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狼狽
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「いや、特に契約書とか交わすような雇い方してないからな。繕った物を持参してもらってか、誰かの紹介で雇うかどうか決めてたから、何処に住んでるかまではなぁ…」
オーナーもジェミニと共に辞めていったお針子の住まいは知らなかった。
だが、そのお針子がジェミニも共に辞めると言付かったと言ったらしく、オーナーは実際にジェミニの口から辞めるとは聞いて無いと言った。
人伝で言うことではないので、ジェミニに直接言いに来るよう言ったが、そのお針子曰く、難しいと思いますとだけ言い残したと言う。
「あっ、誰か薬屋で見たとか何とか言ってなかったか?ああ、でもそのお針子も先週で辞めたんだったか」
手に入れることが出来た情報は、ジェミニと共に辞めたお針子を薬屋で見た者が居るということだけ。
結局は、何も分からず仕舞いだった。
ジェミニと会えなくなり、次の季節に変わろうとしている時のことだった。
「リオベルさん、お客様がいらっしゃってます」
陽が天上から少し傾いた時間、マダムの執事が告げた。
マイラーに送り届けてもらうことはあっても、約束無しにここに来ることは無い。
次の約束はまだ先だ。
応接間に案内しておいたと執事に言われ、誰だろう?と不思議に思いながら向かった。
「リオベルちゃん!」
三人掛けのソファに座っていた客が、顔を見るなり、立ち上がり、叫ぶように呼ぶ。
「フレックスさん?…お久しぶりです。…どうしたんですか?」
リオベルが驚きながら向かいの一人掛けソファに歩み寄ると、座ることさえ待ち切れないようにフレックスが口を開いた。
「…、マイラーからジェミニと連絡が取れなくなってると聞いた。どうしてアイツとジェミニが!」
立ち姿のまま、フレックスは緊急の用件を伝えるように、端的に話す。
「4ヶ月になります。…連絡が無くなってから。ところでアイツとは、誰の事なんですか?それと、ジェミニに会えたんです?」
力が抜けたようにドサリと音を立て、フレックスはソファに沈み込む。
それを見て、リオベルもそっとソファに腰掛けた。
「さっき…見たんだ。夜勤当番の巡回終わりに…。ジェミニじゃないと思った…。いつもと違う、ドレスを着て…。腰に手を添えられて馬車に…」
「…ジェミニに間違いなかったんですか?」
「目が、目が合ったんだ。アイツに支えられるように馬車に乗り込む時に…」
その目で見たことを自分でも本当のことだったのか、確認するようにフレックスはぷつり、ぷつり、と話す。
リオベルはもどかしさを我慢し、目を閉じて、ふぅ、とひと息吐いて先を促した。
「アイツと言うことはフレックスさんはその人を知ってるんですね。どこで、ジェミニを見たんです?」
「…前に、ジェミニと…、同じ工房の…。ああ、くそ!どういうことなんだ!」
「…落ち着いて。お茶を淹れて来ますから、待っててください」
「お茶を飲んでる場合じゃないんだ。ジェミニ、アイツに何かされたのかもしれない」
「…、フレックスさん、この後、予定有ります?」
「いや、無い…」
「ジェミニを見た場所に、私を案内してくれますか?」
「……、ああ。一緒に行ってくれると助かる」
リオベルがゆっくり立ち上がると、フレックスもそれに続き、その後はお互い一言も口を開かなかった。
オーナーもジェミニと共に辞めていったお針子の住まいは知らなかった。
だが、そのお針子がジェミニも共に辞めると言付かったと言ったらしく、オーナーは実際にジェミニの口から辞めるとは聞いて無いと言った。
人伝で言うことではないので、ジェミニに直接言いに来るよう言ったが、そのお針子曰く、難しいと思いますとだけ言い残したと言う。
「あっ、誰か薬屋で見たとか何とか言ってなかったか?ああ、でもそのお針子も先週で辞めたんだったか」
手に入れることが出来た情報は、ジェミニと共に辞めたお針子を薬屋で見た者が居るということだけ。
結局は、何も分からず仕舞いだった。
ジェミニと会えなくなり、次の季節に変わろうとしている時のことだった。
「リオベルさん、お客様がいらっしゃってます」
陽が天上から少し傾いた時間、マダムの執事が告げた。
マイラーに送り届けてもらうことはあっても、約束無しにここに来ることは無い。
次の約束はまだ先だ。
応接間に案内しておいたと執事に言われ、誰だろう?と不思議に思いながら向かった。
「リオベルちゃん!」
三人掛けのソファに座っていた客が、顔を見るなり、立ち上がり、叫ぶように呼ぶ。
「フレックスさん?…お久しぶりです。…どうしたんですか?」
リオベルが驚きながら向かいの一人掛けソファに歩み寄ると、座ることさえ待ち切れないようにフレックスが口を開いた。
「…、マイラーからジェミニと連絡が取れなくなってると聞いた。どうしてアイツとジェミニが!」
立ち姿のまま、フレックスは緊急の用件を伝えるように、端的に話す。
「4ヶ月になります。…連絡が無くなってから。ところでアイツとは、誰の事なんですか?それと、ジェミニに会えたんです?」
力が抜けたようにドサリと音を立て、フレックスはソファに沈み込む。
それを見て、リオベルもそっとソファに腰掛けた。
「さっき…見たんだ。夜勤当番の巡回終わりに…。ジェミニじゃないと思った…。いつもと違う、ドレスを着て…。腰に手を添えられて馬車に…」
「…ジェミニに間違いなかったんですか?」
「目が、目が合ったんだ。アイツに支えられるように馬車に乗り込む時に…」
その目で見たことを自分でも本当のことだったのか、確認するようにフレックスはぷつり、ぷつり、と話す。
リオベルはもどかしさを我慢し、目を閉じて、ふぅ、とひと息吐いて先を促した。
「アイツと言うことはフレックスさんはその人を知ってるんですね。どこで、ジェミニを見たんです?」
「…前に、ジェミニと…、同じ工房の…。ああ、くそ!どういうことなんだ!」
「…落ち着いて。お茶を淹れて来ますから、待っててください」
「お茶を飲んでる場合じゃないんだ。ジェミニ、アイツに何かされたのかもしれない」
「…、フレックスさん、この後、予定有ります?」
「いや、無い…」
「ジェミニを見た場所に、私を案内してくれますか?」
「……、ああ。一緒に行ってくれると助かる」
リオベルがゆっくり立ち上がると、フレックスもそれに続き、その後はお互い一言も口を開かなかった。
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