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ジェミニのミス
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ジェミニはこれまでのことを思い返していた。
ーーーーー
新たに工房で働き出したその人は、今の工房は勿論、王都などでも名のあるデザイナーの専属針子でしか携わることの出来ない仕事を、以前はしていたことがあると言い、こちらでも、度々話を貰って請け負っていたが、子供が小さくそう頻繁に泊まり込みでの作業は出来なくなり、通いで済む工房で働き出した。
だが、今回はどうしてもと頼まれ困っている、と相談してきた。
リオベルのデザイン盗用騒ぎで、後をつけるような真似までしたが、実は勘違いだったと知り、技術不足の自分でも代わりになれるのかと、お詫びの意味も込めて申し出たところ、秘匿を厳守することと、暫く泊まり込みで作業が出来るなら問題無いと、その申し出をその人は喜んだ。
泊まり込み程度で済むとその時は思っていた。
「君、これはどういうことだ!」
徹底的に秘匿を貫くために、それぞれの部屋に別れての作業をするのだと言われ、ジェミニはパタンナーが起こした型紙から型取りをする仕事をしていた。
いくつかの布巻きが予め用意されていたため、指示通りに型取りをした筈だった。
間違えないよう、手触りでも布を覚えて。
だが、ジェミニは色を間違えてしまった。
詫びを口にする前に、段取りのまとめ係の男がどうすればと顔面を蒼白にして慌て出した。
王族の某系貴族の仕事がほとんどで、今回ドレスもそう言った方の依頼のドレスだろうと、ああ、と男は打ちひしがれた。
ジェミニはどうすれば良いか自身も顔色を失くしながら聞けば、とんでもない賠償額が発生し、ジェミニは勿論、その家族親戚にまで及んでも払いきれないだろうと、力を失くしながらその男は言った。
益々血の気が引き、その場にへたり込むようにしたジェミニに追い討ちを掛けるようにまとめ係は言った。
「娼館に…娼館にでも身売りして、前金を用意しろ。そうでもしなければ…」
「どうしたんだ。何を騒いでいる」
ちょうど作業の進み具合を確認しに来ていた大元の雇主だと言う男がその部屋へ入り、まとめ係の男から話を聞き、慌てる様子もなく言った。
「雇ったこちら側に責任がある。賠償はこちらで持つので問題ない」
「で、ですが、いくらになるのか想像も付かない金額になりますよ。下手すれば店舗を全て手放して…。それだけじゃなく爵位も返上しなければならないんじゃないですか…」
納得済みだと男は首を横に振る。
それを見てまとめ係はジェミニに向き直り、小刻みに震えているその腕を掴んだ。
「君のミスなのに、君が何も問われないのはおかしいだろ!…今からでも娼館に行け!ほら、行くぞ!」
それに従うでも抵抗するでもなく、ジェミニは立ち上がらされた。
「やめないか。もう良い。後のことはフランツと相談して何とかする。今日はとりあえず君達は帰ってくれ」
「オーナー…」
ジェミニの腕からだらりと腕を離し、肩を落としながらまとめ係は部屋を後にした。
茫然自失となり立ち尽くしたままのジェミニにオーナーは改めて声を掛けた。
「君も、帰るんだ」
「で、でも…。…わ、わたし…娼館に…」
先ほどのまとめ係に言われた言葉をそのまま口にするジェミニに、怒りを滲ませるように目を細め、オーナーは言った。
「娼館がどんな所かも分からない様な君に勤まるような場所じゃないんだ!それに君に責任を問うつもりは無い!」
「で、でも…。…わたしのミスです。大金をお支払いするには…、家族にも迷惑を掛けられません…。だから…」
はぁ、とため息を吐き男は言った。
「それなら君を私が買おう」
男もこれからのことを考え苛立ちがあったのだろう。
身体を売ることを口にしながら、その本当の意味さえ理解出来ないほど混乱していたジェミニを男はそのまま別室へと連れ込んだ。
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新たに工房で働き出したその人は、今の工房は勿論、王都などでも名のあるデザイナーの専属針子でしか携わることの出来ない仕事を、以前はしていたことがあると言い、こちらでも、度々話を貰って請け負っていたが、子供が小さくそう頻繁に泊まり込みでの作業は出来なくなり、通いで済む工房で働き出した。
だが、今回はどうしてもと頼まれ困っている、と相談してきた。
リオベルのデザイン盗用騒ぎで、後をつけるような真似までしたが、実は勘違いだったと知り、技術不足の自分でも代わりになれるのかと、お詫びの意味も込めて申し出たところ、秘匿を厳守することと、暫く泊まり込みで作業が出来るなら問題無いと、その申し出をその人は喜んだ。
泊まり込み程度で済むとその時は思っていた。
「君、これはどういうことだ!」
徹底的に秘匿を貫くために、それぞれの部屋に別れての作業をするのだと言われ、ジェミニはパタンナーが起こした型紙から型取りをする仕事をしていた。
いくつかの布巻きが予め用意されていたため、指示通りに型取りをした筈だった。
間違えないよう、手触りでも布を覚えて。
だが、ジェミニは色を間違えてしまった。
詫びを口にする前に、段取りのまとめ係の男がどうすればと顔面を蒼白にして慌て出した。
王族の某系貴族の仕事がほとんどで、今回ドレスもそう言った方の依頼のドレスだろうと、ああ、と男は打ちひしがれた。
ジェミニはどうすれば良いか自身も顔色を失くしながら聞けば、とんでもない賠償額が発生し、ジェミニは勿論、その家族親戚にまで及んでも払いきれないだろうと、力を失くしながらその男は言った。
益々血の気が引き、その場にへたり込むようにしたジェミニに追い討ちを掛けるようにまとめ係は言った。
「娼館に…娼館にでも身売りして、前金を用意しろ。そうでもしなければ…」
「どうしたんだ。何を騒いでいる」
ちょうど作業の進み具合を確認しに来ていた大元の雇主だと言う男がその部屋へ入り、まとめ係の男から話を聞き、慌てる様子もなく言った。
「雇ったこちら側に責任がある。賠償はこちらで持つので問題ない」
「で、ですが、いくらになるのか想像も付かない金額になりますよ。下手すれば店舗を全て手放して…。それだけじゃなく爵位も返上しなければならないんじゃないですか…」
納得済みだと男は首を横に振る。
それを見てまとめ係はジェミニに向き直り、小刻みに震えているその腕を掴んだ。
「君のミスなのに、君が何も問われないのはおかしいだろ!…今からでも娼館に行け!ほら、行くぞ!」
それに従うでも抵抗するでもなく、ジェミニは立ち上がらされた。
「やめないか。もう良い。後のことはフランツと相談して何とかする。今日はとりあえず君達は帰ってくれ」
「オーナー…」
ジェミニの腕からだらりと腕を離し、肩を落としながらまとめ係は部屋を後にした。
茫然自失となり立ち尽くしたままのジェミニにオーナーは改めて声を掛けた。
「君も、帰るんだ」
「で、でも…。…わ、わたし…娼館に…」
先ほどのまとめ係に言われた言葉をそのまま口にするジェミニに、怒りを滲ませるように目を細め、オーナーは言った。
「娼館がどんな所かも分からない様な君に勤まるような場所じゃないんだ!それに君に責任を問うつもりは無い!」
「で、でも…。…わたしのミスです。大金をお支払いするには…、家族にも迷惑を掛けられません…。だから…」
はぁ、とため息を吐き男は言った。
「それなら君を私が買おう」
男もこれからのことを考え苛立ちがあったのだろう。
身体を売ることを口にしながら、その本当の意味さえ理解出来ないほど混乱していたジェミニを男はそのまま別室へと連れ込んだ。
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