのダンスに付き合ってもらい、感謝する」
「いえ、可愛らしいお嬢様の、初のパートナーという栄誉を得られたこと光栄に思います」
「君は白鷲騎士団だったか。君の任命式には私も参加することになっている」
「はい、ちょうどその任命式のことで、殿下にお願いが有ります。エリザベス嬢に招待状をお送りしたいので、ご許可を頂けますか?」
「ああ、公の場に少しずつ慣れていくことも大切だからな。許可しよう。式まではまだ日がある、訓練で怪我などして、晴れ舞台に参加出来ないようなことの無いように注意したまえよ」
今まで、母を含め、わたしとヴィンセントを外出させないようにしていたことが嘘のように、あっさりと許可を下した
「本当に行ってもよろしいのですか?」
「ああ、勿論だ」
にこりといつもの優しい顔で養父は頷いた
その日の夜、いつものおやすみの挨拶をしにヴィンセントがやって来た
寝そべっているわたしの寝台に腰掛け、少し会話をした後、額にキスをお互いに交わすのが決まりのようになっている
「ヴィー…どうしたの?今日は、ヴィー剣術の授業だったよね?大変だった?」
なかなか口を開かず少し顔色の悪いヴィンセントが気になった
「……エリィ、あのカインズ様とあまり親しくしない方が良いよ」
「なぜ?カインズ様はとても優しくて素敵な人だよ」
「……そう思うなら、なおさら…」
ヴィンセントはそれだけ言うと急ぐように額にキスし、わたしのお返しを待たずに、すっと部屋を出て行ってしまった
何かに怯えたり、機嫌が良くなったりを繰り返す
これまで互いしか居なかった、わたし達の関係に他の人が関わってくることに妬いたのか
双子としては兄だが、あちらの年齢基準だと弟だ
そのヤキモチが可愛らしく思えた
それからも何度か休みの日が合えば、ヘンリーはダンスレッスンのパートナー役を買って出てくれた
一通りのジャンルのダンスの基礎をマスターした頃、ヘンリーから妹の話し相手として屋敷に招待された
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