上 下
51 / 55

ジェミニとの再会

しおりを挟む
 マダムの邸宅に戻って来たリオベルは、先程のブティックの店員の話から、友人が訪ねて来ること、その友人が自分にデザインを依頼するかもしれないことを伝え、依頼を受けることの許可を事前に取っておいた。
 

 
 門前でうろうろと落ち着かない様子でジェミニを待ちつつ、何から問えば良いのかずっと考えていた。


 二頭立ての馬車が、邸宅まで続く緩やかな坂道をこちらに向かって来るのが見えた。
 爪先立ちになっても体を捩っても馬車に乗る人物など見えるはずもないのだが、リオベルは何度も馬車の窓を確認する。


 そしてゆっくりと御者が馬の手綱を引き馬車を停めた。


 扉を開け先に降りてきたのは壮年期後半と見られる男性。
 後から降りる者に手を延べ、愛しみ深く真綿を包むようにされるエスコート。
 そのエスコートを受け降りてきたのは、スタンドからーのデイドレスにケープを纏い、ほんのりと化粧を施された、リオベルと同じぐらいの年若い女性。


 じっとその人を確かめようにリオベルは見つめていた。
 自分達の訪問を知っていたかのように、待っていたリオベルに驚きの表情を浮かべたかのは一瞬で、直ぐに笑んだ。


「リオベル、…久しぶり。突然…ごめんね」


 気まずそうに相手が名前を呼ぶ。


「ジェミィ…」


 言いたいこと、聞きたいこと。
 溢れそうなほどあった言葉が一つも出てこない。


「ジェミィ、私にも紹介してくれないか」


 付き添った男性がジェミニの腰に手を添えたまま、その目線をジェミニに合わせるように顔を覗き込む。
 その仕草は粗暴な印象は微塵も感じられなかった。
 ほんの数分、離れた場所から見ただけなので、フレックスに聞いていなければ、以前テレサと揉めていた人物だと気づかなかっただろう。


 酷いことをされているのではないかと悪い想像ばかりしていた。
 だが、今見る限りは大丈夫そうだ。
 友人の元へこうして来られるというこはそういうことだろう。
 
 
「ええ。友人でデザイナーのリオベルよ。リオベル、こちらはデュリオス…」

「突然の訪問、すまない。デュリオス・ヒンバレー・カシュアだ」


 紳士的なその振る舞いに応えるべく、リオベルも落ち着くため、一拍おいて返した。


「リオベルです。…私を訪ねて来て下さった、のですよね…。どうぞ、中へ」


 

ーーー




「ジェミィがどうしても君にデザインをお願いしたいと言うのでね」

「…まだデザイナーを名乗ることは出来ませんが、マダムには友人の依頼を受けても良いと許可は取ってあります」


 ジェミニ一人でやって来たのならば、直ぐにでもこれまでのことを尋ねていただろう。
 テレサとの件もある。
 ジェミニと二人切りになれるまで初めは当たり障りのない会話にリオベルは留めた。
 そして、いよいよドレスの話になったタイミングで、リオベルは提案をした。


「オーダーを受けるにあたって、先ずは採寸からさせていただきます」

「デザイン画からではないのかな」

「…はい。いつも、採寸をしながら、希望の形、色、装飾…どんなイメージが良いかをお聞きして、それから何点かのデザイン画を作成させていただいてます。デザインをいくら気に入っていただいても、逆にその方のイメージを損なうことがあってはいけませんから、先に…」


 ブティックのオーナーであるこの男に通用するだろうか。
 不自然な提案だと何か勘ぐられるのでは、と不安が過ったが、堂々とこれが自分のデザイナーとしてのスタイルだと言い切ることにした。


「では別室にて採寸して参ります。その間、こちらでお待ち下さい。ジェミィ…行きましょう」

「…ええ」




 別室に向かいながら、先に歩くリオベルにジェミニがぽつりと言った。


「心配したよね…」

 
 それまで我慢していたリオベルはくるりと振り返り、力の限りジェミニを抱きしめた。


「当たり前じゃない!どうして何の連絡も…。連絡も取れないような状況だったの?」

「…ううん、違うの。色々あって」

「あの人の前では聞くに聞けなかったけど、大丈夫なの?助けが必要?」

「助け?あの、違うの。誤解よ。デュリオスに助けてもらったのはわたしの方なの」

「…えっ、…どういう…?」


 採寸用の部屋に通し、待ち人用の一人掛けの椅子にジェミニを一旦座らせ、その横でリオベルは絨毯に腰を下ろした。


「連絡をしなかったのは…本当にごめん。急に工房を辞めたからびっくりしたよね」

「ただ、お互い忙しくて会えないだけだと思ってたから…」

「うん。わたしもバタバタしてたから。本当は工房も辞めるつもりなんかなかったの。最初はある人の代わりにちょっとだけ、別な針子仕事をするだけのつもりだったから…」

「それでどうして辞めることになったの?」

「わたし…、そこで大変なミスをしちゃって…。でも、それを助けてくれたのが彼なの」



 これまでのジェミニ話を、リオベルは急かすことなく聞いた。



しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...